どう違う? 「使いやすさ」と「受けやすさ」 エイズと社会ウェッブ版294

 世の中は総選挙に向けて騒然としていますね。ま、そちらの方はその道のステークホルダー(利害関係者)の皆さんにお任せして・・・と書くと、有権者こそ最大のステークホルダーではないのかという突っ込みがすかさず入りそうですね。

もちろん、その通り、個人のレベルで一票を誰に(あるいはどこに)投じるかは(投じないかも含め)、じっくりと考え、自分で決める必要があります。ただし、あれこれの情報発信や推測に関しては(いずれまた、あれこれと根拠の薄い推測を書きたくなるかもしれませんが)、とりあえず当面は、いまが稼ぎどころの政治メディアの面々にお任せしておきましょう。

したがって、この際、我が道を行くといいますか、当ブログではこの時期に極めて注目率が悪いであろうHIV/エイズ分野の話題にフォーカスを当てていくことにします。

 

厚労省の委託を受けてエイズ予防財団が運営しているHIV/エイズ啓発サイトAPI-Netエイズ予防情報ネット)には、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が20176月に発表した報告書Fast-Track and human rightsの日本語仮訳版『高速対応と人権』が掲載されています。

http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20170821

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《公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結を目指し、国連総会は20166月の「エイズ流行終結に関するハイレベル会合」で、2020年までの高速対応をHIV/エイズ対策の最優先課題として掲げる政治宣言を採択しました。2020年までにHIVの予防、検査、治療の普及を急がない限り、エイズ流行終結は期待できないというメッセージです。

ただし、その緊急性を理由に強権的、あるいは強制的な手法をとるようなことがあれば、目標の実現そのものが不可能になってしまうとの認識に基づき、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が20175月に発表したガイドライン(手引書)です》

 

 ちょっと裏話をすると、英文テキストの日本語仮訳を私が担当し、それをHIV/エイズ診療の専門家である木村哲、白阪琢磨のお二人のエイズ予防財団代表理事に全面監修していただいた労作(自分で言うのも変ですが)です。

 

 歳をとると前置きが長くなりますね。すいません。仮訳はPDF版でぜひお読みいただくとして、ここでは本文中に紹介されている5項目の《HIVサービスの主要人権原則》人権の中から 原則1:サービスの利便性、使いやすさ、受けやすさ、質の確保 の訳語について少し補足の説明を付けておきます。

(ちなみに他の4原則は以下のようになっています)

 原則2:平等で差別がないこと

 原則3:プライバシーと秘密保持

 原則4:個人の尊厳と自立の尊重

 原則5:意味のある形での参加と責任

 

 原則1に戻りましょう。英文ではこうなっています。

 Principle 1: availability, accessibility, acceptability and good quality of HIV service

 困るんだよねえ、こういう風に列挙されても見分けがつかなくて(すいません、愚痴です)。最初の3つの単語は日本語にすると、どれも同じになってしまうような印象です。英文なら語呂合わせの狙いも含めて3連発の意味があるのかもしれませんが、訳語の「利便性」「使いやすさ」「受けやすさ」では苦心の選挙区調整を試みたものの、どうしても同じことを言っている印象は免れません。それに、語呂はよくないわな。

 仮訳版の12ページには、それぞれの意味の違いが解説されているので、現場レベルではそちらも参考にしてください。その部分だけ再掲します。

 

 ・利便性は「公衆衛生の機能および保健医療の施設、製品、サービス、そしてプログラムと情報の量が十分に確保されていなければならない」という意味である

 

 ・使いやすさは「誰もが差別されることなく製品とサービスを使える」という意味であり、そこには身体的な条件や地理的な条件から見た使いやすさ、および経済的、資金的使いやすさ(つまり手頃な価格で利用できるかどうか)も含まれる

 

 ・受けやすさは、すべての「保健施設、製品、サービスが医療倫理を尊重し、文化的に適切なものでなければならない。すなわち個人、少数者、コミュニティによって異なるそれぞれの文化に敬意を払い、ジェンダーおよびライフサイクルによって求めるものが異なることに配慮し、同時に秘密を保持して、そこに関わる人びとの健康状態が改善するよう設計されている」ことを意味している

 

 ・質の確保とは「保健施設、製品、サービスが、文化的に受けやすいものであると同時に、科学的かつ医学的に適切で質の高いもの」であることが含まれている

 

つまり、availability(利便性)は「量的に確保されていること」、accessibility(使いやすさ)は「差別なく使えること」、acceptability(受けやすさ)は「個別の事情に配慮すること」といったあたりでしょうか。

説明の中には、「経済的なaccessibility(使いやすさ)」として、affordability(手ごろな価格)というのも出てきます。確かに高ければ使いにくいけど、ますます混乱してきそうですね