警戒すべき拡大の背景・ロシアのHIV流行 その2 エイズと社会ウェブ版291

19945月にロシアのモスクワで開かれた第4回東欧・中央アジア地域エイズ会議(EECAAC)の開会式で、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長が行ったスピーチ原稿の日本語仮訳をHATプロジェクトのブログに掲載しました。

 http://asajp.at.webry.info/201709/article_6.html

演説そのものの仮訳はHATプロジェクトのブログをご覧いただくとして、ここでは冒頭に付した(解説)、および演説のさわりの部分を紹介しておきます。

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(解説) 少し前の資料ですが、19945月にロシアのモスクワで開かれた第4回東欧・中央アジア地域エイズ会議に出席した国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長の開会式演説です。UNAIDSのサイトに掲載されている演説原稿の日本語仮訳を作成しました。何で3年以上前の演説をいまさら・・・と思われる方もたくさんいらっしゃるでしょうね。

実はロシアはいま、HIV陽性者数が推計で100万人を超え、年間の新規感染も10万人以上という危機的なHIV/エイズの流行の拡大に直面しています。なんでこうなったのかということを考えると、2013年、14年あたりが大きなターニングポイントだったのではないかという印象を受けます。

 少し振り返ってみましょう。2013年には6月にロシア同性愛宣伝禁止法が制定されています。これは同性愛の禁止ではなく、青少年に同性愛を容認するような宣伝をする行為を禁止し、違反者には罰金刑を科すという法律です。

 2014年になると、2月にソチ冬季五輪が開かれ欧米の政治指導者の多くが開会式の出席を取りやめています。同性愛宣伝禁止法に対する抗議だったといわれています。3月にはロシアがクリミア編入を宣言し、欧米主要国とロシアの対立はさらに深刻化します。この結果、G8サミットは2014年からG7サミットに戻ります。

 人権の尊重と注射薬物使用者や男性とセックスをする男性(MSM)といったキーポピュレーションへの支援をHIV/エイズ対策の柱とする欧米諸国とロシアのプーチン政権との対立はHIV/エイズ分野でも鮮明になっていきます。

 UNAIDSはその間に立って、それなりに健闘している様子がシディベ事務局長の演説からも伝わってきます。

 

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かなり難しい演説だったのではないかと思います。シディベさんは会議のホスト国であるロシアをそれなりに持ち上げ、配慮を示しつつ、それでもぎりぎりのところで苦言を呈しています。でも、その健闘もむなしく、ロシアのHIV/エイズの流行は今日の危機的状況を迎えることになってしまいました。以下、演説の一部から。

 

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世界がエイズ終結の議論を始める中で、この会議はいま、私がモスクワに携えてきたいくつかの困難な課題を問い直す勇気を持つべきです。

 

1. 30年もの努力と各国およびパートナーからの大きな投資にもかかわらず、そしてアフリカやアジアのように他の地域では減少しているというのに、なぜ東欧・中央アジア地域は新規HIV感染とエイズ関連の死亡の増加率が世界で最も高いのか。

2. 注射薬物使用者はこの地域で最も影響を受けている集団なのに、いまなお予防と治療を妨げる障壁があるのはどうしてなのか。

3. 東欧・中央アジア地域ではHIV陽性者の抗レトロウイルス治療普及率が30%にとどまっているのはどうしてなのか。しかも、世界保健機関WHO)の新たな治療ガイドラインに従えば、この割合はさらに16%に低下する。

4. ロシアの抗レトロウイルス治療第一選択薬の組み合わせは、どうして一人当たり年間2500ドルもかかるのか。他のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ)諸国では自国生産薬が100ドル以下になっている。

5. 最後に、G20およびBRICS諸国の中で、ロシア連邦だけがHIV流行の拡大を続けているのはどうしてなのか。

 

難しい質問であることは私にもわかっています。しかし、モスクワでいま、これらの問題を議論しないわけにはいきません。