厚生労働省のエイズ動向委員会が8月30日(水)に開かれました。これまでの年4回開催から年2回開催に代わり、今回は昨年(2016年)の新規HIV感染者・患者報告確定値と、今年上半期の報告数が明らかにされました。API-Netで概要と委員長コメントを見ることができます。
2016年の確定値は以下のようになっています。
HIV感染者報告 1011件(過去8位)
エイズ患者報告 437件(過去6位)
計 1448件(過去9位)
年間の報告数は3月末に速報値が発表されています。そのときと比べるとHIV感染者報告が8件増え、エイズ患者報告は同数でした。したがって報告数の合計も8件増です。
確定値の感染経路別では、同性間の性感染がHIV感染者報告で約73%、エイズ患者報告で約55%と多数を占めています。この傾向もここ数年変わっていません。
参考までに、速報値段階の数値を確定値に差し替えた表とグラフを掲載します。まずは表から。
報告全体に占めるエイズ患者報告の割合は検査により早期に感染が把握できたかどうかを見ていく指標とも考えられていますが、こちらも30%前後で横ばいです。
報告数の推移をグラフにするとこんな感じになります。
以下、委員長コメントです。
1.平成 28年は、新規HIV感染者報告数及び新規AIDS患者報告数ともに横這い傾向である。
2.新規HIV感染者及び新規AIDS患者報告の感染経路として、性的接触によるものがそれぞれ90%、81%で、中でも男性同性間性的接触によるものが多い傾向も変わっていない。HIV感染症は予防が可能な感染症である。適切な予防策をとり、HIV感染の可能性があればまず検査を行って頂きたい。
3.献血10万件当たりの陽性件数は昨年に比して減少した。
4.保健所等におけるHIV抗体検査のうち、陽性となった件数は 421 件である。近年の新規HIV感染者報告数の40%以上が、保健所等で診断されていると考えられる。国民の皆様には、保健所等の無料・匿名での相談や検査を積極的に利用いただきたい。
5.新規HIV感染者・新規AIDS患者報告数に占める新規AIDS患者報告数の割合は、約30%のままで推移しており、病気が進行した時点で診断される例が多い。早期発見は個人においては早期治療、社会においては感染 拡大の防止に結びつく。自治体におかれては、予防指針を踏まえ、引き続き利便性に配慮した検査相談体制を推進していただきたい。
蛇足ながら、Facebookにも書いた報告の横ばい傾向についての感想を付け加えておきます。
報告ベースの数値をどうとらえるか。T as P(予防としての治療)がもたらす効果により全体としては今後、減少に向かっていくだろうという評価があります。
一方で、若年層の増加傾向から判断して、必要な人に必要な情報が届いておらず、新規感染はむしろ増加リスクを抱えているのではないかという見方もあります。当面の報告数は横ばいであっても、感染は再び緩やかに拡大するのではないかという認識です。どちらかというと私は後者の危惧を持っています。
国内の流行はこれまで何とか低いレベルで抑えられてきました。その中で男性同性間の性感染が報告ベースですら感染の過半を占めています。最も大きな感染リスクを抱えている層を支援することが有効な対策につながる。そうした認識に基づく対策の成果は地道な目立たないものでしたが、決して小さくはなかったと思います。ただし、そのことに世の中が持続的な関心を維持できるかどうか。地道な努力を社会が支えることができるのか。このあたりも今後の感染動向に大きな影響を与える要因なのではないかと思います。