『高速対応と人権』  エイズと社会ウェブ版282

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告書『高速対応と人権』(Fast-Track and human rights)の日本語仮訳pdf版がAPI-Netエイズ予防情報ネット)に掲載されました。

http://api-net.jfap.or.jp/

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《公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結を目指し、国連総会は20166月の「エイズ流行終結に関するハイレベル会合」で、2020年までの高速対応をHIV/エイズ対策の最優先課題として掲げる政治宣言を採択しました。2020年までにHIVの予防、検査、治療の普及を急がない限り、エイズ流行終結は期待できないというメッセージです。

 ただし、その緊急性を理由に強権的、あるいは強制的な手法をとるようなことがあれば、目標の実現そのものが不可能になってしまうとの認識に基づき、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が20175月に発表したガイダンス(手引書)です。

 『HIV対策の高速対応とエイズ流行終結は、人権を抜きにして実現することはできない』と明記し、その理由と人権を尊重したHIV予防、検査、治療のサービス提供のあり方を示しています》 (API-Netから)

 

 これは日本のエイズ対策関係者にもぜひ読んでおいていただきたい文献ではないか。そう思って翻訳を進めましたが、けっこう時間がかかってしまいました。ま、夏の間に何とか間に合ってよかった。かなり重要な指摘がたくさんあります。

 

《人権原則とアプローチは、HIVサービスが急拡大するときにはとくに重要になる。必要な人にプログラムを届け、最大限の効果をあげ、健康の権利実現を助けることになるからだ。また、潜在的な人権とジェンダーの平等に関する課題を明らかにし、HIV予防、検査、治療サービスの高速対応を急ぐあまり、引き起こされるかもしれない誤りを防ぐことにもなる》

 

 必要な人が健康の権利を実現できるよう必要なサービスを届ける。これは極めて重要です。保健医療従事者がこの点において高い使命感を持って日々の診療や保健サービス提供にあたっていることを疑おうとは、さすがの私も思いません。

でも、それが時として『HIV予防、検査、治療サービスの高速対応を急ぐあまり、引き起こされるかもしれない誤り』につながってしまうこともあるかもしれません。

使命感がせめぎあう微妙な領域ですね。じゃ、どうしたらいいの・・・ということで、ガイダンスには参考資料として、チェックリストがついています。すいません、本文の翻訳作業でへとへとになり、チェックリストの翻訳は省略してしまいました。リクエストがたくさんあるようでしたら、ひと息、入れた後でまた、考えてみますが、まあ、そんなにリクエストは来ないだろうなあ・・・。

 

ガイダンスによると、『HIV予防、検査、治療のサービス拡大に最も関係がある人権原則』は以下の5原則です。

原則1 サービスの利便性、使いやすさ、受けやすさ、質の確保

原則2 平等で差別がないこと

原則3 プライバシーと秘密保持

原則4 個人の尊厳と自立の尊重

原則5 意味のある形での参加と責任

ガイダンスは15の原則ごとに、「どんな原則なのか」「HIV予防、検査、治療の高速対応において、その原則はどのような意味を持つのか」を説明しています。

 

例えば原則4では『HIVサービスを実施する際に、個人の尊厳と自立を尊重し、守り、実現するとは』として、次のような指摘もあります。

 ・HIV検査は自発的な判断により、(a)そこで検査を行うことへのインフォームドコンセントを得たうえで(bHIV検査サービスのWHOガイドラインに沿って、実施しなければならない。同意は常に推定できるものではないので、サービス提供者は定期的にHIV検査を提供する場合でも、毎回必ず、事前にはっきりとしたかたちでインフォームドコンセントを得る(「オプト・イン」)必要がある。同様に、自己検査も自主的な判断に基づくものでなければならず、本人の同意なしに他の人が検査を利用することがあってはならない。

 

 こうした指摘を日本の現状に即して考えれば、今年行われたエイズ予防指針の見直しの議論とも関連して、参考になりそうです。