『観なかったことにできない映画祭』

 少し時間がたってしまいましたが、81日(火)夜、「国連UNHCR難民映画祭2017」の記者会見と上映予定作品の一つ『シリアに生まれて』のプレ上映会が東京・内幸町の日本記者クラブで開かれました。

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 国連難民高等弁務官UNHCR)駐日事務所と特定非営利活動法人国連UNHCR協会が主催し、日本記者クラブは会場提供などで協力するというかたちの会見です。ワーキングメディアの現役記者や私のようなロートル・ローキーのOBだけでなく、難民支援や開発援助分野の方もたくさんみえるという少し異質の会見でもありました。

 高度に情報化が進んだ21世紀の社会では、情報の発信者も受け手も多様化しているので、誰が発信者で誰が受け手なのかという線引きは難しい。私のようにそのどっちでもあり、またどっちでもないような曖昧模糊とした存在も、フリーランスのジャーナリストとして、パソコンで見様見真似の名刺を作成し、細々とお仕事を探していけば、なんとなく棲息が可能。おじさん層にとってはありがたいような切ないような時代でもあります。

今後もこうしたかたちの会見は増えるでしょうね・・・ということで、はるばる鎌倉から新橋駅下車徒歩78分の大遠征を敢行しました。概要というか、例によってとりとめもない感想に終始しそうですが、自称・概要を報告します。

 まず、映画祭の紹介から。

国連UNHCR難民映画祭2017」は『日本で唯一「難民」を題材にした作品を集めた映画祭』で、930日・101日の東京・スパイラルホールを皮切りに、1112日の広島国際会議場での最終上映まで、全国6都市で開催されます。上映作品の紹介やスケジュールについては、公式ホームページがありますので、そちらをご覧ください。

unhcr.refugeefilm.org

 

映画祭の入場は無料ですが、予約申し込みが必要です。1日はその申し込み受付開始の会見でした。テーマは『観なかったことにできない映画祭』。安逸を旨とするおじさんにとっては、かなり厳しいテーマであります。

会見ではUNHCR駐日事務所のダーク・ヘベカー代表が、世界の難民の状況について「先の見えない大変な状況です」と説明しました。

いただいた資料の受け売りで恐縮ですが、難民とは『紛争や宗教・国籍・政治的な意見が違うことによる迫害などが原因で、祖国にいては生命の安全を脅かされるため、やむを得ず他の国に避難しなければならなかった人のこと』です。

このほかに、自国にはいるけれど、難民の定義と同じ事情で家を追われ国内に避難している人もいます。難民および国内避難民も含めた「移動を強いられている人」の数は世界で6560万人にのぼり、さらに無国籍者、帰還者を含めたUNHCRの支援対象者は6770万人に達するということです。

大変な数の人たち一人一人が個別の事情を抱え、個別の、あるいは共通の困難に直面しています。ヘベカー代表は「難民を含め、家を追われている人の数は英国の人口を超えています。しかも、世界で毎日3万人以上が家を追われているのです」と報告しています。参考までに外務省の資料で英国の人口を確認すると、2015年のデータで6511万人。本当ですね。

とくに女性と子供の状況が厳しく、難民の51%18歳未満の子供で占められています。映画祭は難民のおかれた状況をよりよく知ってほしいということで、2006年から毎年開かれています。今年で12回目です。この間、難民危機は一段と深刻化しています。どうすればいいのか。答えはすんなり見つかるものでもないし、単一でもない。難民の発生を未然に防ぐ予防ももちろん大切、しかし、いまここに難民として生きている人たちの生活に対するケアも重要です。エイズ対策とも共通の課題です。参考までに言えば、UNHCR国連合同エイズ計画(UNAIDS)の11の共同スポンサーの一つ。そして、家を追われた人たちは、HIV/エイズ対策の面からもとくに予防やケアのサービスの提供が必要な人たちでもあります。

あまりに問題が大きすぎて無力感にも襲われる。だから、まずは知ってほしい。それも人数やデータだけでなく、その数字の一人一人が具体的な人間であることを、映像を通して知ってほしいというのが、映画祭が続けられてきた趣旨でしょうか。この点もエイズ対策と課題を共有してます。

プレ上映で拝見させていただいた『シリアに生まれて』は、戦火を逃れて難民となったいくつかの家族の中の子供たちを描いています。2015年にシリアを逃れた人たちが欧州を目指し、国際社会が対応すべき重要な課題となった。そのときの子供たちがどうなったのか。すべてを失い、それでも希望は失っていない子供たちの姿、そして、それぞれの個人のレベルでも問題はいまなお解決していない現状が、美しい(つまり、その美しさもまた、つらいということでもある)映像とともに報告されています。詳しくは映画を見てください。

国連UNHCR協会の星野守事務局長は三菱商事を退社し、今年7月に現在のポストに就任したばかりだそうです。映画祭は昨年の4都市開催から6都市開催に増えました。動員予測は?という質問にも「昨年は4600人くらいでした。今年はその倍、1万人は超えてほしい」とズバッと具体的な数字を入れて答えます。商社マンらしい(今は元商社マンだけど)といいますか、メディアの関心をそらさない、この対応は見事。様々なジャンルの才能が問題解決に貢献することを期待したい!と自分のことは棚に上げたうえで、感じたことも付け加えておきましょう。