人生はラグビーである(こともある)

 誰が言ったか、「人生はマラソンである」という格言には、ついついそうだなと納得してしまう説得力がありますね。その人生も35キロ地点を過ぎ、何かにつけて失速気味だなあと感じてしまうおじさん層にはとりわけその思いが強い・・・おっと、脱線してまた愚痴になってきた。軌道を修正しましょう。

 一定の説得力を認めた上で、ここではあえて、人生はマラソンがすべてというわけではない、「ラグビーである(こともある)」と付言しておきましょう。

 「計画策定を失敗するのは、失敗するための計画を作ろうとするからです」(レベル3コーチングマニュアルから)

 もうひと息(ふた息くらいかな)で黄パンツのおじさんとしては、無計画という名の計画も含め、思い当たる節がありすぎるほどあります。参考までに昨日(13日)付のビジネスアイ紙に掲載されたコラムです。

 http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/170314/cpd1703140500001-n1.htm

 

【視点】ラグビー最高峰チームに学ぶ 指導書通りに選手が役割果たす

  60歳を過ぎてから高校時代のラグビー仲間と高齢者ラグビーのチームを作った。60歳以上は赤パンツ、70歳に達すると黄パンツをはくことが許される。

 老化防止に、といった程度の動機だったが、ケガはやはり怖い。危険なプレーは避けまくり、試合にはあえて勝敗にこだわらない成熟した態度で臨む…。

 そんなことがきっかけになり、日本ラグビーフットボール協会のコーチ研修用英文資料の翻訳をお手伝いするめぐり合わせになった。各国協会の国際組織「ワールドラグビー」のパワーポイント資料を昨年秋に翻訳し、12月からはさらに150ページもある上級コーチ用マニュアルに挑んだ。年が明け2月半ばに訳し終えたときには、さすがにもうへとへとだった。

 あくまで下訳なので、研修には専門家の監修を経たうえで使われる。それでも日本ラグビーを最底辺で下支えしているようなどこか誇らしい気分ではある。

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 東京・秩父宮ラグビー場では2月25日、ラグビーの世界最高峰リーグであるスーパーラグビーサンウルブズハリケーンズ戦が行われた。サンウルブズは昨年、スーパーラグビーに日本から初参戦したチームで、1年目は1勝13敗1分。19年ラグビーW杯開催国の日本にとっては代表強化の切り札でもあるのだが、世界の壁は厚い。

今季初戦となるハリケーンズ戦も、結果は83対17で大敗を喫した。

 相手は昨年の優勝チームであり、ニュージーランド代表クラスの名選手がひしめく強豪なので、それでもよく戦った方だと高齢ラガーとしては思う。敗れたとはいえ、開発途上のチームとして希望が持てる試合でもあった。引き続き応援は続けたい。

 ただし、ここで書きたいのはそのことではなく、ハリケーンズの戦い方だ。テレビ中継で試合を見て驚いた。

 もちろん選手個々のスピードやパワーも素晴らしい。だが、それ以上に驚いたのはマニュアルを具現化するようなプレーが随所に再現されていたことだ。

 例えば、ラグビーではスペースを作り、そこにボールを動かすことが基本となる。そのスペースは防御側の選手がいないところではなく、選手が防御のために動いた後の場所(つまり、選手が元にいた場所)にできる。あるいは、パスは受け手をめがけて投げるのではなく、少し前の位置に投げ、受け手は深めの位置から走り込む。

 基本といえばそれまでだが、激しいぶつかり合いの中にあっても、まさしくその基本に沿ってボールが動く。

 逆にサンウルブズはチャンスでノックオンしたり、インターセプトされたりして流れを失う場面が何度もあった。なぜそうなるのか。チームが焦ってくると受け手の位置が浅くなり、パスの出し手はどうしても選手の体にめがけて投げるので、狙われたり、ボールを落としたりしやすくなる。

 そういうときはいったん選手を落ち着かせる手立てが必要になる。

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 チームの強みと弱みを分析する「チームプロファイル」をもとに、基本的な試合の進め方である「ゲームプロファイル」を定める。マニュアルにはそうした準備の手順も段階的に示されていた。

 「ゲームプロファイル」が想定する試合を進めるには、どの地域でどんなプレーが必要になるか。その指針となる「プレーのパターン」とその前提ともいうべき「プレーの原則」、そしてさまざまな場面で個々の選手が果たすべき役割を示す「ファンクショナルロール(機能的役割)」…。そうした分析を積み上げ、最終的に次の試合に向け、彼我の戦力を比較しつつ個別の「ゲームプラン」を策定する。

 「計画策定を失敗するのは、失敗するための計画を作ろうとするからです」

 ラグビー以外で通用しそうな記述も多く個人的には少々耳が痛くもあった。

 訳している間は、ぼんやりと想像していたことが、実際のキックやパスや密集のプレーを見て「こういうことだったのか」と納得できる。このワクワク感。編集を工夫すればラグビーをますます面白く観るための観戦ガイドにもなりそうだ。できればそうした活用法も検討してほしい。