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90-90-90ってなに? 第2回エイズ性感染症に関する小委員会報告3

エイズ・感染症

 少し間があいてしまいましたが、1月23日(月)の第2回エイズ性感染症に関する小委員会の報告を続けます。ほぼ5年ごとのエイズ予防指針と性感染症予防指針改訂に向けた検討を進めている小委員会です。私の関心はエイズ予防指針なので、そちらの報告が中心になりますが、悪しからず。

 第2回会合では、予防指針の項目ごとの論点が検討され「医療の提供」に続いて、発生の予防及びまん延の防止①(普及啓発及び教育)、発生の予防及びまん延の防止②(検査・相談体制)、発生の予防及びまん延の防止③(その他)が取り上げられた・・・ということは前回、さらっと書きました。

 でもよく考えて見ると、その間に「原因の究明」に関する検討も入っていたようです。「原因の究明といっても、原因はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)ですわな」といった程度の話で終わったせいかあまり印象に残らず、ついつい飛ばしてしまいました。すいません。

 ただし、ここでは「国連合同エイズ計画(UNAIDS)が提唱するケアカスケード」の説明があったことは報告しておかなければいけませんね。

 また、発生の予防及びまん延の防止①~③では、OPT-OUT検査、PrEP(曝露前予防投薬)の説明もありました。

 いずれも、現行予防指針には入っていないコンセプトであり、国際的には現在、予防対策の議論の中心となっている考え方でもあります。厚労省のウェブサイトにも資料が掲載されていますが、当ブログでも改めて紹介しておきましょう。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=403928

 

 まず、ケアカスケードについて、資料では次のように説明されています。

 

○2014年9月に国連合同エイズ計画(UNAIDS)が、2030年までにHIV/エイズをコントロールするために提唱した行動目標。

HIV検査、ケアへのつなぎ止め、有効な治療の開始、治療に対するアドヒアランス、ケアの継続という一連のプロセスを評価したもの。

○2020年までに、全HIV感染症/エイズ患者の診断率を90%以上とし、そのうちの90%を定期的な受診に結びつけ、そのうち90%が有効な治療結果を得られることを目標とする「90-90-90 by2020」という行動目標が設定された。

 

 簡潔にまとめられた説明だと思います。さすがですね・・・といいつつ勝手に補足しておくと・・・(下の図はUNAIDSが高速対応目標を説明した図です。90-90-90は2020年までに急いで実現すべき目標。そして2030年にはそれを95-95-95にグレードアップするという位置づけです)。

f:id:miyatak:20170131231235p:plain

 カスケードというのは段々になった滝のことです。つまり、90-90-90と、次第に枝分かれしていく滝のイメージで治療の成果をとらえようという考え方です(あれ、よけい分かりにくいか。以下、具体的に説明を試みます)。

 HIVに感染していても、まず検査を受けて感染が把握できていないと、治療は始められない。だから、検査普及に力を入れ、感染している人の90%は検査で感染が把握できるようにしましょうというのが、90-90-90の最初の90です。

 次の90は、検査でHIV感染が分かった人の90%は有効なHIV治療を受けることができるようにするという目標です。

 つまり、検査で感染が分かった人が90%、そのうち治療を受けられる人が90%ですから、HIVに感染している人の81%が治療を受けているということになります。

 そして3番目の90は、治療を受けている人の90%が治療継続の結果、体内のウイルス量を非常に低い状態に抑えることに成功するという目標です。そうなると、感染している人の81%が治療を受け、さらにそのうちの90%ですから、81×90で、HIVに感染している人の72.9%は治療に成功して体の中のウイルスの量を非常に低い状態に抑えることができているということになります。

 この状態を継続していくことができれば、HIVに感染している人も、エイズを発症することなく、社会生活を続けていけるし、体の中のウイルス量が非常に少ないので他の人に性行為などでHIVが感染することも極めて高い確率で防ぐことにもなる・・・と考えられています。

 最近の研究報告では確か、ほぼゼロと考えても差し支えないというレベルまで感染のリスクは下げられるということのようです(煮え切らない書き方ですいません。医学研究に関しては、自信を持って素人なので、控えめにしています。ご関心のある方はぜひ、HIV/エイズ分野の医学研究の専門家にご確認ください)。

 最近はT as Pということがよく話題になります。「Treatment as Prevention(予防としての治療)」の略ですね。もちろん、治療は患者の利益のために行われるわけですが、その治療によって他の人への感染も防ぐことができる。つまり、予防対策にも大きな成果が期待できる。積極的に検査を推奨し、早期に治療を開始して、しかもそれを継続することが、HIV感染の世界的な流行を拡大から縮小へと反転させる切り札になる。

 それが、新たな予防対策の肝であろうということで、最近5年間、国際会議などで繰り返し議論され、強調もされてきました。

 そのことにあえて異を唱えるつもりはありません。ただし、何かやった気分になりたいのならともかく、ただひたすら検査を受けましょう、治療を受けましょうと唱えているだけでは、「T as P」が現実的に成果をあげることにおそらくなりません。

 現にUNAIDSの報告では、過去5年間、治療は目覚ましいスピードで普及しましたが、成人の新規HIV感染は世界全体で見るとほとんど減っていません。年間200万人前後で横ばいのままです。

 何が足りないのか。お金・・・はもちろんそうなんだけど、それを言っちゃあおしまいだよ・・・という面もあるので、この際、それはおいといて・・・個人的な感想ですが、T as Pは重要です。重要ではありますが、それはいままで続けてきた様々な予防のための努力に取ってかわるという意味で重要なのではありません。ましてや「あ、ご苦労さん、後は治療でやるから任しといて」みたいな調子で、これまでに営々と築き上げてきたHIV陽性者やHIV感染の高いリスクにされている人たちへの支援の努力をちゃらにして、T as Pがそれに取ってかわるがごとき了見が医の側にあるのだとしたら、それは誤りでしょう(ま、そんな了見の医療従事者は、いないとは言わないけれど、極めて少ないとは思います)。

 T as Pは、これまでの予防や支援の努力に取ってかわるものでは決してなく、新たな、しかも有力な追加的手段として、これまでの努力に加えて(つまり、これまでの努力を弱体化させることなく)活用することができれば大きな成果をあげることができるでしょう。

 しつこいようですが、これまでの努力を否定する類いのものではなく、あっちの資金はもういいから、こっちに回してなどというものでもなく、むしろ相乗効果を期待し、たとえばコミュニティセンターへの資金なども、この機会だからこそ、より充実させる必要があるといったまっとうな戦略眼があってこそ、初めて成果が期待できるというべきです。

 こういうことは、昨年6月のエイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合の政治宣言にもちゃんと書いてあります。API-Netには宣言の日本語仮訳PDF版も掲載されているのでぜひご覧ください(相当、長いですよ。訳すのも大変だったんだから)。

http://api-net.jfap.or.jp/status/pdf/UN2016.pdf

 

 今回もまた、ついつい長くなってしまいました。OPT-OUTとPrEPについても説明、というか私の感想を書き、そのうえで日本の現状の中では90-90-90のカスケード戦略をどう受け止めたらいいのかというあたりまで書きたかったのですが、夜も更けてきたことだし、それはまた次回。