世界エイズデー(12月1日)の前後数週間は、紹介したい文献も増え、何かと忙しくなります。したがってツールキット紹介の方は途中で止まっていましたが、再開しましょう。
第6部は、国際労働機関(ILO)のた職場におけるHIV/エイズ対策行動規範などをもとに、スポーツ機関はどのように対応したらいいのか、対応できるのかについて、かなり詳しく取り上げています。以下のような記述も興味深いですね。
『HIVとエイズについて、個別の政策で臨むべきか、それともより広範な慢性疾患の政策で対応すべきなのか、いまも結論ははっきりと出ていません。ほとんどの機関はHIVとエイズについて個別の政策を作ることからスタートしています。パンデミックに迅速かつ明確な対応を取る必要があったこと、そして偏見と差別の解消などHIVとエイズのユニークな課題もあったことなどが、その理由でした。しかし、多くの人にとって、究極的には、他の政策(たとえば、慢性疾患や医療保険、人材確保など)との統合を目指すものでもありました。実際には、多くの機関で包括的なHIVとエイズの政策を開発していくことが、医療保険など関連他分野の効率性を見直すきっかけにもなっています』
今年(2016年)6月に採択された国連総会のHIV/エイズに関する2016政治宣言には「エイズの孤立を脱する」という一項が盛り込まれていました。
HIV/エイズの流行は、様々な分野に影響を及ぼす「例外的な現象」ではありますが、流行への対応は、エイズだけ単独で行うというわけにはいきません。ただし、これまでのやり方の枠組みに押し込めていては到底、対応できないという側面もあります。
『実際には、多くの機関で包括的なHIVとエイズの政策を開発していくことが、医療保険など関連他分野の効率性を見直すきっかけにもなっています』という現状は何年も前から認識されていながら、いまなお「きっかけ」の域を脱していない面もあります。
インテグレーションの相乗効果を考慮しつつ、スポーツ機関での対応を考える。かなり長い章ですが、その参考になる記述もたくさんあるので、ぜひお読みください。
https://stillmed.olympic.org/Documents/Olympism_in_action/HIV_and_Aids/IOC-UNAIDS-MANUAL-EN.pdf
6.1 職場におけるHIV
「私たちはそれぞれ個人のレベルで、HIVの感染を抑え、HIV陽性者への差別をなくすためにできることがあります」
ナワル・エレ・ムタワキル モロッコ、400メートルハードル五輪金メダリスト
各国オリンピック委員会やスポーツクラブ、競技団体、体育協会には、雇用者としての役割もあります。それぞれの組織で働く人の中にも、HIV陽性の人、HIVの流行に大きな影響を受けている人がいるかもしれません。そうした従業員の多くはHIV陽性者であることやエイズで友人や家族を失ったことを知られたくないと思っているかもしれません。また、オープンにそのことを明らかにしたいと思っている人もいるでしょう。
HIVとエイズに対応しようとしても、最初は自分のところでどう対応したらいいのか分からないまま、他の人のために何かをしたいと思っていることがしばしばあります。スポーツ機関は、選手を感染から守り、HIV陽性者に対する差別や偏見をなくしていくだけでは十分ではありません。HIVとエイズについて差別されることなしに安心して話せるよう職場の環境を整える必要もあります。従業員一人一人も、組織も、エイズに対応できるようにしていく必要があるのです。
すべての人に適用できる職場のHIV/エイズ戦略などというものはありません。それぞれのスポーツ機関が自らの雰囲気をよく見て、それに即した解決策をさぐっていく必要があります。ただし、職場における戦略がカバーすべき主要な要素を把握しておくことは可能です。
国際労働機関(ILO)は2001年6月、働く世界におけるHIVとエイズ対策の行動規範を策定しました。IOCも賛同しています。そこには政策策定の際の基本原則、および以下の分野で効果的対応を可能にするための企業、社会、国レベルにおける実用的なガイドラインが示されています。
・HIV予防
・HIV陽性の従業員、もしくはHIVの流行に影響を受けた従業員へのケアと支援
・HIVにまつわる偏見と差別の解消
(囲み)
あなたのスポーツ機関は以下の活動により、エイズに対応できるようになります。
政策作り
・ IOCのHIV/エイズ政策(資料1参照)を学ぶ。各国オリンピック委員会に必要な活動が概説されているので、各スポーツ機関はどうしたらいいのかを知ることができます。
・ あなたの機関でHIVとエイズに関する職場規則を策定し、実行する。
・ いかなる規則にもHIVとエイズに関するジェンダーの要素がきちんと反映できるようにする。
・ スポーツの場における偏見と差別に関する調査、研究を奨励し、支援する。
HIV予防活動
・ 所属する人たちがHIVとエイズに関して事実を学べるよう助ける。
・ コーチ、役員、選手(トレーナーのトレーニング)を対象にしたトレーニングプログラムにHIV啓発のための研修を必ず含める。
・ スポーツの場での負傷や皮膚の感染の処置には必ず血液のユニバーサルプリコーションを実行する。
・ 自発的な(秘密の守れる)HIV検査とカウンセリングを奨励し、可能なら提供する。
ケアと支援
・ HIV陽性者にスポーツへの参加を保障する。
・ HIV陽性者について、所属クラブやコミュニティで学び、一緒に活動したり、支援したりできるようにする。
・ HIV陽性者に対する不安を感じていたら、いかなるものであっても、それを認識し、HIV陽性者を恐れることがないよう、HIVとエイズに関する事実を学ぶ。
・ コミュニティがHIV陽性者にとって安全に過ごせる場であるよう、コミュニティ組織の活動を助ける。
・ HIV陽性者を含め、いかなる集団の人に対しても、不親切であったり、否定的であったりするようなコメントは避ける。
・ 信仰心は、人を気遣えるようなかたちで生かす。
・ 世界エイズデーの活動に参加したり、レッドリボンを着けたりすることは、エイズ対策への理解を深め、HIV陽性者とのチームスピリットを示す方法の一つである。
アドボカシー
・ 治療へのアクセス拡大や偏見と闘うキャンペーンなど、各地域、全国、国際レベルでのアドボカシー活動を支援する。 (囲み終わり)
皆さんの活動やプログラムが地元のエイズ対策と連携することは大切です。研修やHIVとエイズに関する教材の提供、エイズ教育などの面で助けになってくれるでしょう。国内オリンピック委員会を含む各国のスポーツ協議会や協会には基本的なコーチの研修活動の際にHIVとエイズを組み込んだり、教材を配ったりできるかもしれません。活動やメッセージを調整していくために全国エイズ協議会とも連絡を取ってください。パートナーシップの仲介や素材の提供などを助けてくれるはずです。
HIVとエイズについて、個別の政策で臨むべきか、それともより広範な慢性疾患の政策で対応すべきなのか、いまも結論ははっきりと出ていません。ほとんどの機関はHIVとエイズについて個別の政策を作ることからスタートしています。パンデミックに迅速かつ明確な対応を取る必要があったこと、そして偏見と差別の解消などHIVとエイズのユニークな課題もあったことなどが、その理由でした。しかし、多くの人にとって、究極的には、他の政策(たとえば、慢性疾患や医療保険、人材確保など)との統合を目指すものでもありました。実際には、多くの機関で包括的なHIVとエイズの政策を開発していくことが、医療保険など関連他分野の効率性を見直すきっかけにもなっています。
HIVとエイズに関する職場の政策を策定する際には、以下の項目を含める必要があります。
・ 政策の目的
・ 定義
・ 実施に誰が責任を持つのか
・ 秘密保持
・ ジェンダーへの目配り
・ より安全な行動(性行動、その他)
・ 業務上、あるいはその他のウイルス曝露の機会
・ 健康保険(配偶者、パートナー、子供)
・ 受けられる治療(日和見感染症、病理学、抗レトロウイルス治療)
・ 自発的なカウンセリングと検査
・ HIV陽性者の積極的な雇用
・ HIVスクリーニングと雇用
・ 情報と研修
・ 適切な宿泊施設
・ 偏見と差別
・ 治療へのユニバーサルアクセスのためのアドボカシー
・ 旅行
・ 任務と予防接種
・ 障害
・ 雇用の終結
・ 懲戒と異議申し立ての手続き
資料:
ILO 働く世界におけるHIV/エイズ行動規範。エイズの流行に直面して、ILOが安全でまっとうな就労と社会の環境を作り、職場における行動の枠組みを示すためにまとめた。企業、社会、そして全国レベルにおける効果的な対応が可能になるよう政策策定のための基本原則と実用的なガイドラインが示されている。
エイズに関する企業/労働界の対応(BRTA/LRTA)プログラム、米疾病対策センター。 マネージャー用教本は企業が職場における包括的なHIVとエイズ対策プログラムを策定するために必要な情報源がすべて含まれている。教本は英語版とスペイン語版がある。
http://www.hivatwork.org/tools/business-managers.com
ポジティブに働く:職場のHIV/エイズ対策に取り組むNGOのためのガイド、英国エイズ・コンソーシアム。 職場における戦略の策定や様々なNGOと企業が取り組むための方法について主要な課題が網羅されている。戦略を成功させるには何が必要かを取り上げ、参考文献のリストも紹介されている
http://www.aidsconsortium.org.uk/Workplace%20Policy/workplaceintro.htm
職場におけるHIV/エイズ対策:管理者のための活動ガイド。ファミリーヘルス・インターナショナルのIMPACTプロジェクトによる職場の行動ガイド。途上国で職場の対策プログラムを作るにはどうしたらいいのか、そして、どうすべきではないのかについて、管理職に助言するための実用的で、みんなで読めるハウツーガイド。職場におけるHIV対策について雇用者の体験に基づいた率直な報告と教訓が示されている。
http://www.fhi.orglen/HIVAIDS/publguide/Workplace_HIV_program_guide.htm
6.3 従業員へのHIV教育
職員を教育するには、最初に管理職レベルの人がHIVとエイズについて事実を学べるよう研修することが大切です。マネージャーがHIV/エイズに関する事実を理解したうえで、あなたのスポーツ機関の対策は以下のことを守らなければなりません。
・ 従業員の質問に答えられるようにしておく。
・ 支援やより詳しい情報を必要とする職員のために紹介先を調べておく。
・ スポーツ組織で起きるHIV/エイズ問題にきちんと対応できるようにしておく。
・ 従業員の研修参加を奨励し、支援する。
以下に紹介する活動は、マネージャーにも従業員にも当てはめることができます。
研修はほとんどの(すべてとは言えないにしても)HIVとエイズに関する基礎知識をカバーし、法律とスポーツ機関の方針について説明し、地元のHIV関連サービスの情報を伝えるよい機会になる。研修は少なくとも年1回は定期的に開き、大人数の従業員を採用する際などには、開催頻度も増やすべきである。
研修は自発的な検査と相談のセンターやHIV陽性者団体、エイズサービス組織など地元のHIV/エイズ関連機関と連絡を取りながら、開いていく必要がある。また、地元のエイズの状況を1ページにまとめた資料を配り、質問を受けられるようにしておくべきである。
スポーツは直接、健康にかかわるものなので、HIVの情報を含む健康関連情報はどの資料棚にも入れておいてください。受け身の対応策ではありますが、こうした資料はコミュニティが事実に基づき、知識を深めていくための素材を伝えていくことになり、HIV陽性のアスリートの存在が公になったときに、コミュニティが否定的な対応をとるリスクを減らしていきます。HIV陽性のアスリートに対する社会の否定的な対応が気がかりな人は、コミュニティベースの教育や研修の実施を検討してください。
少なくとも以下のことが必要です。
・ 従業員は男性用、女性用コンドーム使用のデモンストレーションを含むHIVとエイズの指導研修に参加する。(付録4参照)
・ 従業員はHIV陽性者への配慮をわきまえ、HIVには誰もが感染する可能性があるということを認識する研修に必ず参加する。
・ 職場のよく見えるところにHIVとエイズのポスターを張り出す。
以下のページでは、研修開始の際のアイスブレーカー(緊張ほぐし)を含め、次のような活動について説明しています。
・ HIVの感染
・ コンドーム使用
・ 自発的(で秘密が守られる)カウンセリングと検査
・ 偏見と差別
・ 助け合える環境
第4章 知っておく必要があること、第5章 スポーツとHIV、付録4 コンドーム使用 を参考にしてください。
6.3.1 アイスブレーカー
参加者がきちんと考え、話せるようにするものです。それがHIV予防の核であり、従業員の態度を行動へと変えていきます。
楽しくやりましょう。可能ならば何日か前にあらかじめ質問を伝えておくか、当日ならば結果を十分に集約できるだけの時間をとっておいてください。
ステップ1
質問の答えは書いてもらうようにしてください。回答用紙は回収するけれど、匿名で誰が書いたのかは分からないようにすることを伝えてください。
ステップ2
以下の質問のいくつか、あるいはすべてについて尋ねてください。いくつかの質問を外し、他の質問を加えてもかまいません。
・ 性行為を最初に経験したのは何歳のときか。正確な年齢を覚えていなければ大体でも構いません(性行為の経験とは具体的に何を意味しているのかと聞かれたら、それはご自身で判断するようにと答えてください)。
・ セックスで最初にコンドームを使用したのは何歳のときか(使ったことがないときは「なし」と答えてください)。
・ 女性用コンドームを最初に使ったのは何歳のときですか(使ったことがないときは「なし」と答えてください)。
・ 男性用コンドームの使い方のデモンストレーションに参加して自信がつきましたか。
・ 女性用コンドームの使い方のデモンストレーションに参加して自信がつきましたか。
・ 酒に酔ったり、薬物を使用したりしてセックスを行ったことがありますか。
・ 結婚しているか(あるいは、していたか)、長い間関係を持っていた人がいた場合、その人(たとえば夫、妻、パートナー)以外とセックスをしたことがありますか。
・ 結婚しているか(あるいは、していたか)、長い間関係を持っていた人がいた場合、その人と信頼関係や個人的な感染の可能性を含め、HIVについてじっくり話しをしたことがありますか。
・ 旅行の際に必ずコンドームを携行していますか。
・ 性感染症にかかったことがありますか。
・ HIVについて知って以降、感染しているかどうか分からない人との間で、感染防護策をとらないセックスをしたことがありますか。
・ HIV検査を受けたことがありますか。
・ HIV検査を受けたことがある人は、それ以降に感染しているかどうか分からない人との間で、コンドームを使わずにセックスをしたことがありますか。
・ あなたは、HIV陽性ですか、HIV陰性ですか、どちらだか分からない、ですか。
性別の結果を示したり、何らかの偏りを見るために性別を確認したりすることも有効かもしれません。
ステップ3
回答用紙を集め、その結果を報告しましょう。その際のいくつかのアイデアです。
・ 男女別に結果を示す。
・ 質問に関連したデータを示す。たとえば最初の性体験年齢と最初のコンドーム使用年齢との差など。
・ HIV検査を受けたことがないのに自分はHIV陰性だと思っているといった回答がある場合には、この点を指摘する。
・ HIV検査を受けた後で感染しているかどうか分からない相手と感染防護策をとらないセックスをしたのに、自分は感染していないと答えた人がいたらその点を指摘する。
ステップ4
結果について話し合う。参加者自身がそれぞれのHIV感染の可能性について話し合ってください。「ナマのデータ」を共有したうえで、その結果をどう考えるのかを検討していくことで、話し合いは実りあるものになるでしょう。
6.3.2 HIVの感染
第4章 知っておく必要があること、第5章 スポーツとHIVを参考にしてください。
1. 全般的な学習
以下の方法を選択しつつ、地元における主要なHIV感染経路を簡単に確認します。
・ HIVの主要感染経路について尋ねる。
・ HIV感染についての簡単な解説やHIV感染が自国に与える影響について、あまり専門技術的な内容に立ち入らないよう分かりやすく地元の専門家に説明してもらう。
・ 地元のHIV陽性者に話してもらう。HIVに感染して生きることのリアリティを最も説得力のあるかたちで説明できるのは、HIV陽性者であることが多い。
2. こんなときは(カッコ内は補足説明を含む)
ケース1
スタッフパーティでHIV陽性者が料理の準備を手伝っています。ポットシチューの上でタマネギを切っていたらナイフで指を切り、血液が数滴、シチューに入ってしまいました。
(リスクなし:シチューを煮る熱でウイルスは直ちに殺されてしまいます)
ケース2
HIV陽性者が他の人の送別会に出席しました。誰もが送られる人にキスをします。HIV陽性者もそうしました。
(リスクなし:体液の交換がないカジュアルなキスではHIVは感染しません)
ケース3
お酒が自由に飲めるパーティに出席しました。しばらく時間が過ぎてから2人でパーティ会場を脱けだしホテルの部屋に戻ってセックスをしました。どちらもコンドームは持っていなかったけれど、セックスを続けました。行為の後で、注意深くアルコールで彼または彼女の性器を拭きました。
(高リスク:性行為の後できれいに拭いてもHIV感染の予防にはなりません。予防になるのはセーファーセックスです)
ケース4
選手2人が一緒に旅行をしました。ホテルがなかったので同じ部屋に泊まりました。翌朝、1人がカミソリを忘れたことに気付きました。重要な会合があるので髭を剃らないわけにはいきません。彼はもう1人のカミソリを借りました。
(低リスク:HIVは体外でも液体中ならしばらく生きています。乾燥した血液では生きていけません。このシナリオでは非常に限定されたリスクがあります)
ケース5
HIV陽性者がスポーツイベントに行く途中で交通事故に遭いました。ケガをして出血しています。他の人がきれいな布で負傷者の傷口付近を止血しようとしました。
(リスクなし:とりわけ手当をした人に何の傷もなければ。血液は外に流れ出し、救助者の体内には入らないので、血液に触れてもそれでHIV感染が成立するわけではありません)
6.3.3 コンドーム使用
付録4. のコンドームの情報を参考にしてください。
1.一般的知識の学習
・ 男性用および女性用コンドームのデモンストレーションを行う。参加者が男性用、女性用の両方のコンドームが正確に使用できるようにする。
・ コンドームに関する事実、意見、誤った噂:別々の事実、意見、誤った噂について参加者同士で話し合う。
・ コンドームを使うようパートナーと交渉する方法を全員で話し合う。
2.コンドーム使用の交渉
ステップ1: 一方がコンドーム使用を望んでも、他方が望まない場合がある。そうした設定でロールプレイイングを行う。
ステップ2: 参加者を小グループに分け、以下の項目いくつかについて意見を聞く。
・ 「でも、コンドームをしたんじゃ本当のセックスにならない」
・ 「でも、コンドームが破れない保証はないよ」
・ 「膣や肛門の中に置き忘れてしまうかもしれないから使いたくない」
・ 「ピルを使っているから妊娠はしない」
・ 「でも、コンドームにHIVが付いて感染の原因になると聞いたことがある」
・ 「互いに相手としかセックスしないのになぜコンドームを付けなければいけないのか」
・ 「でもコンドームを付けたらセックスが楽しくない」
・ 「セックスのたびに使っていたら破産してしまう。コンドームは高すぎる」
・ 「コンドームはいらいらして苦痛のもとだ」
・ 「コンドームを使うと親密感が薄れる」
・ 「コンドームは私のペニスには小さすぎる。きつくて苦しい」
・ 「わが国に送られるコンドームは質が悪い。使えないよ」
・ 「コンドームは血液循環を止め、ペニスを窒息させる」
上記いずれかのセリフ(あるいは他の思いついたセリフ)でロールプレイを始め、相手にコンドームを使用するよう交渉する。楽しくやりましょう。
ステップ3:
全体で集まり、各グループが選んだロールプレイをそれぞれ再演する。
ステップ4:
どのようにコンドーム使用を交渉したらいいのか、話し合う。
6.3.4 自発的な(秘密が守れる)カウンセリングと検査
下記質問に、本当か間違いかで答えてください。参加者が答えた後、正解を示し、それを理解してもらえるようにしましょう。その理由も示してあります。
1 感染のリスクがあると思ったときに人はしばしば検査を受けようと思う。
本当
直近の曝露機会は人が検査を受ける大きな理由になっています。「他の人の健康を守りたい」「よく知らないから」がその他の理由です。
2 検査で陽性と分かっても、HIV陽性者だというレッテルを貼られるだけなので価値はない。他に自分にできることなどない。
間違い
HIV検査に向き合うことは簡単ではないが、受ける価値はあります。HIV陽性者はいま、適切なケアと治療を受ければ、健康状態を長く保っていけるようになっています。また、自分の感染を知ることで他の人への感染防ぐ方法をとれるようにもなります。
間違い
HIV検査は体内のHIV抗体の有無を調べ、HIVに感染しているかどうかを判断する検査です。検出に十分な量の抗体が体内にできるには最大6カ月の期間が必要なことも頭に入れておいてください。その人の血液にHIVの抗体があれば、それはHIVに感染しているということになります。
HIV検査でエイズを発症しているかどうかを示すことはできません。それを判断できるのは、あなたの主治医です。ほとんどのHIV陽性者は感染してから5~10年の間、非常に健康に見えるし、本人もそう感じているということも知っておいた方がいいでしょう。エイズ関連の症状が出てくるのはその後です。
4 寝汗や体重減少などの症状はHIVに感染していることを示しているのかもしれない。
本当
ただし、他の病気でもこうした症状が見られることはあります。医師に診てもらうべきです。感染しているかどうかを確かめる唯一の方法は検査を受けることです。HIV陽性の人が何年もの間、何の症状もないことはしばしばあります。HIVに感染しているかどうか分からないのなら、待っていないで検査を受けてください。
5 私のパートナーは検査で陰性だった。私も感染していないということだ。
間違い
パートナーの検査結果はあなたが感染しているかどうかを示すものではありません。自分の感染の有無を調べる唯一の方法は自分で検査を受けることです。
6 HIVに感染しているかどうか分からない人と感染防護策をとらずにセックスをしたらHIV検査を受けるべきである。
本当。
感染防護策をとらずに(たとえばコンドームを使わずに)肛門または膣に挿入するセックスを行った人は検査を受けることをお勧めします。オーラルセックスにもリスクはありますが、感染防護策をとらない肛門または膣性交よりは低いでしょう。
7 注射薬物使用者と注射針の共有や感染防護策をとらないセックスをしたら、HIV検査を受けるべきだ。
本当
注射薬物使用者のパートナー(配偶者、性パートナー、針共有パートナー)には、HIV検査が推奨されます。
8 供血者が誰だか分からない輸血を受けたらHIV検査を受けるべきだ。
本当
よく知らない供血者からの輸血、血液成分を受けるときには、とりわけあなたの国で供血血液のスクリーニングが始まっていない場合には、HIV検査を受けることが推奨されます。
9 私がHIV検査を受けると、その結果は他の人に知らされる。
間違い
HIV検査の結果は秘密が守られます。どの検査センターも秘密保持の原則を尊重しています。誰に結果を伝えるのかを決めるのはあなた自身だけです。
10 医療機関は従業員を雇うときや定期健康診断のときにHIVのルーティーン検査を行っている。
間違い
HIV検査は採用時の健康診断に含まれるものではないし、ルーティーンに行われるものでもありません。資格のある検査センターで検査を受けてください。
6.3.5 偏見と差別
一般向けに広く学ぶための活動
1 ロールプレイ
実際にあった話や仮定の話、地元でHIV/エイズに対応した際のケーススタディなどを活用してください。参加者に役を演じてもらいます。たとえば2人の従業員のロールプレイの場面です。1人はHIV陽性者、そしてもう1人はHIV陽性の人との接触を恐れています。差別の強い環境のもとで働くことをHIV陽性者はどう感じているのか、どうして他の人は恐れるのか、話し合ってください。ロールプレイで得られた新たな認識や態度、感覚、価値観などについても話し合ってください。
2 宗教的な偏見
特定の信仰や宗教を名指しせず、宗教もしくは信仰に基づく組織がHIV陽性者に対する偏見を生み出していく過程について、カラーカードを配り、書いてもらいます。別のカラーカードには宗教もしくは信仰に基づく組織がHIV感染の予防やHIV陽性者・HIVの流行に影響を受けた人への支援をどのように行っているのかということを書いてください。カードを集め、いくつかに分類します。そのカードをもとにして、宗教もしくは信仰に基づく組織HIVとエイズについて与える肯定的な影響と否定的な影響を話し合いましょう。
3 ニュース記事
過去にさかのぼって、HIVとエイズに関する活動、HIV陽性者やHIVに影響を受けている人への地元の態度などを反映している新聞、雑誌記事を集めてください。HIV感染の高いリスクにさらされている集団(男性とセックスをする男性、自宅から遠く離れて働く人、トラック運転手、鉱山労働者、薬物使用者、セックスワーカーなど)の記事を集めてください。
記事をもとに発表を行ったり、それらの記事を読んでもらったりします。メディアがどのように地元の人たちの態度に影響を及ぼしているか、これらの記事がHIVとエイズに対する私たちの態度にどのような影響を与えるのかなどについて話し合ってください。そして、何が私たちの態度や行動を変えるのかについても話し合ってください。
4 ディベートゲーム
HIVに関する見解を事前に用意しておきます。「賛成」グループと「反対」グループに分かれ、その見解について議論しましょう。「防御」側は必ずしもその見解に個人的に同意していなくても構いません。個人的に同意できない場合でも、悪魔の代理人の役割を果たしてもらいます。以下の見解が材料として参考になるかもしれません。この他のものでも構いません。
・ セックスの前には必ず相手に対し、自分がHIVに感染しているかどうかを告げるべきである。
・ 公共の場でコンドームを配布できるようにしておくべきである。
・ 職場における男性の優位性に対し、女性が常に抗議できるようにしておかなければならない。
・ 配偶者またはパートナーが100%貞節であることを信じるべきである。
・ 就職の際には必ずHIV検査を受けるべきである。
・ HIV陽性者が安心して同僚に感染の事実を告げられるようにすべきである。
・ スポーツは異なる性的指向を持つ人に開かれていなければならない。
・ HIV陽性のコーチが若い選手を指導することを認めるべきである。
ディベートゲームはHIVとエイズ、および性行動に関する議論や認識を深めるために行うものです。
ゲームを以下のように変えていくこともできます。床にテープを貼って、部屋を半分に分け、「賛成」「反対」の表示を行います。いくつかの見解を読み上げ、本心から、あるいは悪魔の代理人として、どちらかを選んでもらいましょう。完全に同意する人は表示の直近に集まり、はっきりしないときには真ん中あたりに位置することもできます。参加者にどうしてその位置を選んだのか尋ねてください。
5 その他の活動
・偏見を助長するようなスポーツ用語、歌、身振り、伝統などについて取り上げ、相手を配慮し、価値を押しつけるようなことのない他の用語の使うようにする。
・地元のアスリートと協力してHIVと反スティグマのポスターを作る。
6.3.6 助け合える雰囲気づくり
所属するスポーツ組織や同僚が、HIV陽性者やHIVの流行に影響を受けている人たちに肯定的な環境を作るには何をしたらいいのか、参加者で話し合う。
2 アドボカシー・メッセージを書く
参加者を小人数のグループに分け、所属するスポーツ組織や同僚たちがHIV陽性者やHIVの流行に影響を受けた人たちを支える方法を示すために前向きなアドボカシーのメッセージを作る。各グループひとつのメッセージにしぼり、地元制作のポスターやEメールメッセージ、エイズキャンペーン活動で活用していく。
参加者には匿名でHIVとエイズ、ならびにHIV陽性者に対して抱いている恐怖を書き付けてもらいます。それからカードを集め類似する内容ごとに分類します。ひとつひとつのクラスターを取り上げ、どのようにすればHIV感染を防げるのか、話し合って、迷信を捨てていきます。偏見や差別に取り組むためにHIV陽性者に対して持たれるかもしれないいかなる恐怖についても関心をはらってください。
4 ラベリングゲーム
「HIV陽性」「ふしだらな人」「セックスワーカー」「売春婦」「シングルマザー」「レズビアン」「ホモセクシュアル」「薬物中毒」といった地元で差別的とされている用語でレッテルを作り、本人に見えないように背中に貼っていく。地元ではレッテルを貼られた人がどのように見られているのかということを別の人が説明し、レッテルを貼られている人はその説明や質問からどんなレッテルなのか推測していく。この演習によって、他の人に貼るレッテルがいかにステレオタイプであり、人々を差別し、他の人の感情に影響を与えるのかを知ることになる。
5 単語とフレーズ
HIVとエイズに関連する、あるいは関連があるとされる単語やフレーズを参加者が書いていく。ぎりぎり受け入れ可能なところまで書いてもらう。この演習のポイントは単語やフレーズでレッテルを貼り類型化し、名指しする行為がその対象だけでなく、それを使う人も、どれほど、そして、どのようにして傷ついていくかを知ることにある。参加者全員でそのカードを見ていき、どんな言葉が人をステレオタイプ化するのか、相手を傷つけるのか、その言葉に込められた意図は何かといったことを話し合う。どうしてそうした言葉が使われるのか、そして、HIVとエイズ、および関連する集団に対して私たちが使う言葉や態度についても話し合っていく。
6 偏見、差別と闘う
人種や宗教、民族、ジェンダー、性的指向、国籍、経済状態、教育、HIV感染などを理由にして偏見や差別があるのはどうしてなのか、考えてみる。次にそうした偏見や差別についてどう感じるかをカードに書いてもらい、差別の内容ごとに分類したうえで、偏見と差別の影響について短く話し合っていく。その後でHIVに関連する偏見、差別を含め、すべての偏見、差別を所属するスポーツ組織からなくしていくにはどうしたらいいのか、話し合う。
7 その他の活動
・ 所属する組織の中でHIV/エイズについての意識を高めていく雰囲気をつくり、広げていくことを公式に表明する。
・ 職場におけるHIVとエイズに関する方針を策定し、実施する。
・ スポーツの場における偏見や差別についての調査研究を推奨、支援し、開かれた組織にしていくための基本方針策定に生かす。
・ HIV陽性、またはHIVに影響を受けているスポーツマン、スポーツウーマンにリソースパーソンとしてスポーツ活動に参加してもらう。
・ コーチ研修の中にHIVとエイズに関連する課題を盛り込み、スポーツコーチがきちんとエイズに対応できるようにする。
・ HIV予防のポスターを貼る。
・ 従業員とその家族にHIV教育を行う。
・ HIV感染と予防に関する冊子を配る。
・ HIVとエイズに関する情報を取り上げる機会に外部組織も招待する。
・ 日々の活動の中でHIV感染と予防に関する情報を提供できるようにしておく。
・ 自発的な検査とカウンセリングのセンターやHIV陽性者組織、エイズサービス組織など、近くにあるHIVとエイズ関連の組織と日頃から知り合っておく。
・ 選手やコミュニティがケアと支援、母子感染予防などのサービスを利用する必要があるときに、利用可能になるよう日頃から関心を高めておく。
・ ニューズレターやインターネット、イントラネットサイトで、HIVとエイズに関する記事を取り上げる。
・ コンドームと潤滑剤が利用できるようにする。