トランプ政権の保健医療政策はどうなるのか ローリー・ギャレットさんの論評を一部紹介 (下)

  来年1月にトランプ大統領が就任したら米国の保健医療政策はどうなるのか。前回に続き、米外交評議会のシニアフェロー(グローバルヘルス担当)、ローリー・ギャレットさんの11月9日付論評の抜き書きを日本語仮訳で紹介します。つまみ食いのようなかたちですいません。全体の趣旨を把握するには原文をお読みください。

 原文はこちら

 今回は主に米国内の医療政策、とりわけ「オバマケア」と呼ばれる『患者保護並びに医療費負担適正化法(ACA)』への対応がどうなるかを中心に言及した部分です。選挙戦でトランプ氏は、「オバマケア」などもってのほか、撤廃するといった趣旨の発言を繰り返していましたが、次期大統領に決まった後は、かなり主張をトーンダウンさせ、言い部分は引き継いでいきたいといったニュアンスに変わっています。実際に大統領になったらどこまで軌道修正するのか、トランプさんのいまの言動からは即断できませんね。ギャレットさんお論評は11月9日付なので、医療政策の軌道修正発言までは織り込まれていません。織り込まない方が正解なのかどうかも、正直言っていまの私には分かりません。cautiously optimisticといいますか、ほんまかいなと疑いつつ、でも期待もしたいという感じでしょうか。おっと、私の感想を披瀝しても始まりませんね。以下、つまみぐい仮訳です。

 

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 《彼は国内の保健医療政策に関しても厳しい立場をとっている。患者保護並びに医療費負担適正化法(ACA)の撤廃を求め、そのかわりに税控除を受けられる医療貯蓄口座を設けて公開の競争市場から医療サービスを購入できるようすると主張していた。共和党が多数を占める米下院はACAの制定以来62回もその無効を求めてきたが、常に上院で否決されている。今回の選挙で共和党は下院で勢力を伸ばし、上院でも多数派となった。ACA撤廃が可決されても不思議ではないだろう。米国民への影響、とりわけトランプに投票した自営業者や中小企業経営者層への影響は惨憺たるものになるだろう。約1300万の米国民が現在、ACAのもとで創設された州の健康保険プログラムに入っている。さらに拡大メディケード拡大プログラムも含めると、これらのプログラムで推定2000万人が保険にカバーされており、無保険層の比率は米国史上、最も低くなっている。次期大統領トランプも米議会のACA反対派も、この2000万に及ぶ人たちがACA廃止の翌日からどのように医療を受けることができるのか、明確に説明したことは一度もない》

He took a tough position on domestic healthcare, calling for complete elimination of the Patient Protection and Affordable Care Act (ACA), and its replacement with tax-deductible health savings accounts from which citizens could buy medical services in an open and competitive marketplace. Since enactment of the ACA, the GOP-controlled House has voted sixty-two times for its repeal, only to be blocked by the Senate. With this election, the House Republican majority is stronger and Trump supporters were elected to the Republican Senate majority. It seems reasonable to predict the ACA will be voted out of existence. The impact on Americans—especially those from demographics that voted for Trump, such as self-employed workers and middle-class entrepreneurs—will likely be devastating. Some thirteen million Americans now receive health insurance through state marketplace programs created under the ACA, and an estimated twenty million people were added to insurance or expanded Medicaid roles through the program, bring the uninsured rate in the United States to the lowest level in history. Neither President-Elect Trump nor the ACA opponents on Capitol Hill have ever explained how, precisely, these twenty million people will receive health care the day after the ACA is repealed.

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 ここ2、3日の報道では、かなり軌道修正している感じですが、共和党主流派も《共和党が多数を占める米下院はACAの制定以来62回もその無効を求めてきたが、常に上院で否決されている》ということなので、着地点がどのあたりになるのかは、まだ分かりませんね。

 

 《2013年10月にACAが開始されたことで、米国にははじめてユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)を達成できる希望が出てきた。UHCは国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標3(すべての人に健康を)を支える主要基盤である。2000万もの米国民が腕の骨折や精神的外傷やがん治療や出産のための医療費も払えずに困り果てている状態を世界が目の当たりにしながら、それでもなお米国がUHCとSDGsの達成に主導的役割を果たすなどということは困難だし、不可能ですらあるだろう》

Enrollment in health plans under the ACA commenced in October 2013, offering hope that the United States might attain universal health coverage (UHC). UHC is the primary underpinning of UN Sustainable Development Goal (SDG) number three goal: health for all. It will be difficult, perhaps even impossible, for the United States to provide credible leadership on UHC and the SDGs as the world watches twenty million Americans scrambling in desperation to pay for broken arms, trauma injury, cancer care, and childbirth.

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 そもそもトランプ氏はSDGsをどう受け止めているのか。この点もまだよく分かりません。来年1月に国連事務総長となるグテレス氏(元ポルトガル大統領、前国連難民高等弁務官)とのマッチアップはどうなるのか。

 

 《保健システムの公開市場がもたらす医療費の高騰をどう抑えようとしているのか。そのヒントになるのは、トランプが2015年9月にマーティン・シュクレリの詐欺的な薬の値上げを激しく非難したことだ。ヘッジファンドのマネージャーで製薬会社を買収したシュクレリは、HIV関連の治療薬の価格をいきなり1錠13.5ドルから750ドルに値上げし物議をかもした人物だ。トランプはシュクレリを「駄々っ子」と呼び、値上げを非難している。製薬業界はシェクレリのケースやエピペンの価格インフレーションのような薬の価格をめぐるスキャンダルが怒りと不信を買うことを認識しており、製薬大手のロビイストたちは2016年に米食品医薬品局(FDA)の規制緩和や薬価コントロールの撤廃を望む州、連邦議員選挙の候補者支援に多くの時間を費やした。トランプは「がき」を非難する一方で、製薬会社を含め、いかなる業界においても政府による価格統制には賛成していない。驚くにはあたらないが、選挙の翌日には世界の株式市場では製薬部門の株価が上昇している。この10年以上、国際保健分野で最も重要なテーマの一つは手頃な価格で治療薬のアクセスが確保できるようにすることであり、PEPFAR、ワクチンと予防接種のため世界同盟(GAVI)、国境なき医師団(MSF)、クリントン・ヘルスアクセス・イニシアチブ(CHAI)といった画期的なプログラムがつくられていった。 こうした努力のすべてが、米国の製薬会社によるチェックの効かない価格マーケットによって危機にさらされるのだ》

Perhaps hinting at how he might hold down inevitable inflation in an open-market health system, Trump, in September 2015, roundly denounced pharmaceutical price gouging and attacked Martin Shkreli—a controversial hedge fund manager who took over a drug company and jacked up the price of an HIV-related medicine from $13.50 per pill to $750. Trump called Shkreli a "spoiled brat" and decried the price hike. The pharmaceutical industry knows that price scandals such as Shkreli’s and the EpiPen cost inflation have made it a hated, or certainly distrusted, business sector, so big pharma lobbyists have spent heavily in 2016 backing candidates in state and federal legislatures who hope to deregulate the Food and Drug Administration and eliminate drug price controls. While Trump has decried a "brat" he is not in favor of government-mandated price controls in any sector, including pharmaceuticals. Not surprisingly, the pharmaceutical sector surged on global stock markets the day after the election. One of the most important themes of global health for well over a decade has been access to affordable medicines, forming the basis of such dramatic global programs as PEPFAR, the Global Alliance for Vaccines and Immunizations (GAVI), Médecins Sans Frontières (MSF), and the Clinton Health Access Initiative (CHAI). All of these efforts could be imperiled by an unchecked pricing market for pharmaceuticals in the United States.

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 正直言って、この部分は文意がよくとれませんでした。さすがに無茶苦茶をたしなめはしたけれど、薬の価格は製薬会社に決めさせろというのがトランプ氏の考え方だと述べているのでしょうか。修正および解説していただける方がいらしたら、ここの訳が間違っているよという指摘も含め、よろしくお願いします。

 

 《加えて2014年のエボラ流行時には、トランプは病気になった米国の保健従事者がリベリアシエラレオネから帰国するのに反対し、大文字で「彼らをここに入れるな」とツィートしていた》

Additionally, during the 2014 Ebola epidemic, Trump opposed allowing ailing American health workers to come home from Liberia and Sierra Leone, tweeting (in all caps), "KEEP THEM OUT OF HERE!"

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 この排外主義的気分は当時、米国内にかなり広がっていたようにも思います。トランプ氏が大統領になったら(なるんだけど)、このあたりも相当、不安材料です。手のひらを返したように言動が変わることを期待したいですね。