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第4部「知っておく必要があること」 スポーツコミュニティのためのHIV/エイズ教育ツールキット5

 IOCとUNAIDSによるHIV/エイズ教育のツールキットはここからが本編といいますか、実際にHIV/エイズ教育をスポーツの場で進める際の教材になります。第4部はそのうちのHIV/エイズに関する基礎知識編ですね。かなり前に作成されているので、事実関係としてアップデートした方がいい部分も一部ありますが、ここではそのまま訳しました。

 そもそも20世紀の終盤に出現したHIV/エイズの流行という世界史的現象に関しては、「正しい知識」が最初から用意されているわけではありません。「正しい知識」を教えるといった発想では状況をうまく把握できなくなってしまう面もあるので、2010年あたりまでの段階でおおむね妥当と考えられてきた情報ぐらいの受け止め方がいいのではないかと思います。

 参考までに付け加えれば、2016年現在、世界中で喧伝されている情報もまた、確定した「正しい知識」などではなく、今の時点ではおおむね妥当ではないかといった程度の受け止め方をしておくべきでしょう。少し意地悪な言い方をすれば、妥当とも思えないけれど声が大きい人が言い募ると、それがあたかも科学的根拠のように聞こえてしまうといったことも中にはあるかもしれません。

 ちょっと脱線しました。第4部はかなり長いけれど一気に掲載します。その大河のような基礎知識編の最後の文章は以下になっています。

 『以下の認識は重要です:HIVは差別しません、人が差別するのです。誰もがHIVに感染する可能性があるのですが、日常の接触で感染することはありません』

 これはいまなお極めて妥当であり、重要でもある指摘と言うべきでしょう。

  なお、英文ツールキット(pdf版)はこちらで見ることができます。

https://stillmed.olympic.org/Documents/Olympism_in_action/HIV_and_Aids/IOC-UNAIDS-MANUAL-EN.pdf

 

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第4部 知っておく必要があること

 

 「HIV/AIDS。それはすべての人にかかわることです」

 サナス・ジャヤスリヤ クリケット スリランカ代表 UNAIDS親善大使

 

4.1 HIVエイズ

 4.1.1 HIVとは何か

  HIVはヒト免疫不全ウイルスの略称。AIDS(後天性免疫不全症候群)の原因となるウイルスです。人の身体の免疫機構-感染症と闘うシステム-を攻撃し、破壊します。

 

 4.1.2 エイズとは何か

  AIDS(後天性免疫不全症候群)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染症の後期段階です。HIV陽性者は長期間、健康に見え、自分でもそう感じています。しかし、HIVは身体の防御(免疫)システムを弱体化させるので、肺炎や下痢、腫瘍、ガン、その他の病気や感染と闘うことができなくなってしまうのです。

 

 4.1.3 HIV感染症は完治できるのか?

  しません。HIV感染症の根治療法はありません。病気の進行を遅らせることはできます。しかし、完全になくすことはできないのです。抗レトロウイルス薬は適切に組み合わせれば、HIVが免疫システムを破壊することを遅らせ、エイズの発症を遅らせることはできます。

 

 4.1.4 誰がかかるのか

  HIVは人を差別しません。誰にでも感染はあり得ます。世界では平均すると毎日1万2000人がHIVに感染しています。その半数が若者です。(数字は改訂の要あり)

 

 4.1.5 外見で感染している人が分かるのか 

  見た目だけで、感染しているかどうかを見分けることはできません。HIVに感染している人が、健康で体調がよさそうに見えるときもあります。それでも他の人に感染するおそれはあるのです。HIVに感染しているかどうかを確認する唯一の方法は血液検査です。

 

 「不治の病との闘いはタフなゲームだ。きれいな勝負は難しい。だが、勝つにせよ、負けるにせよ、闘いが続いていることはもう誰もが知っている」

  ゲオルゲ・ハジ ルーマニアのサッカー選手

 

 こうした行為でエイズにかかることはありません。

図(略)

 

 事実を知ることがエイズを防ぐ助けになります。

 エイズに関する事実 知識を伝えよう。 

 

 

4.2 HIV感染

 4.2.1 日常生活でHIVに感染している人と一緒にいて、エイズにかかることは?

 一緒にスポーツをしたり、働いたり、握手をしたり、キスをしたりということでHIVに感染することはありません。部屋を共有したり、同じ部屋にいて呼吸をしたり、食器を一緒に使ったり、同じ水で手を洗ったり、プールに入ったりしても感染の心配はありません。風邪やインフルエンザのように飛沫感染するものではないし、蚊や動物がHIVの感染を広げることもありません。唾液や涙や尿でうつることもありません。

 

4.2.2 スポーツをしていてHIVに感染する可能性は?

  ありません。スポーツ中にHIVが感染したことを示す例はありません。出血を伴うケガの場合はユニバーサル・プリコーションで対応してください。

 

 4.2.3 HIVはどのように感染するの?

 感染にはHIVの存在が必要です。曝露時にHIVに感染している人が関与していなければ、感染は起こりません。HIVがなくても、一定の行動や曝露状況があれば、感染の原因になると主張する人もいますが、これは間違いです。

 

 感染が成立するだけのHIV濃度がなければ、HIV感染は起きません。HIVの濃度が感染するかどうかを決定します。たとえば、血液のウイルス濃度は高い。少量の血液でも他の人に感染することがあります。ウイルスの血液や体液中における濃度は同じ人でも時期によって異なります。

 

あなたの血液の中にウイルスが入り込むような行為があれば、感染する可能性があります。感染している人から他の人へ感染するだけのHIV濃度がある体液は以下の4つしかありません。

・精液

 ・膣分泌液

 ・血液

 ・母乳

 

 感染しない体液

・唾液 感染することはないと考えられています。感染のリスクがあり得ると考えられるケースは、唾液中に血液が含まれているときだけです。唾液でHIVに感染したという報告はこれまでにありません。口中の粘膜のタンパクは唾液中のHIV量を非感染レベルまで下げることができます。このタンパク自体が血液細胞の表面にとりつきHIV感染を防ぐのです。 

 

・尿と涙 感染が起きるとは考えられていません。尿や涙からもHIVは見つかっていますが、感染が成立するほどの量ではありません。

 

・汗と糞便と吐瀉物 感染が起きるとは考えられていません。HIVも見つかってはいません。考えられるリスクは血液が混じっているケースだけです。

 

 HIVが感染するには血液中に入っていかなければなりません。HIVに感染した体液に触れるだけでは、感染が成立することにはなりません。健康で、損なわれていない皮膚はHIVが体内に入り込むのを防いでいます。

 

 世界のHIV感染の70%以上は男性と女性の間での性行為の結果であると推定されています。10%が男性間の性行為。5%が薬物注射の注射針や注射器や注射用具を通した感染と考えられています。注射薬物使用者の5人中4人は男性です。

 

 4.2.4 性感染

  ペネトレイティブセックスとは、男性のペニスを相手の膣または肛門(女性でも男性でも)に挿入する行為です。HIVは感染防御策(たとえばコンドーム)をとらないペネトレイティブセックスで感染します。性行為による感染の確率を計算するのは困難です。ただし、膣を通した性感染はリスクが高いことが知られています。アナルセックスは膣を通したセックスより感染リスクが10倍高くなると報告されています。性感染症の治療をしていない人、とりわけ潰瘍やおりものがある場合には6~7倍、感染の確率が高くなります。

 

 オーラルセックス(性器を刺激するのに口を使うセックス)はHIV感染に関してはリスクの低い性行為とみなされています。口の中や口の周りに傷があったり、口の中に射精したりするとリスクが高くなります。

 

 4.2.5  女性とセックスをする女性(FSF

  女性同士のセックスによるHIV感染のリスクは低いと考えられます。オーラルセックスのようないくつかのケースで低い感染リスクがあるのです。しかし、女性とセックスをする女性の中には、男性ともセックスをする人や薬物注射を行い注射針を共用する人もいます。

 

 「チャンピオンになるというのはすばらしいことですが、最も重要なゲームは4本の線の外側で行われています。生命をゲームにかけずに、エイズに打ち勝ちましょう」

 ルイス・フィーゴ ポルトガル 国際的に有名なサッカー選手

 

4.2.6 薬物注射による感染

 注射針や注射器、注射を行うための用具を何回も使い回すことはHIVや肝炎ウイルスなどの感染リスクが極めて高い行為です。注射薬物使用者の間での感染のリスクは、新しい注射針や注射器を使う、使い回しをしない、再利用可能な注射針や注射器は適切な消毒を行う、注射の準備のための用具を共有しないといったことで大きく下げることができます。

 

4.2.7 ステロイドについて

 ステロイドその他の強化薬物の使用はスポーツの基本的な魅力を台無しにし、人間がスポーツの素晴らしさを追求すること自体を損なうため、スポーツ界では禁止されています。以下のようにスポーツ選手を守る観点からも禁止すべきです。

 

 ・筋肉増強などを目的とした禁止薬物の使用は、選手に不正に有利な条件を与える。

 ・有害な副作用をもたらす可能性がある。

 

 さらにスポーツ選手が同じ注射針を使ってアナボリック・ステロイドや他の筋肉増強剤を注射することにより、誰か一人がHIV陽性だったら感染がたやすく広がっていくことにもなります。

 

4.2.8 血液や血液製剤による感染

 感染した血液の輸血や血液製剤を通じてHIVに感染するリスクは高い(90%以上)。しかし、血液の安全基準を守ることで、輸血が必要な患者は安全かつ適切で、質の高い血液、血液製剤を使用できるようになります。血液の安全性確保策としては、適切な血液提供者の選択、すべての血液に対するHIVなど血液で感染するウイルスのスクリーニングなどがあります。

 

 4.2.9 母子感染

 HIVは妊娠、出産時、および母乳によって母親から赤ちゃんに感染します。妊婦もしくは妊娠を考えている女性は、HIV検査を考えるべきです。検査結果が陽性だった場合には、母子感染防止のための抗レトロウイルス薬が提供できます。

 

 4.2.10 飲酒とHIV

 多くの国において、少年でも、少女でも、性の初体験の年齢はアルコールなど精神を変化させる依存物質を初めて使用する年齢と関係しています。飲酒の場はバーやパーティやナイトクラブであり、そこはしばしばセックスの相手を探す場所でもあるのです。研究によると、アルコールやパーティドラッグなどの薬物の過剰使用はしばしば、安全でないセックス(コンドームを使わないペネトレイティブセックス)につながり、飲酒は複数の相手とのセックスと関連そていることもあります。(注7) 酒に酔うことが望まないセックスや感染防御策をとらないセックス、強引なセックスなど不適切で反社会的で危険な行動に走ることの言い訳にされることも多いのです。仲間が安全でないセックスに走らせるようにプレッシャーをかけていることもあります。レイプや他の性的暴力が過度の飲酒の結果であることも多いのです。

(注7)UNAIDS, Boys, young men and HIV/AIDS, I care do you? World AIDS Campaign 2001

 

 スポーツクラブはしばしば、試合や表彰や資金集めと関連した社会的イベントの場となります。エンタテイメントのときにアルコールが提供されることもしばしばあります。勝利の興奮や敗北の落胆の際の飲酒は止まらなくなってしまうことも多いでしょう。飲酒に対しては責任のある行動を求めることをクラブの規範の一つとすべきです。結局のところ、大切なのは試合に勝つことではなく、よきスポーツマンシップなのです。

 

 「HIVの影響は誰にでも、どこにでも及ぶ。アスリートとして、私たちはウイルスの感染を防ぐためのメッセージを伝えるユニークな立場にある。エイズの完治はまだ実現できないということとともに、HIV感染は防げるということも忘れてはならない」

 鄧亜萍(デン・ヤピン) 中国の卓球選手 五輪で4つの金メダルを獲得

 

4.3 HIV感染を防ぐには?

 「コンドームを使うこと、注射針を共用しないことは、あなたが長く、健康的な人生を送るための賢明な判断です。教育によってHIVエイズについてもっと学び、力を合わせてこの流行を止めることができるのです」

 ディケムベ・ムトンボ 元バスケットボール選手 国連開発計画(UNDP)ユース大使

 

 4.3.1 性感染

 HIVの性感染は、性行為を行わない、互いに性行為相手は一人に限る、そして、コンドームを使用することで防ぐことができます。これらの行動は「ABC」と呼ばれています。

 Aは、abstinence 禁欲 (または性行為の開始年齢を遅らせること)

 Bは、being faithful 貞節(または性行為の相手を減らすこと)

 Cは、コンドームを常に正しく使うこと(資料4参照)

 

 一人の相手とだけセックスをする(フェイスフルな)関係は以下の条件のもとでなら安全です。

 ・2人とも感染していない(HIV陰性)

 ・2人とも相手としかセックスしない

 ・2人とも薬物使用その他の行動でHIVに感染していない

 この場合、性的な関係が2人の間に限られていることが前提です。たとえばイスラム教圏などいくつかの文化圏やいくつかの国では、男性が複数の妻を持つこともあります。そのときには、すべての妻がHIV陰性で、その関係がフェイスフルであり、上記のことが守られていれば安全です。それ以外は、コンドームを常に正しく使うべきです。

 

 ペネトレイティブな膣、肛門性交以外にも性行為はあります。キス、エロチックメッセージ、マスターベーション、相互マスターベーションは安全です。

 

 4.3.2 注射薬物使用

 薬物を注射する人は、段階的にHIV感染のリスクを下げる方法をとることができる。

 

・経口薬物にする(注射薬物から注射しない薬物に変える)

・注射針、注射器、洗浄水、注射用具などの共用、再使用をしない

・(薬局や注射針交換プログラムなど信頼できるところから入手した)新しい注射器を薬物注射の準備や注射の際に必ず使用する

・薬物を準備するときには消毒液やきれいな水を使う

・注射の前には新鮮なアルコールをつけた綿で打つ場所をきれいに拭く

 

 スポーツ選手は一般的に薬物を使用することはないものの、注射薬物使用について知っておいた方がいいでしょう。

 

 報告のあった130カ国からの推計では、注射薬物使用者は世界で1300万人に達し、その大半の国で注射薬物使用者のHIV感染が把握されています。世界的な問題なのです。

 

 「自らの体力で宙を跳ぶのはすばらしい気分です。でも愚かなことはしないように。ドラッグで宙を跳んだら、いい気分になるだけではすみません。あなたの健康を破壊し、HIVに感染することもあります」

セルゲイ・ブブカ ウクライナ棒高跳び五輪金メダリスト IOC選手委員会前委員長

 

 4.3.3 「セーファー」セックスとは?

 性行為をしなければ100%安全です。安全ではないセックスとは、コンドームを使用しないペネトレイティブセックスです。HIVを含むSTIs(性感染症)に感染するリスクがあります。

 

 セーファーセックスとは、性行為によってHIVを含むSTIsに感染する可能性を減らすための予防手段をとることです。性行為の際にコンドームを常に正しく使うこと(資料4参照)はセーファーセックスと考えられています。

 

 4.3.4 HIVワクチンはどうなのか?

 長期的な視点でいえば、HIV感染症の流行をコントロールするために最も大きな期待がかけられているのはHIVワクチンを開発し、世界中で提供できるようにすることです。ワクチンはすでに、ポリオ(小児まひ)や天然痘の流行を止めることに役立ってきました。安全で効果が高く、多数の人が使えるようなエイズワクチンの開発には、たくさんの研究者や研究機関が取り組んでいます。しかし、エイズワクチンの開発にはまだ長い時間がかかりそうであり、「魔法の銃弾」を期待するわけにはいきません。

 

 4.3.5 HIV感染を防ぐ「モーニング・アフター・ピル」はあるか?

 HIVの「モーニング・アフター・ピル」について聞いたことがある方もいるかもしれませんね。実はそれは、曝露後予防対策(PEP)のことです。単一の錠剤ではないし、HIV感染を予防するものでもありません。PEPはHIVが体内に定着するのを防ぐ方法で、曝露した可能性のある時点から72時間以内に開始しなければならず、4週間の継続治療が必要です。リスクをなくすことはできません。PEPはこれまでのところ、医療従事者が仕事中にHIVに曝露した際の治療として主に用いられています。あなたをHIV感染から守るための解決策にはなりません。

 

 「セックスのときにコンドーム使用することは、HIVを含む様々な性感染症の予防の為の最も安全な方法です。セックスするのなら安全な方法で、コンドームを使ってください」

 マシュー・ビンセント ボートの英国代表、4つの五輪金メダリスト

 

4.4 HIV検査とは?

「有名なスポーツ選手もHIVに感染しています。HIV感染は誰にでも起きうるのです。だから、あなた自身とあなたの大切な人を守ってください。私たちは皆、HIV感染の拡大を防ぎ、そしてHIV陽性者への差別をなくすために、何かしらできることがあります」

 姚明 中国バスケットボール選手 NBAスター

 

 4.4.1 HIV検査とは?

 HIV検査は体内にHIVが存在しているかどうかを明らかにする検査です。広く使われている検査方法はHIVに対して免疫システムが作る抗体を調べる方法です。その方がウイルスそのものを探すよりはるかに簡単(かつ安価)であるからです。抗体は感染を受けて免疫システムが作るものです。

 

 ほとんどの人の場合、抗体ができるまでには3カ月ほどかかります。まれには6カ月かかることもあります。

 

 4.4.2 感染の可能性がある行為からHIV検査までどのくらい待つ必要があるのか?

 感染の可能性がある行為から検査までには3カ月待つことが推奨されます。HIV抗体検査の感度は非常に高いのですが、性行為その他の感染の可能性のある行為から抗体が検出可能になるまでの間には3週間から12週間の期間があります。したがって、セックスでHIVに感染したかもしれないと思っても、12週間は待ってから検査を受ける必要があります。また、その間は性行為を控えるか、常にコンドームを使用するかしなければなりません(資料4)。

 

 4.4.3 HIVに感染したかなと思ったらどうすべきか?

 HIVに感染したのではないかと思ったら、HIV検査とカウンセリングを受けるべきです。また、他の人に感染することがないよう、注意しておく必要があります。この間、性行為を控えるか、常にコンドームを使用するかしなければなりません(資料4)。注射薬物を使用しているのなら注射針は共用しないようにしましょう。

 

 4.4.4 どうしてHIV検査を受けなければならないのか?

 HIV感染の有無を知ることは、2つの点で利益をもたらします。HIVに感染している人は感染を知ることで、食事に気を付けたり、十分な休養をとったり、可能ならHIV感染による症状の進行を抑えるために必要な治療薬を服用したりすることができ、長く生きていけるようになります。また、他の人に感染が広がることを防ぐ手段をとることもできます。

 

 「適切な治療を受けることで、生きていけるようになれば沢山のことができるようになるのです」

 グレッグ・ルゲニス 米国のHIV陽性者 飛び込みで5つの五輪メダリスト 講演でHIV検査を受けることを呼びかけている

 

 4.4.5 検査はどこで受けられるのか?

 HIV検査を受けられる場所はたくさんあります。民間の医院、地元の保健当局、病院、家族計画クリニック、HIV検査用に特設されたサイトなどです。必ずHIVエイズについてカウンセリングを提供してくれるところを選んでください。

 

 4.4.6 検査結果は秘密にしてくれるのか?

 HIV検査を受ける人は必ず事前のインフォームドコンセントが必要です。検査の結果は本人以外には洩れないよ守られなければなりません。

 

 4.4.7 HIVに感染していたらどうすればいいのか?

 新たな治療法のおかげでHIV陽性者の多くが長く、健康的な毎日を送れるようになっています。HIV治療に詳しい医師にかかることが非常に大切です。保健医療の専門家やしっかりしたHIVカウンセラーが相談を受け、適切な医師を捜す手助けをしてくれます。地元のHIV陽性者支援グループに連絡を取ってください。

 

 健康を保つために以下のようなこともできます。

 

・ 主治医の指示に従う。予約を守る。医師の勧めに従い、服薬開始に同意したら処方箋通りにきちんと服薬を続ける。

・ 感染があれば治療を受ける。

・ 肺炎やインフルエンザを防ぐために(医師と相談した上で)予防接種を受ける。

・ タバコをすっている人、処方なしに薬物を使用している人は、すぐにやめるか、少なくとも量を減らす。

 

 「HIV陽性であるか、陰性であるか、それは問題ではない。私たちは力を合わせてHIVと闘うことができるのです」

 キプチョゲ・ケイノ ケニアの中距離走者 2つの五輪金メダリスト

 

 

4.5 ケアと治療

 4.5.1 どんな治療が受けられるのか

 治療とケアは、自発的な相談と検査(VCT)、HIV二次感染予防のための支援、事後カウンセリング、食事と栄養に関するアドバイス、性感染症(STIs)治療、日和見感染症(OIs)の予防と治療、抗レトロウイルス薬の提供など様々な要素から成り立っています。

 

 4.5.2 抗レトロウイルス薬って何?

 抗レトロウイルス薬はHIV感染の治療に使われる薬です。体内でHIVの複製を妨げることでHIV感染に対する効果がありますが、完治するものではありません。

 

 4.5.3 抗レトロウイルス薬が得られない場合、どんなケアが受けられるのか

 抗レトロウイルス薬が使えない場合、生活の質を高い状態に保つことがケアのもう一つの選択肢になります。適切な食事、睡眠、運動、カウンセリング、日和見感染症の予防と治療、そして全般的な健康状態を維持することなどが含まれます。

 

 4.5.4 身体によい食事とは?

 食事は誰にとっても重要です。スポーツを楽しむなど、活動的な生活には、食事の量もより多く必要になります。HIV陽性者には、以下のようなことがとくに重要です。

 

・ エネルギー源としての脂肪がHIV陰性の成人より10-15%多く必要。

・ HIV陰性の人よりタンパク質が50~100%多く必要。

・ 感染と闘うにはビタミンA、B6、B12、C、鉄分、カルシウム、亜鉛が大切。

 

 基本的に栄養はHIV感染に対する医療効果を高める治療の一環として不可欠だと考えられています。食事は以下のことを助けるものです。

 

・ 筋肉の衰えを防いだり、遅らせたりする。

・ 免疫システムを強化する。

・ 日和見感染症の発症や症状悪化を抑える。

・ HIVエイズの症状を軽減する。

 

 「生活を楽しみましょう。HIV陽性者がカムアウトし、他の人とともに暮らすことができれば、気分も晴れます。両親や兄弟姉妹と一緒に過ごせるようにしましょう。自分一人で抱え込むには、あまりにプレッシャーが大き過ぎます」

マジック・ジョンソン 米国 NBAスター 抗レトロウイルス治療により、プロバスケットボール選手として1996年に現役復帰を果たした後で

 

 あなたがHIV陽性だとしたら、いかなるかたちであれ予期せぬ体重減少は避けることが大切です。感染と闘う免疫の力を弱めることになるからです。適切な体重を維持し、体力を保つために十分な食事をとること ―そして正しい食事をとること― は、健康を保つ大きな効果があります。一般的に言えば、HIV陽性者はタンパク30%、脂質30%、炭水化物40%の食事をとるべきです。そして、野菜3~5種類と果物2~4種類を毎日とってください。喫煙、飲酒、カフェイン飲料、砂糖の摂取を極力抑え、ストレスも最小限に抑えてください。

 

 4.5.5 コミュニティはどのようなケアができるのか

 HIVエイズを取り巻く偏見と差別は、病気そのものと同じくらい破壊的なものです。エイズHIVに感染した人を死に至らしめることがあるので、HIV陽性者を恐れる人も多いでしょう。個人の性行動や薬物使用のような違法行為とのつながりもあるため、HIVエイズは沈黙やタブーや誤解に取り巻かれています。エイズは恥ずべきことと思われている社会も多く、HIV陽性者は家族や社会に恥辱をもたらす存在とみなされていることもあります。

 

 HIVは、男性とセックスをする男性、セックスワーカー、注射薬物使用者、異なる人種や文化の人たちなど、社会の中で変っていると見られている人たちや少数者に大きな影響を与えています。多くの人がそうした違いを不快に思い、恐れていることもあります。

 

 以下の認識は重要です:HIVは差別しません、人が差別するのです。誰もがHIVに感染する可能性があるのですが、日常の接触で感染することはありません。