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スポーツコミュニティのためのツールキット2 第1部 どうしてこのツールキットが作られたのか

 国際オリンピック委員会IOC)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)によるツールキットの第一部は、どうしてこうした資材を作成したのか、その理由を説明しています。どうしてIOCエイズ対策に取り組むのかという説明でもあります。

 『スポーツの世界は、他の世界と切り離されているわけではありません。スポーツは生きる技術を教え、自らを評価し、自信を生み出してくれます。そうしたことがすべて、HIVの流行と闘う力にもなるのです』

 『ツールキットの狙い』については以下のように書かれています。

 『HIVエイズに関する教材を提供することで、オリンピック運動の参加者およびスポーツ関係者一般の理解を深めていくIOCの活動の一環です』

 その目的は以下のようになっています。

・ HIVエイズの流行に関して、コーチ、選手、クラブ、競技団体、体育関係職員、指導者らの対応能力を高める手段を提供する。

・ 段階的にプログラムを実施していく方法を提供する。

・ 運動選手のライフスタイルに適切な行動変容を促す。

『このツールキットは主に各国オリンピック委員会、コーチ、選手、体育関係職員、スポーツクラブ、競技団体を対象に編集されています。ただし、HIVエイズ教育に関連するスポーツの活動やプログラムに取り組んでいる人ならだれでも活用できます』ということなので、日本国内でも参考にしていただければ幸いです。

『活動やメッセージに齟齬がないよう各国の国内エイズ協会とも連携する必要があります。協力関係を広げ、資材提供に関しても助けになってくれるでしょう』

 日本では公益財団法人エイズ予防財団でしょうか。

 

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第1部 どうしてこのツールキットが作られたのか

 

1.1 背景説明

 「スポーツの世界は、他の世界と切り離されて存在しているわけではありません。スポーツは様々な障壁を打ち破り、自信を生み出し、生きていくための技術や健康的な習慣を身につけるうえで役に立ちます。スポーツ選手は強い影響力を持つことができます。行動を通じて世界中の若者たちのロールモデルになることができるのです」(国際オリンピック委員会 ジャック・ロゲ会長)

 

 国際オリンピック委員会IOC)はエイズパンデミックエイズの世界的大流行)を認識し、その拡大を懸念しています。若者から高齢者まで、貧富にかかわりなく、すべての年齢層、すべてのコミュニティが流行に影響を受けています。そして、社会の生産性を大きく損ない、一家の稼ぎ手に深刻な被害を与え、多くの人の生活環境を悪化させる結果を招いています。開発に貢献できたはずの貴重な人的資源を枯渇させてきたのです。スポーツコミュニティもその影響を免れるものではありません。

オリンピック精神は身体と心と意志がバランスよく成長することを目指す哲学です。努力のうちに見出される喜び、良い手本となる教育的価値、普遍的・基本的な倫理原則の尊重を基盤とした生き方を示しています。その基本理念は、スポーツを中核に据え、以下のような人間開発を目指すものです。

 ・ スポーツを通じ平和を維持する。

 ・ 人間の尊厳を守り、いかなるかたちの差別とも闘う。

 ・ 環境を守り、持続可能な開発を進める。

 ・ 教育と文化を支える。

 オリンピック精神にとってエイズパンデミックはまさしく闘いの対象です。IOCは万人の利益を実現し、スポーツを通じて社会問題の解決に資するという義務の遂行を約束しています。そうした考え方のもとで、スポーツが人々に奉仕するよう、有力な公的機関、民間機関、各国政府と協力して取り組んでいるのです。

 HIVエイズパンデミック(世界的流行)が若いスポーツ選手や広く人口全体に与える影響の大きさを認識し、IOCは2004年6月1日、スイスのローザンヌ国連合同エイズ計画(UNAIDS)との合意文書(MoU)に署名しました。その文書の中で、両組織はHIVエイズ啓発、とりわけスポーツ分野の啓発に協力して取り組むことに合意しています。

 

 合意文書の主要な目的は以下の通りです。

・ コミュニティ、および各国の国内レベルで、エイズとの闘いに果たすスポーツ組織の役割を広げていくため、情報や経験から学んだ教訓の共有を日常的にはかっていきます。また、コーチ、選手、スポーツ・パーソナリティとともにエイズ啓発活動を展開しています。

  IOCと国際赤十字赤新月社は2003年5月、スペインのマドリードで合意文書に調印しています。

  さらに、IOCHIV/エイズ対策の方針を策定し、この分野でなすべき活動をまとめています(注1)。

(注1 資料1国際オリンピック委員会HIV/エイズ対策の方針を参照) 

・ 五輪憲章にはスポーツによる人類への奉仕が盛り込まれているのでも明らかなように、IOCは道義的な責任を有しています。スポーツの世界は、他の世界と切り離されているわけではありません。スポーツは生きる技術を教え、自らを評価し、自信を生み出してくれます。そうしたことがすべて、HIVの流行と闘う力にもなるのです。

・ IOCは資金を動員し、対策に取り組むことで、オリンピック運動がHIV/エイズとの闘いに貢献できるよう、その役割を果たしていきます。構成団体に対しても全力をあげて取り組むことを求めていきます。

  IOCの方針はとくに、エイズパンデミックと闘うために各国の国内オリンピック委員会(NOC)が果たす役割を次のように示しています。

・ IOCは各国NOCに対し、HIV/エイズの流行を抑え、現実に縮小へと転じていくために、各国のネットワークと組織、その他の資源を十分に活用して対策を進めることを強く求めています。また、そのためにコーチや役員、選手の研修プログラムにはHIV/エイズ啓発のセッションを必ず入れることを要請しています。

・ 各国NOCにはとりわけ、著名なスポーツ・パーソナリティに対し、ロールモデルとしてHIV/エイズ対策キャンペーンに加わることを促す役割が求められています。

・ IOCは各国NOCに対し、それぞれの組織および参加団体がHIV/エイズパンデミックとの闘いに成果をあげられるようにするため、必要な信念と手段を獲得できる能力開発プログラムに取り組むことを推奨しています。各国NOC世界エイズデーなどHIV/エイズとの闘いに取り組む機会を生かし、活動に積極的に参加することが望まれています。

 

【囲み 1】政策から実践へ。現場の事例から 

国際オリンピック委員会

・ HIV/エイズの流行に対する関心を高めるために、UNAIDSの協力を得てHIV陽性者がオリンピック聖火リレーに参加する機会を提供する。南アフリカで女性として最初にHIVに感染していることを公表したムサ・ンジョコは2004年アテネ五輪の際、ケープタウン聖火リレーの走者となった。その後、北京五輪ではタンザニアの若いHIV陽性の女性であるダミリ・ムスタファがダルエスサラーム聖火ランナーとなり、バンクーバー冬季五輪ではHIV陽性の長期生存者でゲイアクティビストのエリック・ソイヤーが聖火リレーに加わっている。

・ スポーツとエイズに関する地域別ワークショップ。 各国国内オリンピック委員会の代表およびHIV/エイズ分野の専門家を集め、IOCがUNAIDSと国際赤十字赤新月社の協力で2004年から開催している。最初のワークショップは2004年に南アフリカヨハネスブルグで開かれ、次いで2005年にはインドのニューデリー、2006年にはウクライナキエフ、2007年にはパプアニューギニアポートモレスビーと中国の北京、そして2008年にはタンザニアダルエスサラームで開かれている。

・ 2004年以降、選手に向けた予防キャンペーンがUNAIDS、地元組織委員会の参加を得てオリンピック大会の枠組みの中で、展開されている。特別に作成された啓発資材とコンドームを選手に配るのもその一環である。

 

各国国内オリンピック委員会

・ ブラジルNOC はHIV啓発キャンペーン、対策を支える活動、資料配付、HIVの流行に影響を受けやすい集団からのボランティアによる選手を対象にした研修、無料のコンドーム配布などを行ってきた。これらはすべてブラジル政府の国家エイズ政策のもとで進められている。

・ カリブ地域では、バルバドスNOCが国家スポーツ委員会と協力して、若いスポーツマンによって運営されるセミナーの中に、HIV/エイズを含めている。また、英連邦スポーツ開発プログラムとの協力により、カリブ地域の若者に向けてHIV/エイズと取り組むためのカリビアン健康生活習慣プロジェクトの策定を進め、HIVエイズに関する教材を現在、作成している。

・ ドイツ・オリンピック委員会と連邦保健教育センター(BZgA)は、2000年シドニー五輪の際、HIV予防の金を目指せキャンペーンを展開した。キャンペーンはアテネ五輪でも実施され、アスリートには金のコンドームが配られ、ドイツ国内では街頭にポスターが掲示された。著名な選手数人がキャンペーンに協力した。

・ ケニアNOCエイズ対策全国協議会と連絡を取っている。ポール・テルガト、キャサリン・ヌデレバ、マーガレット・オカヨといった選手がロールモデルとしてHIV予防活動に参加している。HIV予防啓発はオリンピックデイに走ろうプログラムの一部でもある。

・ レソト赤十字社レソトNOCと連携してスポーツマニュアルを作成し、NOCコーチング活動にも参加を計画している。さらに2003年7月からレソトNOCのオリンピック・ユース大使プログラムがレソト・ボランティア全国委員会と協力して、若者のスポーツ活動の実施や関連社会問題のピア教育への活用を助ける若者向けの研修プログラムに取り組んでいる。

・ マラウィNOCとマラウィ赤十字社は合同の作業グループを作り、NOCの活動の際に必ずHIV関連のメッセージを届けたり、赤十字社が行うスポーツ行事にはNOCが必ず参加するようにしたりしている。このほかNOCは、ユースネットカウンセリング(YONECO)というNGOと協力し、スポーツを通じて、HIV感染を防ぎ、エイズの流行がもたらす影響を軽減するための活動に取り組んでいる。

・ モザンビークNOCモザンビーク赤十字社は2004年9月に合同会議を開き、HIV担当者を任命した。NOCは以後、赤十字支社、およびバスケットボール連盟、陸上競技連盟と協力して活動している。地方の赤十字はスポーツ行事の場で理解を求める活動を実施している。

・ ミャンマーNOCはスポーツ医学委員会を設立し、HIVを含むさまざまな課題について毎週、話し合いを行う教育対話など、選手やコーチを対象にした医学教育に取り組んでいる。

・ パプアニューギニアNOCは、エイズ対策全国協議会などの政府機関やNGOの協力のもとで、医学委員会を通じ、HIV政策への理解とHIV予防を呼びかける活動に国内でも、オセアニア地域全体でも取り組んでいる。その活動には、行動変容のためのスポーツ科学と医学コースの中での教育、啓発プログラムも含まれている。とりわけコンタクトスポーツの選手にHIV検査と相談を受けるよう奨励する;エイズ対策全国協議会は選手委員会のフォーラムでエイズについて選手に話をしたほか、著名選手をロールモデルにしたより広範なHIVキャンペーンの開始を計画している;女性とスポーツ委員会はエイズ対策全国協議会やリーダーシップとHIV/エイズプログラムと協力して、メンバーの一人をNOCのコースや女性のためのワークショップ、その他のNOCイベントの推進役に任命した

・ 南アフリカNOCは、政府が毎年、主催するヨハネスブルグからブルームフォンテインまでのスポーツヒーロー行進を通じて、2002年からエイズ対策に取り組んでいる。2004年の行進は11月25日から12月1日まで行われ、オリンピック選手数人が参加してプロジェクト資金の確保に協力するとともに、HIV予防について話をした。

・ スワジランドNOCは、HIV/エイズ対策の方針を策定し、UNAIDS、UNDPと協力して活動している。また、コモンウエルス・ゲームズ・カナダともパートナーシップを保ち、スワジランド全国スポーツ協議会ともこの問題で協力している。この方針は指導者向け研修プログラムやポジティブ・プレイデーで役立てられている。(囲み8参照)

・ ウガンダNOCは1993年から、スポーツを通じた保健教育でHIVとAIDS対策に取り組み、スポーツ大会ではNGO数団体と協力してアドボカシー活動を行っている。また、政府の援助を受け、各地方の協力団体への財政的、技術的支援とHIV予防活動の組織化を目的とした国家スポーツ戦略概要を策定した。

 

その他の活動

・ アンゴラボツワナレソト、マラウィ、モザンビークナミビア南アフリカスワジランドザンビアジンバブエからなるアフリカ第5ゾーンのスポーツ最高協議会は、各国国内オリンピック委員会、および域内NOC連合(COSANOC)と緊密に連携をとって活動し、HIVエイズの啓発キャンペーンを開始した。 

・ スワジランドの指導者研修(LIT)プログラムでは、それぞれの地区センターにおける草の根のスポーツ活動を運営し、無為な時間を過ごすことのないよう運動の機会を提供している。その中でHIV感染の拡大を抑えるため、若者の研修も行っている。(資料8参照)

・ ボツワナでは、HIVエイズについてスポーツ界の人たちの理解を広げ、行動変容を促すために、スポーツとHIV/エイズに関する政策が策定された。スポーツ選手やスポーツ組織に対し、エイズパンデミックと闘い、スポーツを通じたHIVの感染を防ぎ、HIV感染予防のためにスポーツ界と保健部門が協力して取り組むことを求めている。

・ ジンバブエのスポーツ・レクリエーション委員会のスポーツを通じた若者教育(YES)プログラムはスポーツとレクリエーションを通じて若者(13~19歳の少年、少女)の人間的、社会的、政治的、経済的な成長を目指している。

・ 国際クリケット協会はUNAIDSと協力して、HIVエイズに関する認識を深めるためのシリーズを実施している。

・ 太平洋諸島フォーラム事務局(PIFS)/UNAIDS/アジア太平洋リーダーシップフォーラム(APLF)/太平洋諸島エイズ財団(PIAF)/オセアニア諸国国内オリンピック委員会(ONOC)/太平洋コミュニティ事務局(SPC)の協力で生まれたHIVに関するスポーツトレーニング・アウトリーチ・プログラム(STOP HIV)は、太平洋地域の若い男女にHIV性感染症(STIs)に関する知識を伝えるのにスポーツの力貢献している。

 

 

1.2  ツールキットの狙い

 UNAIDSの協力で作られたこのツールキットは、HIVエイズに関する教材を提供することで、オリンピック運動の参加者およびスポーツ関係者一般の理解を深めていくIOCの活動の一環です。

 

 その目的は以下のようになっています。

・ HIVエイズの流行に関して、コーチ、選手、クラブ、競技団体、体育関係職員、指導者らの対応能力を高める手段を提供する。

・ 段階的にプログラムを実施していく方法を提供する。

・ 運動選手のライフスタイルに適切な行動変容を促す。

 

 このツールキットは主に各国オリンピック委員会、コーチ、選手、体育関係職員、スポーツクラブ、競技団体を対象に編集されています。ただし、HIVエイズ教育に関連するスポーツの活動やプログラムに取り組んでいる人ならだれでも活用できます。また、学校の保健体育の教員も教材として活用することもできます。ツールキットはすでに進められているHIVエイズの教育や地域活動を補完する教材と考えてください。

 地元のエイズ対策組織の活動やプログラムと連携して進めることも大切です。それらの活動は、研修やHIVエイズ教材の配布を助けてくれるでしょう。国内オリンピック委員会を含む各国の体育関係協会や機関が、HIVエイズに関する基礎的なスポーツ指導コースを設けていたり、資材を用意したりしている可能性もあります。活動やメッセージに齟齬がないよう各国の国内エイズ協会とも連携する必要があります。協力関係を広げ、資材提供に関しても助けになってくれるでしょう。

 このツールキットを使用するうえで、スポーツ指導の際だった経験は必ずしも必要ないし、特別な設備が必要なわけでもありません。しかし、エイズ対策には詳しくなければならないし、HIVエイズについて伝えるためのコミュニケーション能力も求められます。さらにこのキットを読み、学んでください。

 

1.3 いくつかの統計数字

  世界のHIV陽性者数は2008年も増加を続け、推計で3340万人(3110万人~3580万人)に達しています。2000年当時と比べると、陽性者数は20%増、陽性率は1990年の3倍です。より詳しい地域別データは資料2を参照。

 

   囲み2:HIVエイズに関する統計

       略 (新しいデータと差し替え)