『力を合わせてHIVとエイズの予防に取り組もう スポーツコミュニティのためのツールキット』1

 スポーツを通じたHIV&AIDSの啓発・予防教育のために、国際オリンピック委員会IOC)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)は詳細なツールキットを作成し、2005年に発表しています。

 2013年11月に出されたUNAIDSとIOCの『スポーツを通じたHIV&AIDSの予防』というファクトシートを見ると、そのツールキットについては、以下のように書かれています。

 http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/09/11/230824

 『最初のツールキットは2005年にIOCとUNAIDSが共同で発表した。フランス語、英語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、スワヒリ語スペイン語の各版がある』

 公式にはその通りなのだと思いますが、実は非公式ベースといいますか、「幻の日本語版」も存在します。ま、要するに不肖・私が何年も前に、極めて多忙な日々の中で暇にまかせてこつこつと訳したものであります。誰に頼まれたわけでもないのにご苦労様なこっちゃとは自分でも思いますが、日の目を見ることもなく埋もれてしまうのも残念なので、当ブログに訳文だけでも掲載することにしました。

 英文(PDF)はこちらです。

 http://data.unaids.org/Publications/IRC-pub06/IOC_Toolkit_20Dec05_en.pdf

 インタビューに応じている五輪アスリートの皆さんの写真も豊富に載っているので、ご関心がお有りの方は訳文の照合がてらご覧下さい。

 (なお、ツールキットは2010年に第2版が出されていますが、内容はほとんど変わっていないのではないかと思います)

 全部で100ページ以上もあり、非常に分量が多いので、何回かに分けて掲載します(何回になることやら)。

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 『力を合わせてHIVエイズの予防に取り組もう スポーツコミュニティのためのツールキット』

  IOC/UNAIDS, 2010 第2版(初版発行2005)

http://www.olympic.org/Documents/Olympism_in_action/HIV_and_Aids/IOC-UNAIDS-MANUAL-EN.pdf

 

目次

略語集

謝辞

序文

 

第1部 どうしてこのツールキットが作られたのか

 1.1 背景説明

  囲み1:政策から実践へ。現場の事例から

1.2  ツールキットの狙い

 1.3 いくつかの統計数字

   囲み2:HIVエイズに関する統計

第2部 コーチ、トレーナー、役員の皆さんに

 2.1 変化を促すスポーツの力

 2.2 自分を守ろう

 2.3 若者に教えよう

   囲み3:若者とHIVエイズ

 2.4 HIVに対応するための「方法」と「理由」

   囲み4:HIVについてよくある誤解

第3部 このツールキットの内容

第4部 知っておく必要があること

 4.1 HIVエイズ

  4.1.1 HIVとは何か

  4.1.2 エイズとは何か

  4.1.3 HIV感染は完治できるのか

  4.1.4 誰がかかるのか

  4.1.5 外見だけでHIVに感染している人が分かるのか

 4.2 HIVの感染

  4.2.1 日常生活でHIVに感染している人と一緒にいてエイズにかかることは?

  4.2.2 スポーツをしていてHIVに感染する可能性は?

  4.2.3 HIVはどのように感染するの?

  4.2.4 性感染について

  4.2.5 女性とセックスをする女性

  4.2.6 薬物注射による感染

  4.2.7 ステロイドについて

  4.2.8 血液や血液製剤による感染

  4.2.9 母子感染

  4.2.10 飲酒とHIV

 4.3 HIV感染を防ぐには?

  4.3.1 性感染

  4.3.2 注射薬物使用

  4.3.3 「セーファー」セックスとは

  4.3.4 HIVワクチンはどうなのか

  4.3.5 HIV感染を防ぐ「モーニングアフターピル」はあるか

 4.4 HIV検査

  4.4.1 HIV検査とは

  4.4.2 感染の可能性のある行為から検査で分かるまでどれくらい待つ必要があるか

  4.4.3 HIVに感染したかなと思ったらどうすべきか

  4.4.4 どうしてHIV検査を受けなければならないのか。

  4.4.5 検査はどこで受けられるのか

  4.4.6 検査結果は秘密にしてくれるのか

  4.4.7 HIVに感染していることが分かったらどうすればいいのか

 4.5 ケアと治療

  4.5.1 どんなケアと治療が受けられるのか

  4.5.2 抗レトロウイルス薬って何?

  4.5.3 抗レトロウイルス薬が得られない場合、どんなケアが受けられるのか

  4.5.4 身体によい食事とは

  4.5.5 コミュニティはどのようなケアができるのか

第5部 スポーツとHIV

 5.1  HIVが運動に及ぼす影響、運動がHIVに及ぼす影響

  5.1.1 運動がHIVに及ぼす影響

   5.1.2  HIVが運動に及ぼす影響

   5.1.2.1 HIV関連の症状がない時には

   5.1.2.2 HIV関連の症状が出ている時には

   5.1.2.3 HIV陽性者に有害なスポーツは

   5.1.2.4 一緒にスポーツをする人に自分の感染を伝える必要はあるのか

5.1.2.5  HIV感染のリスクを最小化するにはどうすればいいのか

 5.2 スポーツの場におけるHIV感染リスクの最小化

   囲み5:出血時の対応

  5.3 ロールモデルとしての運動選手

 5.4 まとめ:HIV陽性の選手にコーチ、選手はどう接するか

第6部 スポーツ組織のHIVとAIDSへの対応

  6.1 職場におけるHIV

 6.2 職場のHIVとAIDS対策

   6.3 従業員へのHIV教育

   6.3.1 アイスブレーカー

  6.3.2 HIV感染

   6.3.3 コンドーム使用

   6.3.4 自発的な(秘密の守れる)相談と検査

   6.3.5 偏見と差別

   6.3.6 助け合う雰囲気づくり

第7部 コーチ、トレーナー、指導者のHIVとAIDSへの対応

 7.1 まずグループでHIVとAIDSについて取り組む

   囲み7:年齢別にそれぞれ情報を用意

   囲み8:スワジランドの研修プログラムにおける指導者

 7.2 準備ができたら、どのようにチームとかかわるか

  7.3 セッションの振り返り

   活動レベル1 対象年齢 10~12歳

  活動レベル2 対象年齢 13~15歳

  活動レベル3 対象年齢 15歳以上

HIVとAIDSクイズ

 用語集

資料1 国際オリンピック委員会HIVとAIDSに関する政策

 資料2 地域別の流行データ

 資料3 ウエブに関する情報

 資料4 コンドームについて

 

 

 

略語集

 AIDS acquired immunodeficiency syndrome(後天性免疫不全症候群

 CBO community-based organization(コミュニティで活動する組織)

 HIV human immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウイルス)

 IDUs injecting drug users(注射薬物使用者)

 IEC information, education, communication(情報、教育、通信)

 ILO International Labour Organization(国際労働機関)

 IOC  International Olympic Committee(国際オリンピック委員会

 MoU Memorandum of Understanding(合意文書)

 MSM men who have sex with men(男性と性行為をする男性)

 MTCT mother to child transmission(母子感染)

 NGO nongovernmental organization(非政府組織)

 NOC National Olympic Committee(各国オリンピック委員会)

 OI opportunistic infection(日和見感染症

 STIs sexually transmitted infections(性感染症

 UNAIDS United Nations Programme on HIV and AIDS(国連合同エイズ計画)

 UNDP United Nations Development Program(国連開発計画)

 UNICEF United Nations Children’s Fund(国連児童基金

 UNGASS United Nations General Assembly Special Session(国連特別総会)

 VCT voluntary (confidential) testing and counseling(自発的検査と相談)

 WSW women who have sex with women(女性とセックスをする女性)

 

 

謝辞

 スポーツコミュニティのニーズに応え、可能な限り世界的視野に立ってこのツールキットを著わしたHIV/エイズの専門家、アンドリュー・ドープ氏には特に感謝します。

 また、HIV/エイズの問題に詳しいジャーナリストのアンドリュー・ムトワンダ氏、南アフリカのドラッグフリースポーツ研究所長のシュアイブ・イスマル・マンジラ博士、UNAIDSの開発協力上級顧問のカレ・アルメンダル氏、IOC医務部長のパトリック・シャマッハ博士にも、準備段階から数多くのアイデアと資料を提供し、内容を推敲するなど大きく貢献していただいたことにお礼を申し上げます。

 五大陸にまたがる数多くの各国オリンピック委員会からはHIV/エイズの予防対策について経験を共有していただきました。ロールモデルとなったアスリートたちがこのプロジェクトに参加しています。キプチョゲ・ケイノ、セルゲイ・ブブカ、ナワル・エル・ムタワケル、フランク・フレデリックス、ヤピン・デン、マシュー・ピンセント、その他、協力していただいたアスリートは余りにも多く、名前をあげきれません。こうした協力がさらに多くのスポーツ関係者を励まし、HIV/エイズとの闘いに参加を促すであろうということは疑いもありません。この点にも感謝します。

国際協力開発部長

 T.A. Ganda SITHOLE

国際機関協力担当、本プロジェクト・コーディネーター

 Katia MASCAGNI

 

 

はじめに

 ジャック・ロゲIOC会長、ミシェル・シデベUNAIDS事務局長からの共同メッセージ

 

 エイズは世界中の社会にとっても、個人にとっても、依然として大きな課題です。世界のHIV陽性者3340万人の三分の一は25歳以下であり、多くの陽性者が観客、あるいは参加者としてスポーツに携わっています。

 スポーツは様々な障壁を打ち破り、自信を生み出し、生きていくための技術や健康的な習慣を伝えることができます。国際オリンピック委員会IOC)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)が世界のエイズ対策に協力して取り組むことになったのもこのためです。

 予防のための努力と差別に対する闘いは、スポーツが明確な貢献を果たしうる二大分野です。スポーツコミュニティは、世界各地の町や村で若い男女とつながることができる重要なパートナーです。そしてスポーツイベントやクラブやジムは若者たちがこの問題を認識し、予防のためのメッセージを伝え、HIV陽性者に対する差別をなくすための貴重なプラットホームを提供することができます。

 このツールキットによって、スポーツコミュニティはHIV/エイズの世界的大流行について学び、責任を持って課題に取り組み、さまざまな予防対策に貢献することができます。スポーツ選手は強い影響力を持っています。行動を通じて世界中の若者たちのロールモデルになることができるのです。

 HIVに感染する可能性は、どこでも、だれにでもあります。すべての人に関係があるのです。私たちが自らの態度や考え方や行動を変えることによって、人と人との関係も変わり、世界がすべての人にとってより良い(そして、より安全な)場所になっていくのです。