リオ五輪・男子セブンス 日本大健闘を振り返る  

 リオ五輪ラグビー7人制男子日本代表は11日(日本時間12日)、準決勝で世界ランク1位のフィジーに5-20で敗れ、3位決定戦では世界ランク2位の南アフリカに14-54と突き放されて、メダル獲得は果たせませんでした。
 もともとベスト8に進出したどの国と当たっても強敵、というか日本代表にとっては、全力でぶつかって、しかも運が良ければ、勝機があるかもしれないというレベルの強豪ばかり。よくベスト4に残れたと思います。メダルまであと1勝が届かなかった残念さは残りますが、試合内容をみると、むしろ選手たちの健闘を称えるべきでしょう。


 昨秋のW杯、そして今夏のリオ五輪(ブラジルは冬だけど)。15人制でも、7人制でも、日本ラグビーはその存在感を世界にしっかりと示すことができました。国際大会でももはや「おまけ扱い」されるチームではありません。何をしでかすか分からないぞ日本は!というインパクトを秘めたチームとして、今後は各国からも研究され、警戒されることになるでしょう。
 そのうえであえていえば、接点の攻防と言いますか、倒れたあと、倒されたあとのボールの支配という点で、7人制、15人制ともに、日本代表はまだまだ大きな課題を抱えているし、その分、伸びる余地があるといいますか、伸ばさなければならない宿題が残されているように思います。
 一方で、体格や走力の差を補ってあまりある連携力や戦術面でのきまじめさは、日本の美点でもありました。ニュージーランド戦などは、力に任せて振り切ろうとする相手選手が、これでもかこれでもかと食い下がり、追いすがってくる日本の選手たちの動きに辟易とし、うんざりして、とうとう負けちゃった過程がありありと見て取れました。
 あれ? こんなはずじゃあなかったぞ・・・と、そんな疑念が頭の片隅に芽生え、それが少しずつ大きくなっていく。そうなると、圧倒的な力の差で立ちはだかっていた強豪が意外な心理的もろさを露呈し始める。これはW杯の南ア戦で経験したことでしたが、五輪のニュージーランドの選手たちにも同じような表情がうかがえました。ジャパンの貴重な財産が経験値として15人制から7人制にも継承されたように思います。
 逆にいうと、そういう展開に持ち込めなければ準決勝のフィジー戦、3位決定戦の南ア戦のようにどんどん攻め込まれる一方的な展開になってしまいます。
 リオ五輪7人制ラグビーでは、統一された戦術のもとで15人制ラグビーにも通じる基本をきちんとおさえたプレースタイルのチームと個人の力を最大限に生かせるよう7人制ラグビーならではの自由奔放なプレースタイルのチームとがあったように思います。
 より正確にいえば、どのチームも両方の要素を併せ持ち、個人の資質も計算に入れつつ、その濃淡の差がチームの戦い方に現れていたという印象です。その意味では規律派の代表格が日本であり、自由奔放の王者がフィジーだったかなとも思います。
 ニュージーランドはその中間あたりで戸惑っているうちに日本にもフィジーにも負けちゃったという印象ですね。ヘッドコーチは一つの大会で3敗もするなんて・・・とぼやいていたそうです。

 個々のチームを離れて言うと、7人制の自由奔放なプレーは、15人制とは大きく異なる戦術戦略を生み出していますが、その経験がまた15人制に導入され、新たなチーム作りやプレースタイルに反映されていくような面もあります。たとえばオフロードパスのようなボールの活かし方、ラックにからむ人数を極力、減らしながら次の展開に備える密集周りの動きなどがそうではないかと思います。
 その意味で日本としては常に球にからみ続ける15人制のFW第3列的な資質と技術を高め、そのような能力を持つ人材を増やしていく(ないしは実戦の経験から培っていく)ことが大きな課題として見えてきたようです。
 一方、7人制ラグビーの観点からすると、日本の活躍は、戦術戦略面での連携性、統一性を重んじるスタイルが、選手個々の能力に頼りがちでトリッキーな7人制のプレースタイルに対し、相当程度まで対抗しうることを示して見せたという点で重要です。この点は各国とも日本のあり方を参考にしたり、対抗策を検討したりというかたちで、7人制の新たな進化を促す要素になるかもしれません。
 その意味で言えば、準決勝のフィジー戦、それに続く南ア戦がもう少し競った試合になれば、国際的なインパクトはさらに大きくなったでしょうね。この点は少し、惜しかったなあという印象が、メダルを獲得できなかった残念さとともに残ります。
 伝統と変革というか、このあたりのことは実際の世の中のさまざまな事象にも当てはめて考えたくなりますが、過度な一般化は危険でもあります。ここではあまり間口を広げないようにしましょう。
 もうひと息だったのにという残念さも含め、この1年間は、2019年W杯日本開催、2020年東京五輪に向けた日本ラグビー進化編の第一幕であり、その成果は期待以上のものでした。それでは、これから始まる第二幕はどうなるのか。おそらく山あり谷ありでしょうが、さらなる飛躍を可能にするには、これまで以上に分厚い、そして、それなりに熱いファンの声援が不可欠です。
 コアなファンはおそらく、そのコア感覚をますます強めていくことでしょう。それはそれで大切です。ただし、もう一枚、カードがほしい。「お、ラグビーって面白そうだぞ」という、にわかファンがどんどん増え、付け焼き刃でもいいから「あそこは思い切って外に展開しなきゃあ」だとか、「ボールにからんで」とか、思い思いに蘊蓄を傾ける楽しみが広がっていけば・・・。
 コアかと問われれば、実はそれほどでもないけれど、にわかファンと言われるのはちょっと抵抗がある。そんなあいまいな中間距離を保ちながら、ますます独善化を強める無責任おじさん層としては、行き当たりばったりの蘊蓄ではあっても、それはそれでまた社会的に一定の価値を生み出すものなのかもしれないなどと思ったりもするのである(生み出さないか、とほほ)。