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『この政治宣言では、エイズは終わらない』 GNP+ 2016.6.8 エイズと社会230続き2

 エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合で政治宣言が採択された6月8日に世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)の公式サイトに掲載された見解です。世界のHIV陽性者のネットワークとしては当然の見解だと思いますが、私は今回の宣言について少し異なる受け止め方ができるかもしれないと思いはじめています。立場が異なるせいかもしれません。

 まず、大前提として、個人的には「公衆衛生上の脅威としての」という条件付きであっても、2030年にエイズの流行が終結するとは以前から考えていません。

 ただし、国際社会がスローガンとして掲げることにまでいちいち異を唱えることもなかろうとは思っています。したがって、どんな政治宣言であっても、エイズは終わらない。「終結」という強めの言葉の使用は、エイズ対策に世界の指導者の関心が離れていくのを防ぎたいという動機の面では理解できますが、いま目指すべきは、アフリカ日本協議会の稲場雅紀さんが以前、ぷれいす東京のニュースレターで書いていたように、終結ではなく持続だと思っています。

 息長く、持続可能な対策の継続を進めていくことで、流行のインパクトを抑えていく。「エイズの流行を公衆衛生上の脅威ではなくしていく」という目標においては「エイズ流行終結」とあまり変わらない考え方かもしれませんが、言葉には言葉の魔力があります。終結、終結と言っているとどこかで目的と手段がすり替わってしまうような陥穽が待ち受けているような危惧は秘かに持っています。

 それでも国連は、あるいはUNAIDSにとっては、2030年のエイズ流行終結というSDGsに盛り込まれた保健分野のターゲットの一つに向けて勢いをつけたい。そして、その開幕ダッシュとして2020年までの高速対応を国際社会共通の使命とすること、そのためのお墨付きを得ること、それがこの会合において、何にも増して優先させるべき最高目標だったのではないかと思います。

 少し話が跳びました。今回の宣言は会合初日に採択されてしまいました。その過程で、いわば宣言成立の代償として、キーポピュレーションを構成する人たちを具体的かつ明示的に示し、そのニーズに対応するというこの15年の成果をどこまで譲ってしまったのか、その程度は当面、私には分からないのですが、かなり譲ったことは確かなようです。ただし、ゼロになってしまったかというとそうでもなさそうです。少しは残ったという感じでしょうか。

 譲った背景は?と考えると(あくまで私の想像ですが)、国連およびその機関であるUNAIDS、ないしは持続可能な開発目標(SDGs)をスタートさせたばかりの国際社会にとって、一定の譲歩はしたとしても、SDGsの大きな枠組みを前に進めたいという思惑というか、すけべ根性というか、そうしたものはあっただろうと思います(あくまで無責任な想像ですよ)。キーポピュレーションに抑圧的な政策をとる国というのは世界中にたくさんあるので、そうした国々からその思惑につけ込まれちゃった面も今回はあったのではないでしょうか。

 したがって、キーポピュレーションを構成する人たちのネットワークが怒りの声を上げるのは当然だし、その声を無視すべきでもないでしょう。

 だからこそ、UNAIDSは十分にキーポピュレーションが明示されていませんとわざわざプレス声明で明示し、日本をはじめ(ここは強調しておきたい)各国の演説の中にも対策の担い手としてのキーポピュレーションの重要性ににあえて明示的に言及する国も少なくなかったのだと思います。

 米国政府はキーポピュレーションのプログラムを助けるための基金への資金拠出をいち早く表明しています。トランプさんが出てきたりして、よく分からない国ですけど、このあたりの手の打ち方はさすがです。

 日本国内でキーポピュレーション関連のHIV/エイズ対策にかかわっている方々からは激しく非難を浴びてしまうかもしれませんが、私は宣言が採択されてしまった以上、その宣言がいかにだめかを言い募ってももはやしょうがないのではないかと思います。

 むしろ、各国演説やUNAIDSの少々、忸怩たる思いをにじませた声明などを引き合いに出し、ゼロドラフトではこうだったのが、最終的にこうなっちゃったけど、その理念は消えたわけではない、ほら、ここにこんな風に残っているでしょ、みたいなことをあれこれ言い募って、キーポピュレーションの重視がいかに効果的なHIV/エイズ対策遂行に不可欠であるか、それは国際的にもそうだし、日本の現状を鑑みても非常に重要なんですよということを説明できるようにする方が大事ではないか。そんな印象を持っています。

 また、自分では、そのような力は到底、私にはないだけに、誰かそういうことをやってくれる人がいないかなあと、とりあえず訳せるものを訳しながら感じています。だらだらと前置きが長くなってしまいましたが、以下GNP+見解の日本語仮訳です。

 

    ◇

 

 

 エイズ終結に関する2016国連政治宣言はエイズとの闘いにおける無節操な後退であり、失望しかない

http://www.gnpplus.net/political-declaration-will-not-end-aids/

 

【NY国連本部】 国連加盟国が欠陥だらけの声明を採択したことに対し、世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)は大いに困惑している。2030年のエイズ終結に関する政治宣言は世界全体および各国の政策や法律、規制、資金確保、プログラム策定のコンパスを提供すべきものだ。市民社会が政府に責任をもって対策を進めるよう求める重要なアドボカシーの手段になりうるものだった。残念ながら、今回の宣言は汚点を残した。HIVに最も影響を受けている人たちのニーズと利益と権利に資することができなかったのだ。

 

 政治宣言の採択に先立ち、国連では多数の保守的な加盟国が共謀してキーポピュレーションを代表する市民社会グループをハイレベル会合に参加できないようにする動きがあった。さらに、同じ勢力は、セックスワーカー、薬物使用者、受刑者、ゲイ男性その他の男性とセックスをする男性、トランスジェンダーの人たちなどHIVに影響を受けているキーポピュレーションの人権とニーズと基本的自由を明確に認める文言を宣言に入れようとする交渉も妨害した。

 

 その結果、HIVの予防、治療、ケアとHIVに影響を受けている人への支援を妨げる差別を解消し、懲罰的な法律を撤廃し、他の法的、社会的、政治的な障壁を取り除くために必要な約束は宣言からほぼ完璧にはぎとられてしまった。世界のエイズ対策が必要とするものを認識できなかったこの大きな失敗は、2020年までに3000万人のHIV陽性者が治療を受けられるようにするという野心的なターゲットの実現は不可能にするものだ。

 

 GNP+は広範な市民社会のアドボカシー活動に加わり、ハイレベル会合の準備段階から開催中まで抗議を続けてきた。今回の結果には大いに失望している。消極的にですら、このような二重構造をあてにしたり、受け入れたりしてはならない。一方ではHIV陽性者やHIVに影響を受けた人たちが生死に関わる治療や予防、ケア、支援を受け、差別を受けたり告発されたりせずに生きていけるのに、他方ではその資格がないと排除される人たちがいるのだ。

 

 

Political Declaration Will Not End AIDS   GNP+ 2016.6.8

2016 U.N. Political Declaration on Ending AIDS a disappointing and unprincipled setback in the fight against AIDS

 

UN Headquarters N.Y. – The Global Network of People living with HIV (GNP+) is profoundly dismayed with the decision made by a majority of United Nations member states to adopt a flawed document. The Political Declaration on Ending AIDS by 2030 was meant to provide a compass for global and national policy, law, regulation, funding and programming. It could have been an important advocacy tool for civil society to hold governments to account. Sadly, the Declaration misses the mark—by a long shot. It fails to advance the needs, interests and rights of those most affected by HIV.

 

Prior to the adoption of the Political Declaration, collusion by a number of conservative member states prevented some civil society groups representing key populations from entering the United Nations to participate in the High Level Meeting. Further, these same forces obstructed negotiators from including language in the Declaration that would have explicitly recognized the human rights, needs and fundamental freedoms of key populations affected by HIV—sex workers, people who use drugs, prisoners, gay men and other men who have sex with men, and transgender persons.

 

As a result, the Declaration has been almost completely stripped of explicit commitments to reduce discrimination, remove punitive laws and address other legal, social and political barriers to HIV prevention, treatment, care and support for people from key populations affected by HIV. This failure to recognise what the global AIDS response needs to take on could jeopardize the realisation of ambitious targets made in the Declaration towards securing treatment for 30 million people living with HIV by 2020.

GNP+ has been actively involved in the extensive civil society advocacy and protests leading up to and during the High Level Meeting, and is sorely disappointed with the result. We must not, even passively, stand by and accept a two-class system, one where some people living and affected by HIV gain access to life-saving HIV treatment, prevention, care and support and can live openly and freely without sanctioned discrimination and prosecution and another where others are dismissed as second class.

 

This declaration turns a blind eye to the needs of sex workers, people who use drugs, prisoners, gay men and men who have sex with men, and transgender persons living in political environments that perpetuate socially and legally sanctioned discrimination and violence, including misogyny, homophobia and transphobia. Maintaining the status quo is no longer good enough—we must stand together and raise our voices to demand better.