『NO TIME TO LOSE』再読 その3 第6章 国際調査団 から

 

《一九六〇年代、七〇年代に医学界で考えられていたこととはまったく異なり、人および動物の一連の新たな感染症の流行は、終わることなく続く。世界はそれを経験する。エボラがまざまざと示して見せたのはそういうことだった。一方で、エボラ出血熱の最初の流行発生はおそらく、感染症の流行に対する最初の高度な国際協力の事例でもあった》

 70年代の医学界では、感染症は《抗生物質とワクチンの開発により制圧できたと思われていた》(第1章)。ピオット博士が感染症を専門に研究したいと希望しても《教授たちはこぞって、そんな愚かなことはやめろ》(同)と忠告するような状態だった。

《全体としては、病院内の基本的な衛生管理がなされていないときに起きる感染症の流行であり、貧困と保健システムに対する軽視がもたらす病気ということができる。英雄的で善意に満ちたヤンブクの修道女たちは、よき行いのみでは十分ではなく、専門的な技術としっかりとしたエビデンスがなければ、実際に危険な状態にもなりうることを鮮やかに示した。保健と経済と社会開発は、まさしくつながりあっている》

 それが分かっていても、エボラは2014~15年の西アフリカで大流行する。世界が《保健と経済と社会開発は、まさしくつながりあっている》ということを教訓としてもう一度、学びなおす機会にはなったが、その代償はあまりにも大きかった。


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