【湘南の風 古都の波】秋の光 映える天井

 遅くなりました。月が変わってもう師走ですね。SANKEI EXPRESSの連載【湘南の風 古都の波】の11月掲載分です。渡辺照明記者の写真はこちらでご覧下さい。

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【湘南の風 古都の波】秋の光 映える天井

 秋の日差しが本堂にも柔らかく差し込む。鎌倉彫の格天井(ごうてんじょう)もその明度と陰影の変化に合わせ、微妙に色合いが変わっていく。

 わあ、見事…。訪れた人から声があがる。鎌倉有数の花の寺でもある日蓮宗の行時山光則寺で11月2日から12日まで、本堂の格天井が一般に公開された。天井を飾る136枚の鎌倉彫は横山仁雄(にんゆう)住職の妹、園子さんが所属する鎌倉彫グループ「刀華会」のメンバーらの作品だ。

 横山住職が「天井を鎌倉彫で荘厳(仏像や仏堂を美しく厳かに飾ること)したい」と刀華会に相談した。それがきっかけだったという。経緯については今年4月に当連載でも紹介したことがある。天井に取り付ける前の段階で136枚の公開があったからだ。

 格天井の荘厳は、先代住職の七回忌(7月)に先立ち6月に完成。お盆やお彼岸、お会式など夏から秋にかけての行事が一段落したところで、今度は天井としての一般公開となった。

 展示作品として間近に見るのと天井を見上げるのでは、趣もまた異なる。

 本堂の柱と柱の間に丸椅子が並べられていた。立ったまま見上げていると首が痛い。ひと休みのつもりで椅子に座る。天井を見る角度はこちらの方がいい。この椅子は好評だった。

 境内には外国人観光客の姿も目につく。鎌倉彫による天井の荘厳はこれまでにない発想だそうだが、以前から存在していたかのように見えるから不思議だ。伝統と革新性の融和は、実は鎌倉の持ち味でもある。
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 本堂は来年春、3月27日~4月7日にも公開されることが決まった。

 ≪流れるように厳かに≫

 広間には「頭(とう)」と呼ばれる4人の正客とその相伴の客たちが端座し「供給(くきゅう)」(給仕役の僧)の振る舞いを待つ。正客1人に相伴客が8人ずつ、1席36人の客が部屋の四辺に並んでいる。

 鎌倉五山第一位の禅宗寺院、巨福山建長寺では10月24日、四ツ頭茶会が開かれた。わが国の茶の湯の成立以前、中国からお茶が入ってきた当時の喫茶の様子を伝える厳粛かつ盛大な茶会である。

方丈(龍王殿)の広間正面には建長寺開山の大覚禅師(蘭渓道隆)の頂相(肖像画)、そしてその左右に龍虎の図。三幅の掛け軸の前では、この日だけで17席の客が招かれた。

 茶菓は建長寺の梵鐘(ぼんしょう)のかたちの干菓子一対と甘辛く煮た一口大こんにゃく。天目台に乗せた天目茶碗(ちゃわん)にはあらかじめ抹茶が入れられている。茶菓と天目茶碗は「提給(ていきゅう)」と呼ばれる僧が運び、供給に手渡す。一つ一つの所作が寸分の違いもなく正確に流れていく。

 4人の供給は2組に分かれ、その2人1組の動きも左右対称の舞いのようだ。まず正客にお茶を点てる。このときは膝をつくが、相伴客には立ったままで点前を行う。客は天目台ごと茶碗を差し出し、点前を受ける。

 建長寺では毎年7月23、24日の開山忌法要の後、方丈に開山の掛け軸をかけ、昼食をいただく。「斎座(さいざ)」と呼ばれるこの食事もまた厳格な儀式である。四ツ頭茶会はこの斎座のうち、茶礼の部分を独立させたお茶の儀式だという。多くの人に禅院の茶礼を味わってもらうため、2003年の建長寺創建750年法要を期に復元され、以後毎年10月24日に盛大に行われている。

 復元に際しては建長寺の姉妹寺院である京都の建仁寺の四ツ頭茶会を参考にしたという。

 北鎌倉の谷戸にも、冬は駆け足でやってくる。11月1~3日には、建長寺円覚寺で虫干しをかねて国宝や重要文化財など所蔵の宝物を公開する「宝物風入」が行われた。日の暮れがとりわけ早くなる頃だ。毎年のことだろうが、今年は特に昼夜の寒暖差が大きかったように思う。

 2015年は何かと心配事が多い年でもあった。振り返るにはまだ少し早いかもしれない。だが、世界中が殺伐としてきたような嫌な雰囲気は確実に広がっている。慌ただしい時の流れに疲れたら、半日のそのまた半分でいいから鎌倉を訪れることをお薦めしたい。それもかなわなければお気に入りの鎌倉の光景を思い浮かべ、一つだけ深呼吸をしてください。