オープニングセッションを侮るなかれ エイズと社会ウェブ版195


 第29回日本エイズ学会学術集会・総会が11月30日(月)と12月1日(火)の2日間、東京・文京区の東京ドームホテルで開催されます。今年の学会の大きな特徴の一つは、その開幕前日の11月29日(日)午後、学会登録者以外も参加できるオープニングセッションが別会場で開かれ、しかも、無料で(つまり学会の参加登録料を支払わなくても)、参加できることです。し・か・も・・・としかもばかり続いて恐縮ですが、セッションの講師とテーマをご覧下さい。
 (会場は国立国際医療研究センター国際医療協力研修センター5F大会議室、入場無料ですが、参加には事前登録が必要なので、下記公式サイトをご覧下さい)
 http://aids29.umin.jp/program.html

【セッション1】(HIV/AIDS専門家対象)
座長:岡慎一会長(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
演者:デビッド・ホー博士(米アーロン・ダイアモンド・エイズ研究センター/ロックフェラー大学
テーマ:Long-Acting PrEP Agents in HIV Prevention(HIV予防における長期作用型曝露前予防(PrEP)薬) 

【セッション2】(若手医師/研究者対象)
座長:潟永博之博士(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
演者:スチュアート・スペンサー博士(英・ランセット誌)
テーマ:An Editor's Insights into Writing a Scientific Paper(編集者から見た科学論文の書き方)


 セッション1の講師であるデビッド・ホー博士は34年間にわたってエイズ研究の最前線に立ち、400編以上の論文を発表しています。1990年代半ばには、カクテル療法と呼ばれた抗レトロウイルス薬の多剤併用療法を開発し、高い延命効果を明らかにした方です。いま世界のHIV/エイズ対策の中心となっているている抗レトロウイルス治療の普及は、ホー博士の画期的研究成果に支えられ、結果として何百万というHIV陽性者の生命が救われることになりました。

 博士を中心にした研究チームは現在、長期持続型抗レトロウイルス薬による曝露前予防投与(PrEP)の研究に取り組んでおり、抄録でも明らかにされているようにすでに第3相大規模臨床試験の準備を進める段階に到達しているということです。1回の注射で3カ月間、HIV感染の予防効果が持続するというとんでもないPrEPを考えている研究者がいるということは、海外のニュースで伝えられてはいましたが、そのとんでもない研究者の(少なくとも)1人は、この方だったんですね。

 セッション2のスチュアート・スペンサー博士は1999年から英国の医学誌ランセットの編集スタッフとなり、有望な論文を受理から4週間以内に発表するための優先審査チームを率いています。このチームはすべての分野を対象にしているのですが、博士が専門として担当する分野は循環器学ということです。抄録にはいきなり『何のために科学論文を書くのか。それを忘れないことが大切です』と書かれています。短い文章の中からビシッとメッセージが伝わってくる。正直言って文章に多少ともかかわる仕事に携わっている人なら「むむ、おぬし相当できるな」と思ってしまう抄録です。

 『タイトルとアブストラクト(要約)には力を入れるべきです。タイトルが長いと、論考があやふやではないかと思われてしまいます。読者に読みづらい論文ですよと警告しているようなものです。アブストラクトは非常に重要です。ほとんどの人はアブストラクトしか読まないので、読者に届けたいと思う重要なメッセージは必ず入れておきましょう』

 指摘はかなり具体的でありながら、なお簡潔です。若手医師/研究者を対象としたお話のようですが、抄録を読んだ印象では、コミュニケーション基礎講座のような感じでジャーナリストを志す人、NPOで啓発や広報にあたる人にも聞いてもらえると編集力向上のいい機会になるのではないかと思います。

 学会の公式サイトに掲載されている抄録は英文なので、日本語仮訳をHATプロジェクトのブログに掲載しました。あわせてご覧下さい。

セッション1 HIV予防における長期作用型曝露前予防(PrEP)薬
http://asajp.at.webry.info/201509/article_2.html

セッション2 編集者から見た科学論文の書き方
http://asajp.at.webry.info/201509/article_3.html