津波が来たら高いところへ逃げるプロジェクト 取材雑記

 また、どんよりとした曇り空に戻りましたね。昨日の土曜日は名残の夏を惜しむかのような好天でした。鎌倉の由比ヶ浜や材木座では海の家の撤退作業が急ピッチ。

 

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 で、海の方は、初秋モードといいますか。マリンスポーツが花盛りですね。ウィンドサーフィンの大会もあったようです。

 

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 こののどかな風景は大切にしたい。でも、自然は常に変化します。海辺の街である鎌倉はとりわけ、津波に対する心構えを忘れないようにする必要がある。もちろん、災害は津波だけではありませんが、折に触れて注意喚起をしておくことが、他の災害を含む防災体制全般のレベルを高めることになります。行政に注文するだけでは完結しない課題でもあります。街の中のご近所力といったものの醸成もインフラとして考えたい。

 

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 防災週間(8月30日~9月5日)の最終日でもあった5日、鎌倉市内では《津波が来たら高いところへ逃げるプロジェクト》が実施されました。すぐ上の写真は市内中心部の若宮大路に面した鎌倉生涯学習センターの前です。壁面の想定3メートルと書かれた矢印の下は実は、東日本大震災の際に津波被害にあったビルの写真が張り出されています。生涯学習センターのある付近は標高6、7メートル。つまり10メートルクラスの津波が来ると、ビルの高さ3メートルくらいまでこんな状態になる。ビニールに印刷された被災写真を実際のビル壁面に重ねることで、避難の必要性を視覚的に訴えています。

 

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 こちらは南隣の鎌倉郵便局の壁面。自転車と比較すると、高さの感覚がより具体的に伝わります。ビルの壁に津波被災した建物の写真を貼るプロジェクトは多摩美大の学生さんの発案で始まり、今年で3回目です。「このまちを愛する人をITで全力支援」するためのカマコンバレーというグループに集まる人たちが中心になってスタートし、プロジェクトには鎌倉市や商工会議所などさまざまな組織が後援や協力のかたちで加わっていきました。実施される防災イベントの幅も年々、広がっています。主催団体はカマコンバレーなどでつくる「津波が来たら高いところへ逃げるプロジェクト委員会」です。詳細は・・・どこで見たらいいのかな。たとえば、こちらのサイトをご覧下さい。

 http://kamacon.com/bousai/2015/

 終わっちゃった後で恐縮ですが、さまざまなイベントがさまざまな担い手によって実施されています。え!? もっと早く言ってよ・・・。すいません。

 

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 生涯学習センターの前では、簡単なクイズに正解すると「ボウサイダー」というサイダーがもらえるコーナーもありました。暑かったし、冷たいサイダー、飲みたい(子供たちの分を取っちゃだめでしょ)。今回はSANKEI EXPRESSの連載【鎌倉海びより】の取材でした。掲載が少し遅くなるので、メモをブログにも載せておきます。悪しからず。高齢期に入ったおじさん記者としては、とても精力的に全部を取材することなどできません。生涯学習センターと材木座海岸で行われた「オレンジフラッグ海上逃げ道体験」の会場を訪れました。それだけでも往復していると熱中症で倒れそうな・・・。

 

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 オレンジフラッグです。津波注意報や警報があったら、この旗(というか巨大なオレンジ色のシートですが)を海岸に掲げ、沖合でマリンスポーツを楽しんでいる人たちにもいち早く伝える。

 

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 こんな感じですね。東日本大震災のときには鎌倉でも防災無線で避難を呼びかけましたが、海上にいる人たちには音声が届かない。そこで鎌倉マリンスポーツ連盟の方たちが、オレンジの旗を掲げて避難の合図にする新たなルールをつくりました。このルールは湘南の海岸だけでなく、全国に広がり、マスメディアでも大いに注目されましたが、いつ来るか分からない津波のために、しょっちゅうお試しで掲げてみるというわけにもいきません。

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 みんなが、とまではいかないまでも、少なくともマリンスポーツを愛好する人たちの多くが情報を共有し、何かあったら他の人たちも行動できるよう船頭、じゃなかった先導役を果たせるようにする。その意味でもこうした訓練は重要ですね。フラッグを見て浜に戻ってきた人には、避難地図を示し避難路を確認してもらいます。これも重要。大地震津波は明日、発生するかもしれないけれど、記憶が薄れ、忘れた頃に襲ってくるかもしれない。だからこそ、イベント感覚でさまざまな工夫をこらしながら注意喚起と情報提供を行うこうした機会が重要になります。

 材木座海岸では当日、神奈川県が設置した津波注意の電光掲示板のお披露目もありました。こちらもカラーをオレンジで揃えてあります。海上から見た人の印象では文字までは識別しにくいが、掲示をオレンジ一色にし、しかもチカチカとフラッシュ形式にすると、かなり沖合からでも十分に見えるということでした。合い言葉はオレンジ。でも、それが何を意味しているのかが分からなければ、せっかくの掲示板も無用の長物になってしまう。ハードの設備とあわせ、ソフト面での情報共有と周知徹底が重要です。

 ここで「マスメディアも頼みますよ」と声をかけられると一瞬、うっと声が詰まる。長期にわたって継続的に情報を伝える必要がある課題に対し、ニュースとしての鮮度が落ちたときにニュースメディアはどう対応できるのか。いささか強引に私の関心領域と結びつけていえば、エイズ対策の分野でも常々感じている「メディアと啓発」の果てしない課題でもあります。