【湘南の風 古都の波】アジサイ名所を見つける町歩き

 

 梅雨ですね・・・というのもはばかられるほどもう、ずっと梅雨ですが、この季節、アジサイは外せないし、『海街diary』のヒットにもあやかりたいし、ついでに世界遺産委員会に対する憎まれ口の一つも叩いておきたいし・・・原稿はけっこう盛りだくさんでした。土曜日のSANKEI EXPRESSに掲載された連載【湘南の風 古都の波】です。渡辺照明記者の写真はいつも見事。こちらでご覧下さい。
 http://www.sankeibiz.jp/express/news/150623/exf15062315000010-n1.htm


【湘南の風 古都の波】アジサイ名所を見つける町歩き

 気象庁から、東海と関東甲信が梅雨入りしたとみられるという発表があったのは今月の8日だった。昨年より3日遅いという。ただし、それは昨年が早かったためで、8日なら実は平年並みの梅雨入りとなる。

 あれ、そうだったの?と少し肩すかしにあったような気分ですね。平年並みが珍しく思えるほど天候不順が常態化している。寒い寒いと思っているうちにゴールデンウイークを迎え、とたんに真夏の暑さ…。

 鎌倉の低い山々では、日に日に木々の緑が濃くなっていく。いい季節は短い。今年はひときわ、そんな思いが強くなる。梅雨入りは平年並みでも、アジサイの開花は早めだそうだ。

 休日ともなると、鎌倉のアジサイ名所はどこも人であふれる。JR北鎌倉駅の長いホームに15両編成の電車が到着すると、改札口を出る前にもう長い列。お目当てはアジサイ寺として知られる明月院だろう。

 駅で行列、お寺や神社の前でもまた行列。これでは遠来の皆さんにも申し訳ない。発想を切り替え、街を歩いてみたらどうでしょうか。そもそもアジサイの魅力は目立たず、騒がず、雨の季節にひっそりと咲くその風情にある。そのひっそりスポットもまた、鎌倉には多い。

 町を歩いているだけでも自分だけのアジサイ名所と(たぶん)出合える。それもきっと鎌倉探訪の楽しみだろう。


 ≪「行ってみたくなる度」今年は高め≫

 アジサイの季節になると鎌倉を訪れる人が増える。毎年のことだが、今年は特に多い。そんな感想を複数の人から聞いた。根拠になる数字があるわけではないが、体感的には私もそうだなと思う。

 理由は2つある。一つは外国人観光客の増加。再び感想レベルで恐縮だが、江ノ電の車内にも外国人観光客の姿が目立って増えている。なにもいまさらユネスコあたりに評価などしていただかなくても、鎌倉の魅力は世界中の人がちゃ~んと分かっていますよ。そんなひがみ言の一つも言ってみたい気分になる(まあ、抑えて抑えて…)。

 江ノ電長谷駅極楽寺駅のほぼ中間にある成就院では、残念なことに今年から3年間、石段改修工事のためにアジサイはお休みとなる。それでも長谷、極楽寺周辺にはアジサイ名所がたくさんあるので、休日の江ノ電は超満員だ。

  二つ目は映画の影響である。井上ひさし著『東慶寺花だより』を原作とする原田眞人監督の『駆け込み女と駆け出し男』が5月に封切られ、6月には是枝裕和監督の『海街diary』が登場した。

 原田監督作品は、かつて縁切り寺として知られた北鎌倉の東慶寺が舞台になっている。時代設定が江戸時代後期なので、撮影のロケ地は鎌倉以外の所が多い。それでも鎌倉好きなら、映画館を出た後、今すぐにでも鎌倉に行きたいという気分になる。

 七里ケ浜の砂浜が黒いのは砂鉄を多く含むからで、昔は良質の鉄の産地だったんだよね~といった具合になけなしの知識でうんちくを傾けたくなる場面も何かと出てくる。

 《ついつい鎌倉に行ってみたくなる度》はかなり高いでしょうね。

 是枝監督の映画は現代の4姉妹の物語なので、こちらはスクリーンのあちらこちらになじみの風景が登場する。もう、たまりませんね。原作は『月刊flowers』の連載で、2013年にはマンガ大賞も受賞している吉田秋生さんの同名コミック。

 4姉妹の家に近い極楽寺境内や江ノ電極楽寺駅も当然、出てくるし、「海街」の海と街もふんだんに登場する。《行ってみたくなる度》はますます急上昇。高台から望む風景は物語の重要な…っと、ここから先はネタバレになるかもしれないので、映画でどうぞ。

 一緒に暮らすようになった腹違いの妹に姉が「すずはここにいていいんだよ、ずっと」と言う場面などはもう、純情なおじさんは泣けて泣けて…。

 個人的な話で恐縮だが、スイカなどを時々、買いに行く由比ガ浜通りの青果店も買い物シーンで登場し、なおかつ働き者の店のおじさんが本人役で登場しているではないか。なるほど、こういうところでさらっと地元の人を使うのか。そのご近所サプライズも含め、監督の力量には大いに敬服した次第であります。