【湘南の風 古都の波】 春うらら 祈願の寺

 ああ、もう春だなあとすっかり体もほぐれた気分だったのに今日はまた、この寒さ。どうなっているのと言いたいところですが、3月はこんなものでしょう。体調を崩さないように気を付けたいですね。毎月第3土曜日のSANKEI EXPRESS【湘南の風 古都の波】の3月分です。明王院、仲田晶弘副住職のご快諾を得て特別護摩法要を取材しました。渡辺照明記者渾身の写真はこちらで。
 http://www.sankeibiz.jp/express/news/150322/exg1503221130002-n1.htm
 


【湘南の風 古都の波】春うらら 祈願の寺

 風が柔らかくなった。ぱらぱらと降りかけた雨もあがり、青空が広がる。長い冬が明けて、ようやく春が訪れたようですね…。3月15日の日曜日、鎌倉市十二所(じゅうにそ)にある真言宗鎌倉五大堂明王院の境内は午前と午後で大きく表情を変えた。

 暖かな日差しに誘われ、ウグイスが気持ちよさそうに鳴き始める。そういえば今年は、3月も半ばになるまでウグイスの声を聴かなかった。境内の梅はまだ見頃、白木蓮のつぼみも大きく膨らんできた。

 春の訪れによって、改めて冬の長さを確認する。

 本堂の脇に「明王院は鎌倉時代から続く祈願寺(供養ではなく、祈願を主とする寺院)です」という札が立てかけられていた。

 隣の客殿では、30年に一度の茅葺き屋根の葺き替えが進められている。

 1235(嘉禎(かてい)元)年、鎌倉幕府四代将軍藤原頼経の発願で建立。元寇をはじめとする国家の危機を救うために数々の祈願が行われてきた。鎌倉時代に将軍発願で建てられた寺院としては唯一、市内に現存。「祈願寺なので檀家組織はありません。地元の人たちが、このお不動さんは守らなければと支えてこられ、奇跡的に残ったのです」と仲田晶弘・副住職は話す。

幕府の鬼門に位置し、五大明王不動明王、大威徳(だいいとく)明王、軍荼利(ぐんだり)明王、降三世(ごうざんぜ)明王、金剛夜叉(こんごうやしゃ)明王)をまつる。本尊の不動明王もお寺そのものと同様、将軍頼経の発願による鎌倉時代の作。東日本大震災がきっかけになり、国の重要文化財指定を受けた。他の4体は江戸時代の作だという。その五大明王が安置される本堂で15日午後、特別参拝の護摩法要が行われた。


 ≪仏様をお迎え 炎のおもてなし≫

 ずっと昔、駆け出しの警察回り記者だったころ「タクシーが後ろから追突」といった記事を書くと、待ってましたとばかりにデスクから怒られた。

 前から追突するか? 「後ろから」はいらん!

 ま、そうなんだけど…。

 明王院では3月15日、特別護摩法要が行われた。通常は毎月28日が法要の日なのだが、今回は鎌倉十三仏詣実行委員会主催「梅かまくら寺社特別参拝」の行事の一つとして、仲田晶弘副住職から「護摩法要とは何か」を解説していただき、それから法要に臨んだ。

 「護摩」自体が火を焚(た)くという意味なので「護摩を焚く」とはいわない。「馬から落馬」し、「後ろから追突」するのと同じことなのだが、頭ごなしの鬼デスクと違い、仏に仕える仲田副住職の解説はわかりやすく丁寧で、好感が持てる。

 仏様をお迎えし、おもてなしをする。そして、願い事をかなえていただく。その祈願のために本堂で火を焚き、炎に供物をささげる。足を洗う水、口をすすぐ水、お香、ご飯、お花…。エピソードを交え、護摩壇の供物をひとつひとつ紹介していただいた。

 香りは記録に残しにくいけれど、記憶には残る。説明を聞いて思わず、その通り!と言いたくなる。

 お葬式などの焼香には本来、お香を持参する。仏様にこの香りで自分の気持ちを伝えたいということで、マイお香が基本です。残ったお香は置いていく。それがお香典…。おっと、受け売りで、知ったかぶりを書いているとボロが出そうですね。誤解をしているといけないので、控えめにしておこう。燃え上がる炎の迫力は渡辺照明記者の写真でご覧いただきたい。

 明王院を含む鎌倉の十三仏霊場を僧侶とともに巡る鎌倉十三仏詣は10年ほど前に始まり、パンフレット作製のため地元の協賛店舗を募ったことから実行委員会が誕生した。わたなべすすむ事務局長によると、特別参拝は梅の季節に鎌倉を訪れてもらうための企画で、参拝にあわせて各寺院のお坊さんに1時間程度、話をしてもらう。「話の中身はお任せしていますが、お寺の方でも熱が入って、1時間半ぐらいになることもあります」という。参加寺院も十三仏霊場だけでなく、20を超えている。鎌倉はお寺の密度が高い。

 「こちらが当たり前だと思うことが、お参りする人には当たり前ではない。逆に、そういう話が聞きたかったと言われます」と仲田副住職は話す。お寺と訪れる人との距離が近くなる好企画だが、残念ながら今年の特別参拝は17日で終了した。面白そうだなと思われた方は、来年の梅の季節を楽しみにしてください。