ピーター・ピオット著『ノー・タイム・トゥ・ルーズ』の特設サイト エイズと社会ウェブ版177

 おお、慶應義塾大学出版会がピーター・ピオット著『ノー・タイム・トゥ・ルーズ』の特設サイトを開設しました。
 http://www.keio-up.co.jp/kup/sp/notimetolose/

《最近のエイズへの対応は医学の傲慢なのか、それともウイルスに対する生物医学の勝利なのか。それは歴史が教えてくれるでしょう。私にはどちらも疑問です が、数学モデルがどうであろうと、抗レトロウイルス治療だけでHIVの流行を終結させることができるとは思えません。本書でも指摘しているように、HIV と闘う戦略の核は依然、治療の普及を含めた包括的な対策、複合予防です。技術だけに頼るような考え方に加え、現状での慢心、そして資金の減少が、対策を阻 む最大の脅威です。今私たちに必要なのは、長期的戦略、リーダーシップ、社会的対応、そして技術革新です》
  (ピーター・ピオット『日本語版への序文――エボラは再来し、HIV感染はいまも続いている』から)

 風向きを見るのが得意な人なら、つまり大方の世間の人なら、エボラの流行に焦点を当ててこの本をアピールするでしょうが、本書のほぼ三分の二はHIV/ エイズとの困難な闘いについて書かれています。少なくとも訳者の一人としては、今回の翻訳の作業は、ささやかな個人的体験と本書を貫いているエイズ対策史 の基本的な考え方との共通性に感動し、日本国内で私の親しい友人たちがHIV/エイズ分野における数々の政治の失策と無理解にもめげずに続けてきたことも また、間違っていなかったんだということを再確認する貴重な(そしてときには至福の)時間でもありました。HIV/エイズ分野、および国際保健分野たくさ んの方のご尽力のおかげで、闇雲に始めた翻訳の作業が日本語版の発行という望外の成果につながりました。改めて皆さんに感謝したいと思います。

 自分で勝手に思っているだけですが、できることならば本書の刊行を通じて、HIV/エイズ対策の現場で困難な闘いを継続している人たちを励ましたい、社 会的に共有できる認識の基盤を少しでも広げたいという願いが強くあります。まあ、要は読んでいただけると嬉しい、できれば買って読んでいただけるともっと 嬉しいということなんだけど・・・。