【鎌倉海びより】98 敵も味方もなく


 本日のSANKEI EXPRESSに掲載された連載コラム【鎌倉海びより】の98回目です。
 http://www.sankeibiz.jp/express/news/150303/exg1503030930001-n1.htm

【鎌倉海びより】98 敵も味方もなく
 東日本大震災から1カ月後の2011年4月11日に鶴岡八幡宮で行われた三宗教合同の追悼・復興祈願祭は、翌年から3月11日になった。会場も第2回は北鎌倉の建長寺、その翌年は若宮大路カトリック雪ノ下教会と神道、仏教、キリスト教を一巡して、昨年は鶴岡八幡宮に戻った。今年は北鎌倉の円覚寺で開かれる予定だ。

 人の少ない時間に写真を撮ろうと思い、JR北鎌倉駅に近い瑞鹿山円覚寺を訪れたのは2月23日(月)の夕方だった。すでに閉門していたので、石段下から総門を仰ぎ見ることしかできなかったが、それでも十分、身の引き締まる思いである=写真。

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 冬の夕日が石段の周囲の木立を柔らかく照らす。JRの線路に沿って、門前の道を通り過ぎる人たちが、石段下でいったん足を止め、閉ざされた総門に向かって両手を合わせていく。さりげない夕暮れの光景の中に、宗教が生活に根付いている様子が伝わってくる。

 円覚寺は1282(弘安5)年に鎌倉幕府第8代執権、北条時宗が中国から無学祖元禅師を招き、2度にわたる元寇(文永・弘安の役)の死者を敵味方なく供養するために創建した。

 この「敵味方なく」という精神こそが、武家政権以来の鎌倉の重要な価値観というべきだろう。だからこそ、宗教宗派を超えて震災で亡くなった人の霊を慰め、被災地の復興を祈願しようという動きが、この町から生まれたのではないか。

 谷戸の奥深く広がる円覚寺の境内は、海辺とはまた異なる「山の鎌倉」の魅力を伝えている。

 その山の鎌倉も、海の鎌倉も、そして町で生きる人たちもまた、宗教者とともに被災地の復興を願いつつ、5回目の鎮魂の日を迎えることになる。