週間の患者報告100人を切る この時期に恐縮ですがエボラの話です

 西アフリカのエボラ出血熱の流行が沈静化に向かっているようです。世界保健機関(WHO)の1月28日付更新情報によると、流行国であるギニア、リベリアシエラレオネの3カ国の今年第4週(1月19~25日)の患者報告数は合計99人でした。100人以下となったのは昨年6月末以来ということです。

 厚生労働省検疫所の公式サイト「海外で健康に過ごすために(FORTH)」に日本語の要約が掲載されています。
http://www.forth.go.jp/topics/2015/01291305.html

 《流行が深刻な3か国から毎週報告される新たな確認患者数が、2014年6月29日までの週以来、初めて100人を下回りました。1月25日までの週に流行3か国から報告された患者数は、ギニアで30人、リベリアで4人、シエラレオネで65人の、合計99人でした》

 これは朗報ですね。WHOは《エボラウイルス病流行の対策は、その焦点が流行の減速から流行の終局へと移行しており、第二段階に移動しました》との認識を示しています。

 ただし、手放しで喜ぶわけにはいきません。リベリアシエラレオネでは患者発生の減少傾向が続いていますが、ギニアの30人という報告は実は前週より20人多くなっています。増えたり減ったりの波を繰り返しながら全体として縮小の方向に向かっているということでしょうか。

 エボラの場合、感染から発症に至るまでの無症候の期間が長いエイズの流行と異なり、潜伏期間が短いので封じ込めが可能だと考えられています。ただし、一人の患者から接触した人への感染が次々に起きれば、封じ込められたと思っていた流行が再燃することもあり得ます。最後の一人の発症者から他への感染がもうないと確認されるまで、気を緩めずに感染防止のための努力を続けていかなければならない。これはエボラウイルスの発見者の一人であり、後に国連合同エイズ計画(UNAIDS)の初代事務局長となったピーター・ピオット博士が昨年秋に来日した際に強調していたことでもあります。

 WHOは1月20日、国際保健規則(IHR)に基づき、エボラ流行に関する第4回緊急委員会を開催しています。IHR規定に基づく緊急事態宣言を延長するか、解除するかの判断を行うための会議です。宣言は8月8日に発効し、3カ月ごとに延長すべきかどうかの判断を委員会が行います。9月22日、10月23日の委員会で継続が決まったのは流行がまだ広がっている時期だったので当然でしょう。

 今回はかなり事情が異なります。10月の第3回委員会時と比べると「最も深刻な影響を受けている3か国すべてでエボラ症例数が減少している」という状態だからです。それでもなお、解除は時期尚早との判断になりました。ここで油断はできません。現地の様子についてはまた聞きで恐縮ですが、油断できる状況でないと思います。現場で対応にあたる人たちは引き続き緊張感を持って、患者への治療提供、接触者追跡調査、安全な埋葬の実施、啓発活動などの対策を続けています(これもまた聞きですいません。続けていると思います)。

 油断はできないとはいえ、エボラとの闘いは国際社会の大きな支援と当事国の人々の努力で、顕著な成果をあげようとしています。日本からも多くの保健医療関係者が応援に駆けつけました。資金貢献だけでなく、人的な貢献も重要です。エボラの治療にあたる医師、看護師は自らの感染のリスクを克服しつつ、患者の苦しみを和らげ、回復に向かえるよう尽力されてきました。簡単な任務ではありません。しかし、必要です。

 必要なところには必要な技術や能力を身につけた人が行く。そうした技術や能力がない人は現場に行くことはできませんが、それでも現場で努力する人を応援し、それが大切な任務であることを認識し、評価することはできます。それだって大切です。

 話が飛んで恐縮ですが、イスラム国は残虐なテロ行為で日本に対し、脅しをかけてきました。こんな調子じゃあ、危なくて援助などしていられない。しばらくお休みしておこうという選択肢もないわけではありません。でも、それでいいのか? いいわけがない! と考える人の方が、いまの日本には多いのではないかと私は思います。もちろん、いまイスラム国の支配地域に赴くような危険な行動は厳に慎むべきですが、国際的な援助活動や海外における企業のビジネス活動までがすべて恐怖のために萎縮してしまったのでは、まさにテロ集団の思うつぼ。自発的にテロに屈してしまうことになるでしょう。

 安全確保に最善の努力を払いつつ、中東地域に限らず、世界のさまざまな地域で、いまこそ困っている人たちへの支援を継続する意思を示し、不安定化した社会が何とか安定化するように努力する。それこそがいま、「テロには屈しない」ということなのではないでしょうか。

 エボラの話に戻りましょう。国内の流行を心配するあまり、不合理なまでに不安がふくれあがっていく。グローバルな感染症の流行時には日本国内でもそのような場面に遭遇することがしばしばあります。

 

 今回のエボラの流行に関して言えば、そうした不安の解消にも、西アフリカの流行国の支援は大きな意味を持っていました。内向きにならず、国際的に必要な支援には積極的に取り組むことが、日本にとってはますます重要になっています。国内で寒波にふるえ、クシャミをするたびにインフルエンザを心配し、毛布にくるまったまま現場に出かけようなどという気はさらさら起きない怠惰で意気地なしのおじさんであっても、その程度の道理は分かります。

 個人的には内向きであっても、せめて精神的な後方支援だけは続けたい。動かざることおむすび山のごとしのおじさんの言い訳に過ぎませんが、緊急のエボラ対策が少しずつ成果をあげ、流行国におけるエボラ後の社会の再建が具体的な課題になりつつあることを考えると、改めてそんな思いを強くします。