カンボジアの村におけるHIV集団感染事例について UNAIDSがプレスステートメント エイズと社会ウェブ版168

 カンボジア北西部のバタンバン州にあるロッカー村で、エイズの病原ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の集団感染とみられる事例が発生したというニュースが伝えられています。CNNの日本語サイトに掲載されている『HIV集団感染の疑い、陽性反応100人以上 カンボジア』という記事によると、無免許医が使用した注射針によって感染が拡大したと見られるということです。

 http://www.cnn.co.jp/world/35058162.html

 

 詳細はまだ把握できていませんが、同じ注射針を消毒せずに何人もの人に次々に注射をしたということでしょうか。CNNの記事には次のように書かれています。

 

 『先週、ロッカー村で複数HIV感染が報じられて以来、パニックに陥った800人以上の村民がHIV検査を受けた。カンボジアの国立エイズ対策機構(NAA)によると、これまでに106人に陽性反応が出ているという』

 

 カンボジアのフン・セン首相はテレビ演説で「徹底的な調査」を求め、国連合同エイズ計画(UNAIDS)も『村民に無料の検査・治療を提供するため、現地に調査・医療チームを派遣した』ということです。

 

 カンボジアエイズ対策に力を入れている国ですが、対策が進むと逆に気の緩みを招き、感染のリスクの高い行為に対する警戒心が薄れるということもあります。HIV感染はそれぞれの社会の弱い部分を糧として拡大していく傾向があることは、これまでさまざまな国が経験してきたことでもあります。

 

 カンボジアの場合、医療基盤の脆弱さが今回の事態を招く背景要因だとすれば、同様の事例がロッカー村以外の地域でも起き得るかもしれません。しっかりと事実関係を調査すること、感染の広がりを把握し、感染が確認できた人に対しては必要な医療や支援を提供すること、そして感染した人たちやロッカー村そのものに対する差別や偏見を助長しないようにすることなどの対応がカンボジア政府には求められます。

 

 日本はもちろん、カンボジアとはさまざまな条件が異なりますが、関心の低下が新たな感染拡大の要因にならないようにする必要はあります。世界エイズデーの12月1日は、関心の低さが指摘された師走総選挙以上に関心を集めることがなく過ぎていった印象ですが、エイズの流行はまだ終わっていません。

 

 治療の進歩を考え合わせれば、新規感染が横ばい傾向であったとしてもHIVに感染している状態で社会生活を続ける人は以前より遙かに増えています。HIVに感染していることが就労あるいは医療などの面で、HIV陽性者の社会生活の継続を困難にすることがないような条件を整える。そのことが社会的に感染拡大を防ぐ最も有効な予防対策の基礎になることは再認識しておくべきでしょう。逆に言えば、そうした社会基盤の脆弱さを温存するかのような無関心が継続していたのでは「予防としての治療」といった考え方もその土台の部分で成立しなくなってしまう。この点はしっかり認識しておく必要があります。

 

 参考までにUNAIDSの12月19日付プレスステートメントの日本語仮訳を以下に紹介しておきます。

 

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UNAIDSはカンボジアのコミュニティおよび政府の対応を支援する

 最近のHIV症例の疫学的調査を実施

http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2014/december/20141219_Cambodia_statement

 

 

ジュネーブ 2014.12.19】 国連合同エイズ計画(UNAIDS)はカンボジアバッタンバン州で最近、HIV感染が判明したと伝えられる人々への支援を表明する。UNAIDSはカンボジア保健省の疫学的調査に協力し、さらなるHIV感染の拡大を防ぐすべての必要な手段をとっていく。

 

 UNAIDSはHIVに感染したかもしれない人すべてに必要な治療、ケア、支援を提供できるようカンボジア当局と協力して取り組んでいる。また、すべての人の権利とプライバシーが守られるよう保健省と協力している。HIV陽性者が尊厳をもち、偏見や差別の不安なく生活していけるようにしなければならない。それは不可欠なことだ。

 

 カンボジアでは個人情報がまもられるかたちで自発的なHIV検査とカウンセリングが無料で受けることができる。HIV陽性者は全国的に無料で抗レトロウイルス治療を受けることができる。

 

 1990年代のカンボジアはアジアで最も深刻なHIVの流行を経験していたが、その後、継続的に対策に取り組み、成果をあげてきた。HIVの年間新規感染者数は2005年に3900人だったのが2005年には1300人と67%も減少している。7万5000人のHIV陽性者の3分の2以上の人が抗レトロウイルス治療を受けており、これはアジア地域において最も高い治療アクセス率となっている。

 

 

UNAIDS supports community and government efforts in Cambodia

An epidemiological investigation into the recently diagnosed HIV cases is under way.

 

GENEVA, 19 December 2014—UNAIDS expresses its support for the people reported to have been affected by the recent HIV diagnoses in Battambang Province, Cambodia. UNAIDS is joining partners in supporting Cambodia’s Ministry of Health as it conducts a full epidemiological investigation and takes all necessary measures to prevent further HIV infections.

 

UNAIDS is working with the authorities to ensure that anyone who may have been affected has access to essential HIV treatment, care and support services. UNAIDS is also working with the ministry to ensure that the rights and privacy of all people are upheld. It is essential that people living with HIV live with dignity and without fear of stigma and discrimination.

 

In Cambodia, voluntary and confidential HIV testing and counselling are widely available free of charge and people living with HIV have access to free antiretroviral therapy across the country.

 

From having one of the most serious HIV epidemics in Asia in the mid-1990s, Cambodia has continued to make progress. New HIV infections have dropped by 67%, from 3900 in 2005 to 1300 in 2013. More than two thirds of the 75 000 people living with HIV are accessing antiretroviral therapy, which is the highest percentage of treatment access in the region.