ギャップを埋めなきゃ終わらない

  昨日紹介したTOP-HAT Newsの目次とあわせて冒頭の

 1 はじめに ギャップを埋めなきゃ終わらない

 2 年間新規HIV感染20万人で流行は「終結」

 も紹介しておきましょう。おそるべき低投票率は総選挙は終わってしまったけれど、無関心でも盛り上がらなくても、現実は続いており、それに対応する努力も継続していく必要があります。受けるネタばかり狙っちゃ、ダメよ、ダメ、ダメ(ん? もうっ!)ということで、これまでにすでに書いたことと内容的にはかなり重複する部分もありますが、悪しからず。繰り返しもいとわず、手を変え品を変えというのもメッセージを伝えようとするときの基本ということで、ご理解ください。  

 

1 はじめに ギャップを埋めなきゃ終わらない 
 衆議院が11月21日に解散し、世の中は総選挙に走り出しています。有権者にとって、選挙は最大の意思表示、意思決定の機会です。関心を持たないわけに はいきません。あくまで、この点はしっかりと認識したうえでの話ですが、そのあおりを受けて、12月1日の世界エイズデーに対する関心が今年は少々、低下 してしまうのではないかという心配もあります。流行の初期段階から繰り返し指摘されてきたことですが、エイズの病原ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウ イルス)は世の中の動きを気にして、選挙で忙しいようだから、この年末はちょっと感染を控えておこうかなどという配慮はしません。感染の条件が整っていれ ば、感染する。整わなければしない。逆に言えば、その条件が成立しないような手立てを講じれば感染の拡大を抑えることができるということでもあります。

 この際、改めて世界エイズデーに向けた今年のメッセージを紹介しておきましょう。厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する世界エイズデー国内 啓発キャンペーンのテーマは「AIDS IS NOT OVER ~ まだ終わっていない~」です。わざわざ終わっていませんよと強調しなければならないのは、「もうエイズの流行は終わったんじゃないの」といった意識が社会 的に広がっていることへの危惧の表明といった側面もあります。

 HIVに感染した人の体内でウイルス増殖を抑える抗レトロウイルス治療(ART)の進歩により、最近は国際的なレベルで「エイズ流行の終結」は可能だ、 もう手の届くところにまで来ている・・・といった類いのメッセージがしばしば伝わってきます。かりにそうだとしても、そのためにはいま、エイズ対策に力を 入れなければならない。国連合同エイズ計画(UNAIDS)はこの点を強調して、 《CLOSE THE GAP(ギャップを埋めよう)》を今年のメッセージとして掲げています。11月10日に発表されたサンプル・プレスリリースの日本語仮訳がHATプロジェ クトのブログに掲載されているのでご覧下さい。
 http://asajp.at.webry.info/201411/article_4.html

 冒頭のクレジット部分(日本語仮訳では【】の中)は場所と日付を特定していません。それぞれの国や地域や町で実情にあわせ使い勝手がよくなるよう工夫し たのでしょうね。UNAIDSは2030年のエイズ流行終結を国際的なエイズ対策の大目標として掲げ、その実現にはこれから5年が正念場だということで、 11月20日には『高速対応:2030年のエイズ終結に向けて』という新たな報告書も発表しています。予防、治療、支援などのサービスの供給能力と現実と のギャップを埋め、2030年にエイズ流行終結を実現するには、2020年までにFast Track(高速対応)で対策に取り組む必要があるという趣旨の報告書です。そのプレスリリースの日本語仮訳もHATプロジェクトのブログに掲載されてい ます。
 http://asajp.at.webry.info/201411/article_6.html

 リリースのタイトルは『高速対応で国際保健の脅威としてのエイズ流行を終結』となっているところにも注目しておく必要があります。つまり、UNAIDS が目指す「エイズ流行終結」は、「エイズの流行が国際保健の脅威ではなくなる」という状態を実現することです。HIV感染がゼロになる世界、HIV陽性者 が存在しない社会を目指しているわけではありません。具体的にはどういうことか。その点も以下に紹介しておきましょう。


2 年間新規HIV感染20万人で流行は「終結」
 UNAIDSの報告書『高速対応:2030年のエイズ終結に向けて』には「90-90-90」と「95-95-95」という二つの数値目標が示されています。

 「90-90-90」とは、2020年までに世界中のHIV陽性者の90%が自らの感染を知り、そのまた90%が治療を受け、さらにその90%の人の体内のHIV量が検出限界以下に保たれる状態を実現することです。

 つまり、90×90で、世界のHIV陽性者の81%は抗レトロウイルス治療を受け、その81%の人の90%だから、2020年には世界のHIV陽性者の 72.9%(81×90)が、体内のHIV量を極めて低く抑え、その人から他の人に性行為などでHIVが感染するのを心配しないですむような状態を維持し ているということになります。この90-90-90が実現すれば、世界の新規HIV感染者数は年間50万人程度(2013年の約4分の1)に抑えられると UNAIDSは試算しています。

 95-95-95はその目標を一段、高くして2030年までにHIV陽性者の95%が自らの感染を知り、そのまた95%が治療を受け、さらにその95% の人の体内のHIV量が検出限界以下に保たれる状態を実現しようという目標です。机上の計算のお手本みたいな印象を受けますが、その状態が実現されても、 世界の新規HIV感染はゼロにはなりません。UNAIDSの試算では年間20万人程度は新規にHIVに感染する人がいるということです。

 計算通りにいくかどうかは、今後の世界の努力次第ということになりますが、それでも世界はHIV陽性者が存在しなくなる状態やあるいは存在できない社会 を目指しているわけでは決してありません。90-90-90であっても、95-95-95であってもHIV感染に関連する差別は「ゼロ」にすることが目標 となっています。現実はどうなのか。「エイズ流行終結」という威勢のいい掛け声が、とりわけ医療関係者から発せられることは、今後も繰り返しあるでしょう が、そうした場面に遭遇したときには、この点をきちんと理解し、確認しておく必要がありそうです。