4367 【鎌倉海びより】89  なにもない夕暮れ

 

 載せるのを忘れていました。2週間前の記事です。

 

【鎌倉海びより】89  なにもない夕暮れ
http://www.sankeibiz.jp/express/news/141028/exg1410281030001-n1.htm

 台風19号に気をとられているうちに、今年は光明寺お十夜(じゅうや)が過ぎてしまった。毎年10月12~15日のお十夜法要には、境内に露店が並び、夜になっても(というより夜になるとますます)たくさんの人でにぎわう。縁日の帰り道に植木屋さんを冷やかしながら、背中を吹き抜ける夜風に肌寒さを感じ、秋だなあと実感する。

 今年はその「秋だなあ」を感じるチャンスを逸してしまった。

 浄土宗大本山光明寺は鎌倉時代の寛元元(1243)年創建と伝えられる。境内から材木座海岸まで、それこそ歩いて1、2分。鎌倉でも最も海に近いお寺だろう。

 材木座の名前で分かるように、この付近はかつてさまざまな物資の荷揚げで沸騰する中世の一大物流・商業拠点だった。お十夜のにぎわいは、庶民性豊かなお寺の雰囲気をいまに伝えるものでもあるだろう。

 残念だなあ。せめてその残り香でもと、10月19日の日曜日の夕方、静寂に包まれた境内を訪れ、それから海岸に出た。おお!豆腐川のかなたには海に沈む夕日=写真。

 

本当は相模湾の向こうに低く伊豆半島が張りだしているので、夕日は伊豆の山々の向こうに沈むのだが、遙かに薄いもやと逆光線のおかげで、海に沈んでいくように見えるでしょ。こういうときは生半可な知識よりも感動する気持ちが大事である。

 「めっちゃ、きれいじゃね?」などと語尾をちょっと上げながら若者がスマホをかざす。傍らの岸壁では、中年カメラマンが三脚を立てて決定的瞬間を待つ。犬を連れて散歩を楽しむ人もいる。

 思い思いの砂浜。水平線の雲がオレンジに染まり、上空の青は次第に濃度を増していく。風が少し冷たい。ああ、秋だなあ。なにもないことの価値が、とりわけ貴重に思える時間でもある。