4360 グローバルファンドのマーク・ダイブル事務局長が記者会見 エイズと社会ウエブ版160

 

 世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)のマーク・ダイブル事務局長が1016日午後、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見を行いました。

 

 ダイブル事務局長は2006年から2009年まで米国の大統領エイズ緊急救済計画(PEPFAR)のトップであるグローバルHIV/エイズ調整官を務め、さらに20131月からグローバルファンドの第3代事務局長に就任しました。世界のエイズ対策は2000年以降、目覚ましい成果をあげてきましたが、資金面からその成果の二大推進力となったPEPFAR、グローバルファンドの両方のトップとして活躍されてきた世界のエイズ対策のキーパーソンの一人です。

 

 会見では、国際的な保健分野における日本の貢献を高く評価し、グローバルファンドへの支援に感謝をしめすとともに、「エイズは終わっていない。マラリア結核も終わっていない」として、公衆衛生の脅威としての3つの感染症の流行の終息に向けて、一層の対応の強化が必要であることを強調しました。

 

 また、2012年に米国の首都ワシントンで第19回国際エイズ会議が開かれたあたりから、エイズ対策の専門家の間で「エイズの終わり」といったことを強く意識する発言が相次いでいることについては、「公衆衛生上の脅威としての感染症の流行を終息させる見通しが立ってきた」との認識を示しています。

 

 つまり、現段階での「エイズ流行の終息」に関しては、HIVに感染する人が一人もいなくなる状態(いわゆる根絶の状態)ではなく、感染の拡大を食い止め、縮小に転じることで、流行を一定程度コントロール下に置ける状態の実現が当面の目標であるとの考え方を示しています。

 

 さらに、いわゆる根絶の状態にはワクチンが必要との認識に立ち、HIVワクチンに関しては、マラリアワクチンとともに「30%ぐらいの効力をもつものはすでにある。それを6070%に引き上げるためにさまざまな研究開発が進められている」と述べています。さらにそうした現状こそが「転換点」であることを強調し、一定程度の効力を持つワクチンが登場したときに最大限の効果を発揮できるよう、流行の規模を抑えていくのがグローバルファンドの役目だとしています。

 

 一方、エボラ出血熱の流行については、流行が深刻な西アフリカのリベリア、ギニア、シエラレオネ3カ国と周辺国を比較し「3カ国は紛争で破壊された保健システムが再建されていない。これに対し、周辺の国々は決して豊ではないが、しっかりと保健システムが機能しているため流行を抑えられているのだと思う」と話しています。具体的には、ナイジェリア、ウガンダセネガルなどがその封じ込めに成功している国々で、「貧困かどうかということより、発生に対応できる保健システムがあるかどうかが重要だ」と述べ、未知の感染症の出現にも対応しうるような保健システム強化の重要性を重ねて強調しました。

 

 会見の動画はYou tubeの日本記者クラブチャンネルで観ることができます。

  http://www.youtube.com/watch?v=7S4_OCZsRNg

 

また、個人的には会見日本語訳の要約版も作成しましたので、参考までに以下に紹介します。

 

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マーク・ダイブル世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長

 記者会見要約   1016日(木)

 

 日本は九州沖縄サミットでグローバルファンド創設のきっかけをつくり、2008年の洞爺湖サミットでは保健基盤強化を強調した。次にG8サミット主催国になる2016年にはユニバーサルヘルスカバレッジUHC)、保健と人間の安全保障を重視すると聞いている。グローバルファンドに対する拠出金は5位であり、今回の増資サイクルでは、三大感染症対策と保健基盤強化に8億ドルが拠出されている。多年の貢献に感謝したい。

 

 HIVTBマラリア対策は大きく進展した。低中所得国のエイズ発症は三分の一も減り、抗レトロウイルス治療を受ける人は当初5万人だったのが、いまは1300万人に増えている。

 

 マラリアでは50カ国で50%以上も減り、死者数も4050%減っている。アジア太平洋地域の国々でも根絶に近づこうとしている。

 

 結核も死亡を半減させるというMDGs目標に向けて軌道に乗っている。

 

 グローバルファンドはこうした成果に大きく貢献し、その支援プログラムによってこれまでに推定700万人の生命が救われてきた。大変な成果だが、まだ道のりは長い。エイズは終わっていないし、マラリア結核も終わっていない。

 

 エイズではいまなお、年間200万人が死亡している(注:UNAIDS推計の2013年の年間の死者は160万人)。妊娠可能年齢の女性、およびアフリカの若者の間では、主要死因となっている。

 

 マラリア5歳未満の子供の主要死因であり、毎年何億もの人がマラリアで働くことができなくなっている。

 

 多剤耐性結核の流行は急速に広がっている。東欧やサハラ以南のアフリカの一部ではとくに深刻だ。

 

 希望が持てるニュースは、いまが長い歴史のティッピングポイント(転換点)にあるということだ。最近2年間の科学的進歩は大きいし、過去12年間の多大な投資の成果が現場では蓄積されている。公衆衛生上の脅威としての感染症の流行を終息させる見通しが立ってきた。ただし、転換点ということは、どちらにも行きうるということでもある。12年間の投資の上にさらに努力を重ねなければ三大感染症をコントロールすることはできない。 人類を何千年も脅かしてきた結核マラリアの流行を終息させ、新たに登場したHIVの流行を終わらせる歴史的チャンスが訪れているが、いまその機会を失えば、子供や孫がもっと苦しむことになる。歴史的目標の達成には

 ・投資額を増やす。

 ・賢明な投資を行う。

 ・保健システム構築をさらに進める。

 ということが必要だ。グローバルファンドは官民パートナーシップに基づくユニークな21世紀型組織である。さまざまな課題に取り組むためイノベーションハブを立ち上げ、主に以下の3領域でイノベーションに取り組んでいる。

  金融財政管理

 調達チェーン

 品質保証(データ管理、人材育成を含む)

 

 

エボラ危機について

 保健システム強化の重要性は、いま目前にあるエボラ危機でも明確になった。流行が深刻なリベリア、ギニア、シエラレオネ3カ国と周辺国を比べると、保健システムに違いがある。3カ国は紛争で破壊された保健システムが再建されていない。これに対し、周辺の国々は決して豊ではないが、しっかりと保健システムが機能しているため流行を抑えられているのだと思う。ナイジェリアでは3週間前から完全に封じ込めに成功した。ウガンダ1例、セネガル1例、ガボンは数例でコントロールできている。ルワンダ、ケニア、エチオピアも同様だ。これらの国々はいまでも厳戒態勢にあり、再び発生があっても対応がとれるようになっている。貧困かどうかということより、発生に対応できる保健システムがあるかどうかが重要だ。紛争後の国々がその点で厳しい状況にあることも分かった。

 

 いまは世界そのものが狭くなり、人の移動性が以前より高まっている。エボラの流行はこれまで農村部で発生し、そこで封じ込めることができたが、今回は人口がどんどん都市部に移動していることが拡大に大きく影響した。これまで安保理がグローバルな安全保障の脅威として取り上げた感染症2000年のHIV2014年のエボラの2つしかない。どのようなパンデミックも一国を破壊する力を持っている。HIV結核マラリアだけでなく、新たな脅威には常に備えておかなければならない。

 

 HIV1920年代にキンシャサ付近で存在していたことが確認され、鉄道で鉱山労働者が移動するにつれて徐々に広がった。そして1960年ごろからの人の大きな移動で爆発的に増えたと考えられている。

 

 エボラは発症が速く、死に至る期間も短い。HIVは感染から発症までに10年から15年かかるので、我々が気付く前に、飛行機による人の移動で広がっていた。感染症グローバル化しており、現代社会の特長であるモビリティの高さ故に広がりやすくなっている。だからこそ、慢性疾患にも急性感染症にも対応しうる保健システムの強化が必要だ。グローバルファンドが保健システムの構築を支援するのもこのためだ。

 

 日本国内でエボラ出血熱が絶対に起こらないとは言えないが、日本はしっかりした保健システムがあるので十分、対応できる。世界のどの国でも起きうるという意味で警戒は必要だが、症例が発生するかどうかということより、重要なのはいかに対応できるかだろう。

 

 ナイジェリアのラゴスは人口密度も高く、世界でも最も混乱に満ちた巨大都市の一つだが、そこでもエボラを完全に抑えることができた。保健システムが非常に強力とはいえない国でも、ある程度しっかりしていれば対応はできると言うことだ。

 

 先ほどエボラの死者が1万人にもなりうるという話が出たが、実はエイズでは年間200万人も死者が出ている。緊急事態への対応はもちろん必要だが、同時により大きな公衆衛生上の脅威が他にいくつも残っていることも忘れてはならない。緊急的な対応とあわせ、より長期のパンデミックへも念頭に置かなければならない。

 

 しかし、どの感染症がどれだけ多くの死者を出したかというような競争でものごとをとらえてはならない。より長期の様々な問題に対応するにも保健システムの構築が大切だ。また、今後も新たな感染症の流行は何度も起こりうる。それに備えることは大きな使命だ。感染症には数千年も前から続いているものも、新たに登場するものもある。それをすべて管理できるようなシステム作りのイノベーションが必要だ。世界が一致して協力することが大事だ。

 

 

 ワクチンについて

 いまはなんとか封じ込めることが大切だ。そのうえで、根絶にはワクチンが必要になる。エボラウイルスに対しては来年早々にワクチンができるのではないかと思う。そうなれば今度は大量生産していかなければならない。いまエボラを封じ込め、やがては投与量も少なくてすむワクチンを開発して世界各地で使えるようにする必要がある。

 

HIVマラリアでも同様な努力が進められている。結核はもう少し長くかかるかもしれない。まずは封じ込めにより流行としての終止符を打つ。そうすればワクチンができたときに最大限の効果が期待でき、根絶に持ち込むことが可能になる。マラリアHIVのワクチンには30%ぐらいの効力をもつものがすでにある。それを6070%に引き上げるためにさまざまな研究開発が進められている。完成には数年かかるだろうが有望とされるHIVワクチンが出てきた。封じ込めができていれば、有効性の低いワクチンでも効果が期待できる。

 

だからこそいまが転換点なのだ。グローバルファンドは研究機関ではないので、ワクチン開発には投資していないが、できる限り流行を抑え、ワクチンが出てきたときに最大限の効果が発揮できるようにしておく。これが我々の役目だ。 

 

ポスト2015について

 これまでの努力を継続しないと三大感染症も制圧どころか増大しかねない。このことはもう一度、申し上げたい。現在のポスト2015の議論は私の解釈では、MDGsの成果の上に立ち、次の時代には個人をより全体としてとらえ、健康についても包括的にみていく方向になっている。日本がUHC、人間の安全保障を提唱していることは貢献できると思う。日本で開かれる2016年のサミットはポスト2015の最初のサミットなので重要だ。