4353 【湘南の風 古都の波】 秋の色 秋の味覚

 

 さわやかな秋空に鎌倉にもたくさんの人が繰り出しました。今年は海蔵寺の萩が例年以上に見事です。昨日のSANKEI EXPRESS紙の連載【湘南の風 古都の波】も、スーパームーン、萩の石段、十二所果樹園の栗拾い・・・とこれでもか、これでもかの秋色特集になりました。渡辺照明記者の写真はEXPRESSのサイトで、ゆっくりお楽しみ下さい。
http://www.sankeibiz.jp/express/news/140921/exg1409211645007-n1.htm


【湘南の風 古都の波】見事に赤きスーパームーン


鎌倉は三方を山に囲まれている。それはまあ、その通りなのだが、丘と呼んだ方がいいのではないかという説を唱える人もいるほど山の高さは低い。鎌倉アルプス最高峰の大平山でも標高は159メートルだ。

 ただし、山は高ければいいというものではない(と思う)。それが証拠に…秋のスーパームーンも低い山のおかげでひときわ赤く、見事ではないか。

 スーパームーンは月と地球が接近し、通常の満月より大きく見える現象だ。今年は7月12日、8月10日、そして写真の9月9日と計3回もあった。

 9日はあいにくの薄曇りだったが、その分、幻想的でもある。手前は海、そして、材木座の名刹(めいさつ)、光明寺本堂の大屋根も心なしか小さく見えるスーパーぶりをごらんいただきたい。

 こうやってゆっくり月を愛でることができるのも市街地の建物の高さが抑えられ、視界を遮るビルが少ないおかげだろう。月は山の端から顔を出す頃が最も赤い。次第に黄色に変わっていき、夜空に高く輝く頃にはほぼ白色に近くなる。

 8年前に東京から鎌倉に転居して以来、空を見上げる機会が増えた。個人的な話で恐縮だが、夜空に関しては実は、ひそかにショックを受けていることがある。北斗七星が見つからないのだ。どうしてなのか。

とくに星座に詳しいわけではないが、それでも少年の頃ならやすやすと見つけられた。老眼が進み、ひしゃくのかたちに並ぶ七つの星のどれか一つか二つの光を拾えなくなってしまったのだろうか。それはね、とご存じの方がいらしたらお教えいただきたい。

 ≪秋の色 秋の味覚≫

 鎌倉の秋が今年は駆け足でやってきた。残暑がそれほど厳しくなかったこともあって、その印象が強い。9月最初の3連休も例年より人出が多かったのではないか。扇ガ谷の海蔵寺では石段の両側の萩が見頃を迎えている。

 初秋の色は夏に比べ、ずっと柔らかく、優しい。

 鎌倉市東部の山間にある十二所(じゅうにそ)果樹園では9月13日午前、栗拾いが行われた。バス停を降り、果樹園に向かう山道を歩く。距離にして1キロ弱。舗装が途切れ、土の道に変わるあたりから「スズメバチに注意!」の張り紙が目立つ。

 立ち止まって読んでみると「果樹園に続く道の途中で9月3日午後、約70センチのスズメバチの巣の駆除を行いました」という。1週間程度は巣の周辺に数千匹単位のスズメバチが残っている可能性があり、非常に危険だという。

ええ? 自然は優しいだけじゃない。

 「1週間程度」とは微妙なところだ。すみかを奪われたハチの怒りももうおさまっているのではないか。いや、油断はできないぞ。この際、スズメバチにもヒトスジシマカにも刺されたくないなあ、などと情けないことを考えつつ、急勾配の山道をせっせと上がる。木陰でひと休みする気にもなれず果樹園に到着したころはもう汗だくだった。

 栗拾いに参加する25組の家族連れの皆さんも「おはようございます」と元気に到着する。どうやら大自然の小さな脅威におたおたしていたのは、臆病な新聞記者1人だけだったようだ。

 十二所果樹園は約5ヘクタール。公益財団法人鎌倉風致保存会の資料によると、横浜市から三浦市にかけて連なる三浦丘陵緑地帯の一部をなし、以前は地元の農事組合が所有していたという。

 しかし、農家の高齢化などで管理が困難になったことから、30年前に風致保存会が土地を借り受け、さらに8年前の2006年に買い取って管理している。6月の梅と9月の栗が果樹園の二大収穫イベントで、子供たちにとっては自然と親しむ貴重な機会でもある。

 「肥料も農薬も使っていません。人間がやっているのは下の草刈りだけ」

 風致保存会の野田充博事務局長から説明を受け、栗拾い開始。地面に落ちたイガは両足の靴底で踏むと、ぱかっと開く。中から顔を出した栗をトングで取り出す。なかなか面白い。

 収穫した栗は1キロ500円で持ち帰る。「40分くらいゆでるとおいしいよ」と風致保存会のおじさん、おばさんが子供たちに食べ方を教える。そうか。食欲の秋。スズメバチのことはすっかり忘れていた(それもまた少々、困る)。