4352 ニッポンの未来は・・・ラグビー日本代表、エディ・ジョーンズHC会見記

 

 ラグビー日本代表のエディ・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が18日、日本記者クラブで記者会見を行いました。来年秋のラグビーワールドカップW杯)イングランド大会(現地時間2015918日~1031日)の開幕まで1年、エディジャパンの目標は、まずW杯で勝利を得ること、そして、決勝トーナメント進出(8強)です。日本のW杯通算成績は24戦して1212分。それを考えると、1勝することだって簡単ではないし、ましてや8強のハードルは高い。それでもジョーンズHCJapan Way(日本のやり方)に自信を見せています。日本記者クラブチャンネルにユーチューブの会見動画がアップされているのでご覧ください。

http://www.youtube.com/watch?v=g-0H2khjpcM&list=UU_iMvY293APrYBx0CJReIVw

 

会見後、ラグビー好きのおじさん記者数名から「何か行けそうな気がしてきた」という感想を聞きました。そもそも、おじさんであり、新聞記者であるということは、二重の意味で単純の代名詞のようなものですが、それを割り引いても、説得力のあるお話でした。何となく私も、8強、行けるかもしれないという気がしてきたぞ・・・ということで、以下、感想記です。

 

 

     (写真は日本記者クラブ提供)

 

 ジョーンズHCの記者会見は、実は昨年秋に予定されていたのですが、直前に軽い脳梗塞で入院されたため中止になった経緯があり、1年後にようやく実現しました。中継動画でも分かるように、いまはすっかり回復し、日本代表の指揮をとっています。

 

 この間に日本代表はテストマッチ10連勝を飾り、国際ラグビーボード(IRB)の世界ランクも10位まで上昇しました。20124月にHCに就任して以来のJapan Wayが着実に成果をあげてきた結果といえるでしょう。ただし、現状はあくまで途中経過。評価は来年のW杯で決まるとジョーンズHCも語っています。善戦はしてもW杯になると勝てない。その壁を越えることができるのか。ラグビー人口の広がり、あるいはラグビー人気の高まりといった社会的要素も含め、その結果は2019年のW杯日本大会の成否にも直結します。

 

 ジョーンズHC1996年に日本代表のFWコーチを経験し、日本選手のポテンシャル(潜在能力)は高いと考えていたそうです。2012年にHC就任を受諾したときにJapan Wayを打ち出したのもそのためでした。会見ではまず、そのJapan Wayの説明がありました。

 

 プレースタイル

 理念

 準備

 選手選考

 

 パワーや体の大きさ、身長といった面で強豪国の選手より劣ることは認めざるを得ない。しかし、ラグビーは様々な要素を持つ複雑なゲームなので、プレースタイルでその不利を有利に変えていくことはできる。このためジョーンズHCはボール保持を重視するプレースタイルを追求しています。「60%は自分たちがボールを保持したい」ということです。

 

 キックはマイボール(自分たちの保持するボール)を一度、放すことになる。したがって陣地をとるためのキックはあまり考えない。キックもあくまでボールを取り返すための選択となる。日本代表のパスとキックの比率は101ぐらい。強豪国の中でも体が大きい南アは41ぐらいということなので、プレーのスタイルはかなり変わってきます。

 

 シェイプ(かたちをつくり)

 リンケージ(つなぎ)

 モーション(うごく)

 

 積極的な攻撃を重視し、ボールを持つ人間の選択肢を増やせるように全員が動いて有利な条件を作る。そんな感じでしょうか。そういえば、サッカー日本代表のアギーレ新監督も確か、ボールを持っていない選手の動きを見ていると言っていましたね。共通するものがありそうです。

 

 準備に関しては、規律を保ち、最新のスポーツ科学に基づいて筋力アップ、走力アップをはかる。日本代表の練習は午前5時から始まり、最初はウェイトトレーニングやフィットネス、個人技術の習得など。そして、午前10時から基礎練習。午後は試合形式のトレーニング。実際の試合よりも激しくやる。目指すのは「サムライの目」と「忍者の体」。常に相手を倒すチャンスをうかがい、フィールドのどこにいても攻める機会を見逃さない。そして、素早く、小さなスペースでも動ける体を作る。低く、強く、素早く動いて体格差を克服する。そのために格闘家からも指導を受けています。

 

 選手の選考に関しては、外国出身の選手と日本人選手とのいいかたちのミックスを目指す。ラグビーでは代表チームに外国選手が入ること珍しいことではなく、「イングランドでもトンガやサモアの選手を起用している」ということです。エディジャパンの方針は、チームの柱には日本人選手を起用し、パワーの必要なバックロー、センターに外国の選手を配するといったかたちのミックスだそうです。

 

 ラグビーW2015イングランド大会)で日本は予選リーグのプールB南アフリカサモアスコットランド、日本、アメリカの5チームの総当たり戦で、上位2チームが決勝トーナメントに進みます。日本の試合スケジュールは以下の通り(いずれも現地時間)

 

919日(土) 対南アフリカ

  23日(水) 対スコットランド

10 3日(土) 対サモア

    11日(月)  対アメリカ

 

 この組み合わせで行くと、少なくとも世界ランク2位の南アフリカ8位のスコットランドのどちらかに勝たないと決勝トーナメント進出は難しい。ジョーンズHCは「残念ながら今の日本に優勝は望めないが、8強なら可能だ」と次のように語っています。

 

 「南アフリカのことを毎朝、起きるたびに考えている。最初の2試合でいい試合をし、勝つことが大切。一つでも勝てれば、残る2試合は勝てる」

 

 本気ですね。勝てば話題になる。そうすればラグビーをやりたいと思う子供たちが増え、2019年のW杯日本大会にもつながる。

 

 思えば日本ラグビーの過去30年ほどはその逆のシナリオでした。強豪国には歯が立たず、敗戦を繰り返しているうちに人気を失い、サッカーにどんどん差を付けられて競技人口も減っていく。一方で、伝統的な国内ラグビーに対するコアなファンの層は底堅く、ラグビー界がそこに安住してあまりにもイノベーションがないままに時間が過ぎていった。

 

「国内で満足すると、さらに上に行こうとしなくなる。ただし、ドメスティックラグビーはインターナショナルラグビーではない。30年間、国内のラグビーはずっと同じだったが、世界はどんどん変わっていった。日本のラグビーは世界で最もオーソドックスで、イノベーションがなかった」

 

 こうなると、ことはどうもラグビーに限った話ではなさそうだ。どうすればこの停滞を打開できるのか。日本のポテンシャル(潜在能力)はどこにあるのかという質問に対し、ジョーンズHCは「適切な環境が与えられれば、闘志を持って戦うことができる」と述べ、それが日本の社会そのものの反映かもしれないといった趣旨の指摘も付け加えました。自分の属しているチームの中では強みを発揮する。一方で一人になったときの個々の気持ちには弱さが出てしまう・・・。ラグビーはチームプレーであり、その点は日本人の強みが生かせるところかもしれないが、個々の局面では個人が決断して状況を切り開いていく必要もある。このあたりのメンタルな柔軟さ、強靱さをどう伸ばすのか。

 

う~ん、どうでしょうか。ラグビーW2015開幕までの1年はJapan Way戦略の仕上げの1年でもあります。それが次のW2019への土台にもなります。日本ラグビーはいよいよ、これからが旬。ラグビーファンはもちろん、日本のビジネスリーダーや政官界の皆さんにとっても、見逃せない展開ですよ、これは。