4346  あえて、「特効薬がすべてではない」エイズと社会ウエブ版 156


 リベリアエボラ出血熱の治療のための未承認薬Zmappの投与を受けていた医師が死亡したというニュースがロイター通信の日本語サイトに掲載されています。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0GP1Z120140825

 以下、西アフリカのエボラ対策には当面、何の貢献もできていない立場からの感想で恐縮ですが、エイズ対策との共通領域といったものを念頭に置きつつ書いています。

 未承認薬は臨床試験により人に対する安全性や効果が確認されているわけではないし、ましてや特効薬でもない(期待はあっても、期待通りになるかどうかも分からない)。

 ただし、報告されている範囲で50%を超える高い致死率がある感染症の流行に直面し、WHOが専門家の協議を経て特例的に未承認の治療法を使用することも、この状況下では倫理にもとるものではないという判断を明らかにした。いまはその段階です。

 成功事例に接すれば、この治療法でエボラの流行を克服できるのではないかといった期待がどうしても高まってくるし、今回のような事例の報告があれば、そう期待通りにはいかないという現実に立ち戻ることもあるでしょう。使用する以上は、その使用を通して安全性や効果のデータを集めていくことが必要です。

 また、治療法がないとはいえ、対症療法によって患者の内部で病気と闘う力が出てくるまで、何とか支え続けることはできます。困難な状況の中でも、実際にそうした努力は続けられているし、その努力によって、確認された患者のほぼ半数が生き延びることができている。このことも重視する必要があります。

 いま報告されている致死率は、かなり医療基盤の脆弱な西アフリカの流行地域で、報告された患者数とそのうちの死亡者数との割合ではじき出されたものだと思うので、あくまで暫定的な数値としてとらえるべきでしょう。医療にもかからず、死亡している人がどのくらいいるのか。まだ把握はできていません。一方、先進国の医療機関並みのケアを受けた場合の致死率はどうなのか、それもはっきり分かっているわけではありません。

 未承認薬による治療も非常に重要ではありますが、できることはそれだけではないし、やらなければならないこともそれだけではない。エボラのアウトブレークに直面して当面の課題になっていることは、これまでの先行する感染症の流行の中でも経験してきたことがたくさんあります。その中でうまくいったことも、うまくいかなかったこともあるでしょう。一方、いまエボラの流行で直面している課題に対応することを通じて、社会的な対応を含め、今後のさまざまな疾病の流行に対する教訓もまた得られることになるのではないかと思います。

 いままさに現場で危機に対応している人たちにとっては、なにを悠長なことをいっているんだとお叱りを受けるかもしれませんが、極東の島国でアフリカの危機への支援ということを考えるときには、国内に入ってこなければいいとか、入ってきたらどうするんだとか、国内で未承認薬は使えるのかといったこと(も考えておく必要はあるけれど、それだけ)ではなく、もう少し視点を広げて考える必要があるのではないかと思います。