4337 トランスジェンダーをどう訳すか エイズと社会ウエブ版153


 日本精神神経学会、神庭重信副理事長が8月1日、「精神疾患用語改訂の背景」をテーマに日本記者クラブで記者会見を行いました。記者クラブ事務局からの猛暑よりも厳しく、力は機関車よりも強い指令により、その報告を担当しましたので、こちらでご覧下さい(会見動画もご覧いただけます)。
http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2014/08/r00027616/

 会見では、分かりやすく、噛んで含めるように説明していただいたのにもかかわらず、私には正直言って、ちゃんと理解できていたかどうか・・・。リポートにもそうした自信のなさが如実にあらわれています。悪しからず。

 なお、今回の改訂がニュースになったときには、トランスジェンダーの訳語が「性同一障害」から「性別違和」にかわるということがHIV/エイズ分野に関係する人たちの間で話題になりました。でも、話しはそう一足飛びには進みません。

 会見を聞いて私にもようやく分かったことなのですが、今回のガイドラインは、研究者の間で使われることが多い米国精神医学会のDSM-5(精神疾患の診断・統計の手引き第5版)の分類と名称について翻訳したものです。ここでは「性別違和」が使われています。

 一方厚生労働省などが採用しているのは世界保健機関(WHO)基準のICD(疾病及び関連保健問題の国際統計)分類に基づく名称で、こちらの次回改訂版となるICD-10(第10版)は2017年に出される予定です。したがって少なくともそれまでは、医療の現場では「性同一障害」が引き続き使われるということになりそうです。

 傾向としては、ICDの改訂も、DSM-5を踏まえた内容になるようなので、このあたりでトランスジェンダーに相当する日本語の名称も変わっていくという感じでしょうか。逆にいえば、過渡期を経て名称が確定するまでには、2年余りの検討期間があるとも言えそうです。当事者にも違和感なく受け入れられ、しかも一般的にも広く使われるようなる名称がこの間に登場し、できれば先行的に定着してくるといいですね。

 個人的にはどうかというと、私は「性同一障害」にも「性別違和」にも違和感があります。ただし、じゃあ代案を出せと言われても・・・。そもそもヘテロセクシャル初老男性(さすがにもう中年とは言えないか)の違和感なので、どんな用語が採用されても最初は違和感を持ってしまい、使われていくうちにだんだんなじんで来るのかもしれません。

 したがって、おじさんの違和感にはあまり重きを置かず、当事者である人たちの意見が反映されるようなかたちで言葉が定着していくといいのではないかと思います。

 また、生半可な知ったかぶりで恐縮ですが、現在の性同一性障害GID(Gender Identity Disorder)の邦訳で、そもそもが治療すべき対象を示す医療用語なのではないかという印象も受けます。

 医療関係者とは別の視点からとらえるとどうなるのか。今回の記者会見では、トランスジェンダーに関する議論はほとんど取り上げられていなかったので、改めて医療とは異なる視点から他分野の専門家をお招きし、トランスジェンダーについてうかがうことのできる記者会見の機会を持ちたい。そんなこともいま秘かに考えています(書いちゃったら「秘か」にはなりませんね)。