4332 「反同性愛法無効」のウガンダ憲法裁決定について エイズと社会ウェブ版152

 

 ウガンダ憲法裁判所が81日、反同性愛法の無効決定を出しました。同性愛行為を繰り返す者は終身刑、同性愛の関係を「援助または扇動」するだけでも懲役7年の刑を受ける恐れがあるというすさまじい法律です。国連合同エイズ計画(UNAIDS)はその日のうちにこの決定を歓迎する声明を出しました。様々な研究の成果を踏まえ、効果の高いHIV/エイズ対策の実現を目指して、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、そしてトランスジェンダーの人々の人権を守ることを世界中のすべての国に呼びかけているUNAIDSとしては当然でしょう。

 

 ただし、今回のウガンダ憲法裁の決定で、悪名高き現在の反同性愛法がウガンダから消えてなくなるのかというと、それはまだ分かりません。国際エイズ学会(IAS)の公式サイトには世界のHIV/エイズ関連のニュース紹介欄で『しかし、この決定は法律の内容ではなく、法手続に関するものであり、法律復活の余地も残されている』と書いています。IASの記事は、ニューヨークタイムズ紙の81日付の記事を要約して紹介したものなのですが、このIASの紹介記事をさらにまたかいつまんで私なりに咀嚼し、感想も交えて紹介すると以下のような事情のようです。

 

ウガンダ憲法裁が反同性愛法を無効としたのは、法律を可決した際に議会が定足数を満たしていなかったという理由からでした。つまり、法律の内容に踏み込んで判断したわけではなく、議会手続き上の問題点を指摘したわけですね。定足数に満たないまま採決しちゃう議会運営も相当な荒技でしたが、ここでさらに議員の皆さんが「内容は問題ないんだから」みたいなことで定足数を満たした状態で議決をやり直すという手もあるそうです。そうなると、法を再可決するという道は、実はまだ残されているということですが、ムセベニ政権は少なくとも1日時点では、即時に法の復活手続きを行うという動きは見せなかったようです。

 

 一方、UNAIDS1日の声明では「ムセベニ大統領は、すべての国民に生命を救うためのサービスが受けられるようにすることで、ウガンダエイズ対策を一層、前進させたいと個人的には思っている。私と会ったときにはそう語っていた」というミシェル・シデベ事務局長の談話が紹介されています。憲法裁決定はその意味で、振り上げた拳を下ろすいい機会ではないかと思うのですが、シデベ事務局長の期待通りになるかどうかは、まだちょっと分かりません。

 

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 それはそれとして、ウガンダの反同性愛法の背景について、私の知る範囲で補足しておきましょう。この法律は昨年12月にウガンダ議会で可決され、ムセベニ大統領が2月に署名をして正式に発効しました。

 

ウガンダにはもともと英国に統治されていた時代からのソドミー法が廃止されずに残っていたので、同性愛行為はずっと違法だったのですが、新たな反同性愛法では、同性愛行為を繰り返す者は終身刑、同性愛の関係を「援助または扇動」するだけでも懲役7年の刑を受ける恐れがあるという具合に罰則を強化し、取り締まりの対象も拡大しています。

 

 ウガンダはこれまで、アフリカ諸国の中でもとくにHIV/エイズ対策に力を入れ、成功を収めてきた国です。2代前のIASの理事長だったエリ・カタビラ博士、昨年の野口英世アフリカ賞受賞者であるアレックス・コーティノ博士といった素晴らしい医師、研究者を輩出している国でもあります。新法が厳しく執行されれば、HIV/エイズ分野の研究者、医療従事者、アクティビストといった人たちは軒並み逮捕、投獄されてしまうでしょう。とても現実に存在しうる法律とは思えません。

 

性的少数者を犯罪者として扱うような法律は、法の対象となる人たちの人権を大きく侵害するものであると同時に、HIV感染のパンデミック(世界的大流行)を克服しようとする国際的な努力を大きく妨げることにもなります。HIV感染の高いリスクにさらされている人たちへの支援がHIV感染の予防も含め、総合的なHIV/エイズ対策には不可欠であるとする最近の世界のHIV/エイズ対策の基本的な考え方にも明らかに逆行しているのです。昨年末から今年初めにかけて、ナイジェリアやウガンダで相次いで厳罰化に踏み切る法律が可決、成立したことから、国連合同エイズ計画(UNAIDS)や世界エイズ結核マラリア対策基金(世界基金)は深い憂慮の声明を発表していました。

 

 ただし、性的少数者を犯罪者として扱う法律は、世界各国でいまも数多く残っています。そうした法律がHIV/エイズ対策を大きく妨げ、HIV感染のパンデミック(世界的大流行)の拡大要因となっていることは、これまでにもしばしば指摘されてきましたが、なかなかなくなりません。ウガンダやナイジェリアにおける新たな反同性愛法の成立はそうした中で、同性愛者に対する一層の厳罰化の流れを促し、性的少数者への迫害を正当化するかのような立法でした。また、実際に性的少数者を迫害する動きは、ウガンダやナイジェリアに限らず、他の国々からもしばしば報告されています。

 

 7月にメルボルンで開かれた第20回国際エイズ会議(AIDS2014)のメルボルン宣言『誰も置き去りにできない』では《世界の80カ国以上で、性的指向を理由に人を犯罪者として扱う受け入れがたい法律が存在しています》と指摘した上で、各国、各国際機関に対する6項目の行動の呼びかけの最初にこう書かれています。

 

・各国政府はHIVに対する脆弱性を高めるような抑圧的法律を撤廃し、偏見に満ちた差別的な政策と法執行を直ちにやめる。また同時に、平等な扱いを実現するための法律を成立させる。

 (HATプロジェクト メルボルン宣言日本語仮訳から)

  http://asajp.at.webry.info/201402/article_5.html