4323 【湘南の風 古都の波】 海辺の朝 豊かな時間


 先週土曜日(19日)のSANKEI EXPRESS紙に掲載された毎月第3土曜日の連載『湘南の風 古都の波』の7月分です。「朝はまるで弱い」というのは11PM朝丘雪路さんの名コピーでしたね。私も朝丘派なので、「お前に言われたくないよ」と突っ込みが入りそうですが、鎌倉の魅力は朝です。渡辺照明記者の写真でたっぷりとその魅力をお楽しみ下さい。
 こちらで見ることができます。
 
http://www.sankeibiz.jp/express/news/140719/exg1407190825001-n1.htm

【湘南の風 古都の波】 海辺の朝 豊かな時間

 昼間はたくさんの人でにぎわう鎌倉の海水浴場も、朝は表情が違う。「おはよう」「暑くなりそうね」。砂浜を散歩する人たちが言葉を交わす。遠浅の海岸。朝の海風が涼しい。

 海水浴場の遊泳開始時間は午前9時。以後は午後5時までサーフィン禁止となる。早朝はサーファーたちにとってつかの間の至福の時でもある。

 国道134号を隔てて材木座の海を望むHOA CAFEは昨年(2013年)6月1日にオープンした。いま2度目の夏を迎えている。午前7時開店。できたてのドーナツとコーヒー。そして海を見ながらゆっくりと朝の時間を楽しむ。大豆ペーストを使ったドーナツは揚げるときの油の吸収が少なく、もちもちで、しかも、さっぱりしている。

 そんなに早くから人が来るの? 早朝営業を疑問視する声もあった。オーナーの赤坂大輔さんは「宣伝もしなかったので最初は大変だった」という。昨年(2013年)10月ごろから定着し始め、いまはたくさんの人が朝を過ごす。東京で不動産の仕事をする赤坂さんにとっては新しい店舗のコンセプトを提案する場でもある。

 「人がたくさん通るところではなく、昔の商店街のように地域に密着した半径500メートルぐらいの人にどのくらい利用されるか。地元の人たちの生活にどう溶け込めるか」

 説明してもなかなか納得してもらえないので、自分で試してみた。将来は米西海岸にも大豆のドーナツで店を出したい。鎌倉の海辺を選んだのはそのためでもあった。

 日本人が求める豊かさの質が少し変わってきた。そんな変化を感じさせる空間でもある。


 ≪地元と観光客 つながり生むきっかけに≫

 鎌倉市は人口17万程度の小ぢんまりとした都市なのだが、そこに年間2000万もの観光客が訪れる。春や秋、アジサイの季節の梅雨には観光名所も江ノ電も大混雑。夏の海の人出もすごい。もうこれ以上、観光客に来ていただかなくても…と他の町から見ればぜいたくな声も聞かれる。

 昨年(2013年)は世界遺産登録で苦い思いを味わい、そうしたモンロー主義的傾向が一段と強まった印象もある。

 だが、本当にそうなのだろうかという思いもまた、個人的には強い。もっと大きく開かれた魅力が鎌倉にはあるはずだ。たくさんの人に鎌倉に来てほしい。魅力を知ってほしい。

 鎌倉の中心軸、若宮大路の中間点付近にある食堂コバカバの内堀敬介さんは、朝に注目して発足したOtento Sun Sun Project実行委員会の代表でもある。

 「昼はたくさんの人が観光に訪れるが、地元の人と接する機会は少ない。朝はそのつながりが生まれるいいきっかけになる」

 もともと鎌倉は海や山に近く、朝の魅力を感じられる場所が多い。2年前に朝食など早朝サービスを提供する店舗やプログラムを集め朝マップを作った。

 鎌倉には少し前からIT関連の会社が他から移転してくる動きがあり、その関係者らが中心になってできたカマコンバレーというグループが町の活性化につながるさまざまな活動を行っている。今年はその活動の一つであるクラウドファンディングも活用してウェブサイトを開設し、朝マップのフリーペーパー「Good Morning Kamakura」を発行した。

 コバカバは2006年の開店当時から朝食も出している朝ビジネスの先駆者。内堀さんは「明らかに朝やっているお店が増えた」という。今回は店舗、宿泊施設、活動57件を紹介。材木座のHOA CAFEや御成商店街のコーヒースタンドTHE GOOD GOODIESも開店したのは昨年だ。地元の人たちに定着し、それがまた魅力となって観光で来た人も訪れる。「鎌倉の良さは居心地のいい時間の流れがあること」と内堀さんは説明する。

 「お天道さまが出たら起き夜は眠る。渋谷から本社を移したIT企業の人に、夜は休むもんでしょと言うとカルチャーショックを受ける。最近はお試しでお日さまが昇っているときだけ働いてみようという人もいる」

 あまり親密ではなかった「地域の濃いカルチャー」とIT企業との間にも、朝をキーワードにつながりが生まれてきそうだ。鎌倉はやはり古そうで新しい。