4316 いわゆる「ミシシッピベイビー」の症例について エイズと社会ウエブ版144

 

 米ミシシッピ州HIV陽性の赤ちゃんの治癒が実現したというニュースが話題になったのは2013年でした。しかし、4歳になった女児は実はHIVに感染していたことが最近、確認され、抗レトロウイルス治療を再開しているということです。

 

 残念な経過ではありますが、そもそも極めてまれな状況下における事例なので、これをもって広く治癒療法の普及が期待できるというものではありませんでした。研究者の皆さんには今回の事例から得られた知見を生かしつつ、さらなる研究を進めていただくとして、エイズ対策に関しては、短時日に治癒療法の確立が期待できるものではないという現実を踏まえ、さらに息の長い努力を続けていく必要があります。こうしたことが、メルボルン720日から始まる第20回国際エイズ会議(AIDS2014)を前に再確認されたことはよかったのではないかと思います。

 

 ミシシッピ州の女児には抗レトロウイルス治療の継続により、HIVの感染をコントロールしながら成長を続け、社会生活が送れるようになることを願っています、この点は他のHIV陽性者と特別に変わるものではありません。その意味でも、HIVの流行に対する社会的対応、とりわけ社会の中に根強く存在する差別や偏見を丹念に辛抱強く解決、解消していくことが必要になります。これも以前と変わりません。

 

 この点はことさら医療の専門家ではなく、また、HIVに感染しているかどうかにもかかわりなく、言えることではないでしょうか。ちゃらんぽらんな生活を送っている新聞記者のおじさん層あたりでも大いに参画が可能な領域があるわけですね。エイズ対策の重要性というのは、さまざまな立場の人が、その立場は立場として、取り組むことができる間口の広さと、いったん踏み込んじゃうといろいろな課題との接点が見えてくる奥行きの深さの両方を兼ね備えていることにあるのではないかと個人的には思います。

 

 それなのにどうしてこう、社会的関心が低いなどということがことあるごとに指摘されるのか。私にはちょっと分からないところなので、こうした不思議さにも新聞記者的には大いに刺激を受ける要素があり、したがって(ああでもない、こうでもない)・・・と思う人は少ないのかなあ。

 

 それはともかくとして、HATプロジェクトのブログに国連合同エイズ計画(UNAIDS)と国際エイズ学会(IAS)の反応を日本語仮訳で掲載しました。

http://asajp.at.webry.info/201407/article_3.html

 

 (解説)米ミシシッピ州HIVに感染して生まれたばかりの女児に集中的な抗レトロウイルス治療を提供した結果、赤ちゃんの体内からはHIVが長期にわたって消えていた。2003年春に発表されたいわゆる「ミシシッピベイビー」の症例はHIV感染の治癒症例として世界の注目を集めてきましたが、米国立衛生研究所NIH)は710日、この女児の血液中に再びHIVが存在している明確なエビデンスがあると発表しました。検出不可能なほど微量のHIVが女児の体内のどこか(リザバー)に残っていて、そこから再び増殖がはじまったということでしょうから、「ミシシッピベイビー」は治癒症例ではなかったわけですね。この発表を受けて711日付でUNAIDSの公式サイトに掲載された《Mississippi baby shows signs of HIV infection》および同じく711日付の国際エイズ学会(IAS)の声明《Statement on the reemergence of HIV in the Mississippi Baby”》の日本語仮訳です。