4306 『2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言』1 エイズと社会ウエブ版141

 

 国連エイズ特別総会は20016月にニューヨークの国連本部で開かれ、その後の世界のエイズ対策の指針となるコミットメント宣言を採択しました。この宣言の特徴は、各国や国際機関が宣言の中で約束したことに2003年、2005年、2010年という締め切りを明示して実施を迫ったことです。

 

おおざっぱに言えば、2003年までに約束を実施するための体制を整え、2005年には具体的に実行に入り、2010年にその成果を出す・・・といった段取りでしょうか。がいま振り返って見ると、コミットメント宣言後の10年間は世界のエイズ対策が目覚ましい成果をあげたとしでした。

 

 しかし、2005年の段階では、まだその成果は具体的に見えてこない。国連エイズ特別総会後もさまざまな会議の場で約束や構想や計画が発表され、実行できる条件を積み上げていった時期だったからかもしれませんが、エイズ対策の現場からは約束ばかり乱発されても実行が伴わなければ意味がないといった怨嗟の声も聞こえました。世界エイズキャンペーン(WAC)がKeep the promise(約束を守れ)を2005年の世界エイズデーのテーマに掲げたのもそのためです。

 

WAC1997年に国連合同エイズ計画(UNAIDS)事務局の一部門として発足しましたが、2004年にUNAIDSから独立したNGO主体のキャンペーン推進組織となりました。現場に近いところからテーマを検討し、キャンペーンを推進していこうという強い意向が、その現場の人たちから表明されたからです。以下に紹介する文書『2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言』はそのWACが作成し、2005年の世界エイズデーを前に「約束は実行されなければ意味がない」ということを強く世界に向けてアピールしたものです。長文なので3回に分けて掲載します。

 

   ◇

 

2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言1(2005.12.26

(解説) 2005年の世界エイズデー121日)を前に、2001年以降に各国政府、国際機関などが行った宣言や声明の中に盛り込まれた公約、約束を世界エイズキャンペーンがリストアップした。2001年が起点になっているのは同年6月の国連エイズ特別総会におけるコミットメント宣言が最も重要かつ基本的な公約であるからだ。そのコミットメント宣言がどこまで実現しているのか、いないのか。果たされない約束に対する苛立ちが、説明責任を果たすよう求める動きにつながっていると世界エイズキャンペーンは指摘する。

 

 

    約束、約束・・・

 2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言

    世界エイズキャンペーン 200511

 

 世界エイズキャンペーン(WAC)のゴールはエイズの流行に対し、効果的かつ持続的な対策の強化をはかることである。私たちは国内的、国際的な協力を助け、エイズ対策のパートナーシップを広げていく。コミットメント宣言をはじめ、エイズに関する過去の政策面での公約、約束についての理解を広げることが、それを成功させるには不可欠である。これらの約束はどうなったのか。私たちは各国政府に説明を求めていく。

 

 キャンペーンに関する情報は www.worldaidscampaign.org へ

 

目次

 1.  はじめに                                3

 2.  この5年間は分かりきったことの説明? それとも破られた約束の日記帳? 5

 3.  終わりに                                9

 

1.はじめに

 世界中で広がり続けるHIV/エイズの流行に歯止めをかけ、影響を軽減するためになされた約束は、うんざりするほど何回も破られてきた。信頼できるリーダーシップを求めるにはまず、HIV/エイズに関し、いかに多くの声明や約束や宣言が出されてきたのかを理解しなければならない。

 

 この文書の主な目的は、過去5年間に各国政府や国際機関が出し続けた声明を忘れないように記録し、その約束がどうなったのかを評価するための枠組みを示すことである。

 

 私たちはそれらの声明を単なるテキスト以上のものとしてとらえるよう望んでいる。現在進行中のHIV/エイズに関する言説の重要な一部をなし、文書やスピーチの表面上の文言を超える重要性と目的を持つものとしてとらえるべきなのである。

 

 HIV/エイズ分野ではしばしば、新たな約束を発表することで国際的な政策が定められてきた。HIV/エイズに関する約束の行方を議論することは、政府が政策課題の中に地球規模のHIV/エイズ対策を組み込むことを促す手段となる。

 

 HIV/エイズに関する声明、約束、宣言の枠組み

HIV/エイズに関する声明、約束、宣言は、「事実の提示」「重要なファクターの確認」「意向表明」「具体的な約束」「これまでの約束の反復」のいずれかに分類できる。

 

・事実の提示 ある時点で分かっていることの発表

 《例 20年を超える流行を経験してもなお、基本的HIV予防サービスへのアクセスが得られる人は5人に1人にも満たない》

・重要な要素の確認 

《例 エイズから自由な時代という目標の達成には、国際レベル、全国レベル、地方レベルのそれぞれで強い政治の関与、明確なリーダーシップ、資金の増額が不可欠なことを欧州連盟(EU)は認識している》

・意向表明

 《例 われわれ(EU)は効果的で役立つ保健システムの構築を助け、リプロダクティブ・ヘルスの必需品の深刻な不足状況を解決しなければならないことを認識している》

・具体的な約束 達成年限や特定の目標が示されることがしばしばある。

《例 2010年までに欧州と中央アジアで乳幼児のHIV感染をなくす》

・新たな事実や展開、政治的な経過に基づく、これまでの約束の反復

 《例 欧州連盟は2006年のUNGASS5の検証がきちんとした成果を示せるよう必要な行動をとるとともに、参加者がそれぞれの役割を果たすように求めていくことを強い決意で約束する》

      (上記の例は2005世界エイズデーのためのEU声明から引用)

 以上に加え、6番目の要素を考慮に入れることも大切である。

 ・最近の地政学的、およびその他の重要な出来事

《例 9・11の悲劇》

 

 事実の提示は、とりわけ科学的知識に関しては、変わりうるものである。その時点で最良の知識に基づくものであっても、時代遅れになったり、後で不正確であることが分かったりするものは多い。「事実」は永遠ではないので、現在のHIV/エイズに関する知識に基づいて出された声明や約束には賞味期限があると考えておかなければならない。

 

 振り返ってみれば、これまでの多くの宣言-その時点で広くHIV/エイズに関する公約、約束とみなされていたもの-が、より正確には「事実の提示」または「重要なファクターの確認」だった。HIV/エイズに関する政府の新たな約束がどんなものであろうと、詳しく分析すれば実は、流行の現状やそれに対する認識を示すものに過ぎないことも多い。

 

 意図せざるごまかしの結果だとは考えたいが、もちろんそれでHIV/エイズの流行に対する闘いに進展が見られないことに対する失望が和らぐものではなく、むしろ増すかもしれない。多くの証言者にとって、とどまることのない流行とその影響は、まさにそれを止めるべき立場にある人々や組織が次々に出してきたうんざりするほど多くの公約、約束とともに拡大してきたのである。

 

 何年もの間、声明が約束であるかのように装ってきたレトリックの果てに、2005年も終わろうとしている。HIV/エイズに関する言説が「どうしてHIV/エイズ対策は失敗してきたのか」という疑問に向かうのも驚くにはあたらないだろう。

 

 この疑問は直ちに、それではHIV/エイズに関する明確な約束はどこにあるのかという問題を提起し、その約束が守られてきたのかどうか指導者に説明を求める声が高まっている。HIV/エイズの流行に対して最もバルナラブルな人々やコミュニティが生きていけるようにするため、新たな千年紀の最初の5年間になされた約束のレトリックを現実の変化に変えていかなければならない。