4304 【湘南の風 古都の波】 Aトレインで行こう


 いよいよ海開きですね。江ノ電も海辺のC(シー)トレインの季節になります。先週土曜日のSANKEI EXPRESS紙に掲載された【湘南の風 古都の波】で名残のA(アジサイ)トレインをお楽しみ下さい。渡辺照明記者の写真はこちら。
http://www.sankeibiz.jp/express/news/140630/exg1406301555003-n1.htm

 

【湘南の風 古都の波】 Aトレインで行こう

 小さな石段にあふれる人波は初詣以上だろうか。鎌倉市坂ノ下の御霊(ごりょう)神社は境内の石段を上がったところに江ノ電の線路が走っている。鳥居の目の前だ。

 その線路の両側にはピンクや青のアジサイが咲き競い、カメラを手にした人たちが電車を待ち構える。A(アジサイ)トレインはまだか…。

 カンカンカン。警報機が鳴り出した。遮断機が下りる前に、拡声器を持った警備員が踏切の外へと観光客を誘導する。

 「遮断機から身を乗り出すのもやめてください」

 梅雨の鎌倉を訪れる遠方の客人をむげに排除などできない。とはいえ事故が起きたら大変だ。

 石段脇には「江ノ電からのお願い」の看板。「線路内での撮影は危険ですので絶対に入らないでください」「列車に向けてのフラッシュ使用、その他列車の運行に影響を及ぼす行為については禁止します」…。

 鎌倉のホスピタリティは大いに発揮しつつも、安全確保には万全を期したい。全国からおいでの皆さん、ご協力お願いします。

 外食しようにもレストランはどこも満員。さりとて自宅にいても外がざわついて…。「お・も・て・な・し」の心ではひけをとらない鎌倉の住人にとっても、6月は試練の月だ。とりわけ御霊神社界隈(かいわい)は、春から放映されていた人気ドラマの舞台でもあり、人の集まり方が半端じゃない。

 石段の向こうに海を望める成就院江ノ電御霊神社、そして長谷観音で有名な長谷寺アジサイ名所が線でつながり、露座(ろざ)の大仏も近い。最後は砂浜で夕暮れの海。こんなにぜいたくな梅雨の散歩道は、確かにちょっとなさそうだ。

 

 ≪雨の降る町 似合う花≫

 JR鎌倉駅の西口は改札口ひとつで江ノ電鎌倉駅につながっている。ただし観光シーズンの休日になると、この連絡口は閉鎖されることが多い。あまりの人出に収拾がつかなくなってしまうからだ。

 いったん駅前の広場に出て改札口に入り直す。「江ノ電は30分待ちです」と雑踏警備係の職員が拡声器で告げていた。そうか。12分間隔の電車を3本は待つ。しかも車内は通勤ラッシュ並み。うぇ~と驚くのはまだ早かった。

 「長谷駅に着いても、長谷寺は120分待ちとなっています」

 鎌倉のアジサイ名所の一つ、長谷寺でも行列ができているという。近くの成就院や北鎌倉の明月院も同じだろう。それでも人が集まる。多少の混雑を覚悟してでも訪れる価値があるということだろう。せっかくここまで来たのだからと思う気持ちも分かる。

 名所の吸引力に敬意を表しつつ、鎌倉には他にも落ち着いてアジサイ散策を楽しめる場所がたくさんあるのにとも思う。なによ、その上から目線は!というおしかりは覚悟の上で、参考までに紹介しておこう。

 たとえば、大町の妙本寺は鎌倉駅からも至近。深い木立の参道を抜け、二天門に上がる石段の両脇は比較的、開花が遅く、今週末が見頃か。鎌倉有数の花の寺である扇ガ谷の海蔵寺もすばらしい…。あっと、こうやって紹介し始めると、またそこが大混雑ということにもなりかねないか。

 ことさら名所を訪ねなくても、この季節に町を歩けば、あちこちで、「あっ、いいね!」というアジサイスポットに遭遇できる。

 鎌倉には6月の雨が似合うようだ。アジサイ以外にも、ハナショウブ、イワタバコ、キキョウなど雨に息づく花が多い。それぞれに楽しんでほしい。

 月が変われば7月1日は由比ガ浜、材木座、腰越の3海水浴場の海開き。8月31日まで2カ月間の海水浴シーズンが始動する。昨年は一部の海水浴客の目に余る行為によって風紀の乱れが問題になった。その苦い経験から、鎌倉市は今年、海水浴場のマナー向上のための条例づくりを進め、海の家の組合もクラブ化禁止など厳しい自主規制ルールを定めて熱い夏に臨もうとしている。

 人が集まる。それは鎌倉が魅力豊かな町であることの証明に他ならない。ただし、その結果として解決すべき問題もさまざまに起きる。訪れる人も、迎える人も、町の魅力を壊さないようにするにはどうしたらいいのかを考えたい。そんな思いもまた、アジサイの季節にはとりわけ強くなる。