4285 大観衆よ再び

 

 本日付ビジネスアイ紙に掲載されたコラムです。香港戦の後、日本代表は秩父宮ラグビー場サモアに勝ち、パシフィックネーションズカップでは完全アウェーの状況下、カナダ代表に逆転勝利をおさめ・・・と快調です。若手の活躍もあって、これからのノビシロも期待できそう。楽しみですね。


【視点】大観衆よ再び 2019年ラグビーW杯に期待
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/140610/cpd1406100500001-n1.htm

 

 現というか旧というか、役割を終えた国立競技場最後の公式試合は、5月25日のラグビー日本代表対香港代表戦だった。

 「6万を超える大観衆の声援が地鳴りのように響いてくる」「上からでなく、下からくるんですよ」…解体を前にした新聞やテレビの特集で、幾多のラガーメンが「あの国立」への思いを語っていた。「へえ、そうだったの」と認識を新たにした若いファンも多かったのではないか。

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 そうなんですよ。国立競技場を満員にするスポーツといえばラグビーだった。それに引き替え…と大昔のラグビー少年はついつい思う。香港戦は少々、寂しかった。

 観衆は6万ではなく、1万6000。バックスタンドの自由席は真ん中に近いところこそ満員だったが、少し外れるとがら空き。そりゃあね、缶ビール片手にのびのびと足を伸ばせる。芝生の緑は鮮やかだし、夕涼みには最高…って、そういうことを求めているんじゃないのよ。5月の夕風はさわやかだが、一抹の寂しさも感じる。

 3戦全勝同士でアジア5カ国対抗の優勝をかけた一戦。しかも、この試合に勝った方が、来年秋にイングランドで開かれるラグビーワールドカップ(W杯)のアジア代表に決まるという大一番なのに…。香港代表の健闘で、守勢に回る時間帯が多少、長かったとはいえ、結果は49-8と日本代表の圧勝だった。男子15人制ラグビーに関する限り、日本はアジア最強といっていい。ただし、あくまでこれはアジア限定の話だ。

 ラグビーW杯は1987年に第1回大会がニュージーランドとオーストラリアで開かれている。サッカーに比べ歴史は浅い。日本はその中で来年のイングランド大会も含め8大会連続の出場となる。快挙ではあるのだが、一方で過去の日本代表のW杯戦績は24戦して1勝2分21敗。アジアでは無敵、でも世界には通用しない。このがっかり感が、少しずつスタンドからファンの姿が減っていった遠因ではないか。

 視点を少し変えてみよう。第1回W杯の2年後の89年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦後の時代が始まった。世界が大きく変化する中で、95年の第3回W杯は国民融和を掲げたマンデラ政権下の南アフリカで開かれ、主催国南アのスプリングボクスが優勝した。この大会で日本はニュージーランドに145対17と大敗している。偶然の出来事だったわけでもなさそうだ。

 冷戦終結と軌を一にするように、世界のラグビー界も4年に一度のW杯という大イベントの求心力が刺激となり、大きく進化している。南半球や欧州では強豪同士の対戦の機会が増え、戦略論やコーチ理論、選手の育成体制などの急速な進歩が促されるようになった。

 日本はそのいわば国際化の流れにうまく対応できず、出遅れた感が強い。

 最近は国内リーグであるトップリーグに世界の一流選手が多く参戦し、日本の選手もその技量を吸収して成長を遂げている。世界最強リーグである南半球のスーパーラグビーに挑戦する日本人選手も増えた。個々の選手の力は確実に上がっている。

 それでもW杯では勝てない。過去2大会はカナダと引き分け、他にも惜しい試合があった。だが、善戦はしても勝ち切れない。どうすればその壁を突き破れるか。エディー・ジョーンズ氏(日本代表ヘッドコーチ)の目標はもう少し大きそうだが、足下を見つめればそれが来年の課題だろう。

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 イングランド大会の次の19年W杯は日本で開催される。東京五輪の前年に完成する新国立競技場は、ラグビーW杯が最初の国際大会となる。開幕戦や決勝戦を8万の大観衆で埋めることができるのか。イングランド大会で1勝、ないしは2勝できれば国内のラグビー人気も一気に高まる。

 日本ラグビー協会は、19年W杯の成功に向け募金活動を行っているが、東京五輪がすぐ後に控えていることもあり、寄付集めは苦戦気味だという。

 ここでつまずいてはまずい。ことは冷戦後の長い苦難を脱しようとする日本の将来にもかかわる問題だ。自信はないが、たぶん、そうだと思う。おじさんも少しだけ飲み歩くのを控え、ジャパンを支えるささやかな貢献を考えてみるかな。