15日(土)のSANKEI EXPRESS紙に掲載された【湘南の風 古都の波】の原稿です。渡辺照明記者が午前6時から漁船に乗り込んで撮影したワカメ漁の写真はSANKEI EXPRESSのサイトでご覧ください。厳しかった冬も、もうひと息。3月11日には鶴岡八幡宮で神道、仏教、キリスト教合同の東日本大震災追悼・復興祈願祭が執り行われます。
http://www.sankeibiz.jp/express/news/140217/exg1402171545004-n1.htm
【湘南の風 古都の波】春を思い、冬を忘れず
海岸に出ると、風が一段と強くなる。温暖なはずの鎌倉でも、今年の冬は例年になく厳しい。
夕日が沈む海で、それでもサーファーたちは波を待っていた。
寒いのは当たり前…ではあるけれど、今年は2月に入ってますます風の冷たさが身にしみる。
首都圏を銀世界に変えた2月8日の大雪では、JR横須賀線が止まって鎌倉は陸の孤島状態になった。短時間だったが断続的な停電があり、心細い思いをした人も多かったようだ。真っ暗な部屋にぽつんと取り残されると、3年前の東日本大震災の後の計画停電の記憶がよみがえる。
いつもは観光客でにぎわう小町通りに人影がぱったりと途絶え、春先の少し暖かい日でも海岸を散歩する気にはなれない。ついこの間のことなのに、もう忘れかけている。雪の夜の停電で、そのことに改めて気付かされる…。
あの日から3周年となる3月11日、鶴岡八幡宮では神道、仏教、キリスト教合同の東日本大震災追悼・復興祈願祭が執り行われる。鎌倉で3つの宗教が一緒になり、初めて東日本大震災の犠牲者追悼と被災地の復興を祈願したのは、震災から1カ月後の4月11日だった。会場は今回と同じ鶴岡八幡宮境内である。
その後、2012年3月11日に北鎌倉の建長寺、翌13年には若宮大路のカトリック雪ノ下教会へと会場を移し、一巡したかたちで今年は鶴岡八幡宮に戻ってくる。忘れない。その思いを込めて祈る。鎌倉の春はおそらく、そこから始まるのだろう。
≪寒風に早緑匂うワカメ漁≫
材木座沖の海上をウインドサーフィンの帆が西から東へと猛スピードで走り抜ける。風が強い。沖合の波のうねりも高そうだ。
2月11日午前10時、収穫したばかりのワカメを積んで第2上光丸がそのうねりの中を戻ってきた。写真撮影のために同乗させていただいた渡辺照明記者の到着後第一声。
「いやあ、大変な仕事ですよ」
小さな漁船が浜を出たのは午前6時だった。日の出がだいぶ早くなったとはいえ、まだあたりは暗い。船主の上ノ山光男さんと弟の良夫さん、そして渡辺記者の3人は寒風の中、ワカメ養殖用の筏(いかだ)がある800メートル沖の海上で約4時間を過ごしたことになる。
ぐらぐらと揺れる船の上で、不安定な姿勢のまま船を操り、ワカメをたぐる。少しずつ明るくなっていく夜明けの海で、波のしぶきをかぶりながら、兄弟は黙々と作業を続けた。
鎌倉のワカメ漁は2月1日から3月半ばまで続く。毎日、沖に出て生育環境を整えながら大切に育ててきたワカメがようやく収穫の時を迎えたのだ。
砂浜では光男さんの奥さんの環さんが朝早くから、ドラム缶を横にして作った大釜に水を張り、かまどに薪をくべてお湯を沸かす。冷却用の3つの水槽にも井戸水を満たす。
「みんなでわいわい言いながら作業をするのが楽しくて」と近隣の人たちが手伝いにやって来る。平日で4、5人。11日は建国記念の日で仕事が休みの人も含め10人以上も集まった。
漁船から降ろされたワカメを大釜でさっとゆで、茶色かったワカメがたちまち鮮やかな早緑色に変わる。一気に春を迎えるような色彩の変化は、確かに見ているだけで楽しい。
冷水にザブンとつけたあと、手伝いの人たちが次々に干していく。干し場にわたされた細い角材には洗濯ばさみがずらっとぶら下がり、次から次へとまだ来ぬ春が干されていく。
干したワカメは夕方、取り込み、ゴザにくるんで小屋にしまっておくという。雨に降られて濡れたり、強風で砂まみれになったりすると困るからだ。翌日また干し直し、かりかりに黒い干しワカメになるには、けっこう手間がかかる。
手伝いの人たちのもう一つの楽しみは生ワカメだろう。しゃぶしゃぶにするとおいしいとか。
「食べなきゃ取材にならないよ」というお言葉に甘えて少しもらって帰った。熱湯にくぐらせ、さっと緑に変わるところを目で味わう。これもまた、春を待つ冬の日ならではの楽しみなのかもしれない。