4242 【湘南の風 古都の波】 静かな冬の空 光の競演


 天気予報によると、この週末はちょっとだけ寒さがゆるみそうですね。助かります。なにせ寒さには弱いもので・・・。SANKEI EXPRESSに掲載された連載【湘南の風 古都の波】も新しい年を迎えました。渡辺照明カメラマンの写真はこちらでご覧ください。
http://www.sankeibiz.jp/express/news/140120/exg1401201625003-n1.htm 
 本年も引き続き、よろしくお願いします。


 【湘南の風 古都の波】 静かな冬の空 光の競演

 北極圏の寒気がぐっと張りだし、アメリカではナイアガラの大瀑布まで凍ってしまったという。沖合に黒潮が流れる鎌倉や江の島はそこまでひどくはないがやっぱり寒い。
 新しい1年に何が待ち受けているのか。いまはまだ予想もつかない。とりあえず少々の寒さぐらいは良しとしよう。
 しんしんと冷える夜空には光が美しい。江の島の展望灯台シーキャンドルは昨年(2013年)11月30日からライトアップされている。2月2日まで。「この寒さに…」などと言うなかれ。成人の日の13日も展望台から湘南の夜景を楽しもうという人が列を作っていた。
 え、40分待ち? 寒さに弱いおじさん層は、ついつい「ひゃあー、たまらんねえ」と悲鳴をあげてしまうが、列に並ぶ人は楽しそうだ。周囲の庭園も美しい光で飾られている。
 江ノ電の駅でもらったカラフルなチラシには「関東三大イルミネーション」の文字。栃木県足利市の「あしかがフラワーパーク」、千葉県袖ケ浦市の「東京ドイツ村」、そして「江の島 湘南の宝石」が、夜景観光コンベンション・ビューロー認定の「関東を代表する冬期イルミネーション」に選ばれたのだという。
 そうか、三大となれば、40分待ちにひるんでいる場合でもなかろう(風邪ひくなよ)。
 この輝きはおそらく、周囲の海を包む闇の効果も大きい。音も光も吸い込んでいくような静けさは冬ならでは。そして、日没が少しずつ遅くなり、寒さの中に春の訪れを予感させる明るさが出てくるのも、この時期の魅力である。


≪古式ゆかしい建築始め 鎌倉の栄華を思う≫

 冷え込みは例年になく厳しかったとはいえ、鎌倉の2014年はおおむね穏やかなスタートだった。鶴岡八幡宮の境内は三が日の後もたくさんの初詣客でにぎわい、長い行列が続いた。
 4日が土曜、5日が日曜だったからだ。市内の建築関係者の仕事始めでもある手斧始式(ちょうなはじめしき)は、例年と同じく4日に行われている。
 鶴岡八幡宮源頼朝により、1180(治承4)年に造営され、その後、火災で焼失したことから1191(建久2)年には現在地に上宮が造られている。それらの工事の際には、船で由比ガ浜まで輸送された木材を大工さんらが「鎌倉天王唄」を歌いながら運んでいったという。
手斧始式はこの故事にちなみ、いまも市内の建築業者たちがJR鎌倉駅に近い二ノ鳥居から若宮大路の段葛(だんかずら)を通って境内まで、ご神木を運ぶ。
 舞殿の前に供えられたご神木には神職による祭儀の後、烏帽子直垂(えぼしひたたれ)姿の大工さんが「さし」を使って寸法を定め、のこぎりをひき、墨打ちをして、かんなをかけるといった作業を古式ゆかしく往時の所作で披露した。
 手斧は小型の鍬(くわ)のようなかたちをした大工道具で、木材を荒削りするのに使われる。このほか、長い柄の付いたやりかんななど、最近ではもう見られない道具も使われ、初詣の列に並ぶ人たちも思わず足を止めてのぞき込んでいた。
 「材木座」の地名がいまに残ることでも分かるように、鎌倉時代の政権都市は大規模な土木、建設工事のラッシュだったのではないか。港には材木が次々に運び込まれ、新しい世の中を切り開こうという強い意欲と勢いに沸き立った時代と土地があったはずだ。
 足りないものだらけであっても、希望はある。そんな想像に、現在の日本をつい重ねてみたくなる。
11日の土曜日には、その材木座海岸で、大町の八雲神社の神主さんや地元の漁業関係者らによる汐神楽(しおかぐら)が行われた。海の安全と豊漁を祈る神事。江戸時代中期の鎌倉は漁村としても知られ、不漁時に大漁を祈願したのが始まりだという。
 神楽の後には、砂浜でお正月のしめ縄や門松などを積み上げて燃やす左義長も行われた。いわゆるドント焼き。大きな炎と煙を囲む子供たちからは「暖かいねえ」という声があがる。
 最近は北風がぴいぷうと吹く季節になっても、たき火を見かけることはほとんどなくなった。火の用心や環境への配慮もあるのだろうが、たき火の楽しさが忘れ去られてしまう世の中というのも、それはまた、何か大切なものを失っているようで寂しい。