4218 緊急シンポ傍聴記補足(感想編)  エイズと社会ウエブ版 127

 

緊急市民シンポジウム《エイズ結核マラリア=三大感染症は克服できる》傍聴記の補足(感想編)です。

 

 先ほどの傍聴記では『日本は世界基金の生みの親』といった点に何度か言及しました。そのあたりを少し補足しておきましょう。 

 

 このような評価があるのは、世界基金のコンセプトのもとになったのが、2000年の九州沖縄サミットでの議論だったからです。このときのG8サミット(主要8カ国首脳会議)の議長国は当然ながら日本であり、その議長国として各国首脳に対し、エイズなど地球規模の感染症の流行と途上国が闘えるようにするには、新たな追加的資金が必要であると呼びかけました。これがきっかけとなり、翌2001年の国連エイズ特別総会やジェノバサミットでの議論を経て、20021月に世界基金が発足しています。 

 

世界三大感染症といわれるエイズ結核マラリアの流行と闘うための資金を確保し、途上国の対策を後押しする新たなメカニズムですね。そのために日本を含む先進諸国は積極的な資金拠出を行いましたが、それだけでなく、途上国自身や民間企業、あるいは個人からの寄付もその資金の中には含まれています。また、理事会には政府代表だけでなく、市民社会組織の代表も加わりました。金額はともかくとして、この多様なドナーとプログラム実施機関、そして意志決定機関メンバーによる参加型の枠組みも世界基金が21世紀型組織といわれる理由のひとつではないかと思います。

 

 こうして集められた資金で途上国の対策プログラムを支援し、これまでにHIV陽性者530万人と結核患者1100万人に必要な治療を提供し、150カ国で34000万枚のマラリア予防蚊帳を供給するなど世界基金は大きな成果を上げてきました。この結果、かつては年間600万人以上だった三大感染症の死者数は年間400万人弱にまで減少しています。

 

 ただし、それでもなお、毎年400万人近い死者が出ているという現実は、三大感染症の克服という目標の実現が決して簡単なものではなく、今後もこれまで以上の努力が必要とされているということを示しているというべきでしょう。2年ほど前には、せっかくの資金が実際に病に苦しむ人、現場で流行と闘う人、資金を本当に必要とする人にうまく届いていないのではないかという疑問の声があがり、当時のミシェル・カザツキン事務局長が任期半ばの今年1月に辞任し、マーク・ダイブル新事務局長に交代するという試練も経験しています。 

 

 世界基金に対する批判には不当と思われるものもあったのですが、今後も継続的に、かつより有効に三大感染症との闘いを進めて行くには設立から10年の節目を経て、組織改革に取り組む必要性があることも認識されました。その意味でも今年3月、新設の戦略投資効果局長に就任した國井修さんの手腕には大いに期待がかかるところです。 

 

 19日の緊急シンポで、國井さんはその改革の方向性について、新たな資金提供のモデルとして、現地のニーズにより近いところに資金が届くようにするため、対話型の方法を重視したいと語っていました。ともすれば国際的な援助資金は、もっともらしい提案書をそつなく書けるところにお金がつきやすいといった傾向があるそうですが、そのきれいな提案書が必ずしも現場の求めているものを反映しているわけではない。ひと言でいえば、提案書づくりのプロみたいな人がいるということでしょうか。 

 

 そうした仕様ではなく、対話を重ねながら現地の必要とするものを把握し、自らプログラムを遂行していく自立性と実行能力を育てながら成果を生み出していく。イメージとしてはそんな感じでしょうか。誤解していたらごめんなさい。でも、そんな感じだと思います。

 

 世界基金は3年に1回、増資会合を開き、向こう3年間の資金拠出を各国や民間団体から約束してもらいます。今回は米国政府が主催してワシントンで第4回増資会議が開かれることになりました。第4回も終わっていないのに、さらにまたその3年後の第5回のことを言ったら鬼も笑い転げて、のたうち回ってしまうかもしれませんが、2016年の第5回増資会合は日本で開くことをいまのうちから考えておくというのはどうでしょうか。安倍政権は国際保健を日本復権の重要分野に位置づけていることだし、2020東京オリンピックパラリンピック4年前というのは国民の目が大きく世界に向いていく時期でもあるでしょうから、開き時という感じがします。

 

「世界基金の生みの親」という評価は実は、ラッキーパンチがあたったというような面もありますが、成果は成果、日本にとっては貴重な外交的財産です。その財産を継続的に実のあるものにしていくことは、わが国が国際社会の名誉ある地位を維持していくうえでも大切です。そのくらいの政治的構想力は期待したいところですね。