4199  五輪選手村のコンドーム配布について エイズと社会ウエブ版121

 オリンピックは4年に1度ですが、夏季五輪、冬季五輪の開催年が異なるので、 最近はほぼ2年ごとに「選手村でもコンドームを配布」という話題がマスメディアでも取り上げられます。したがって、2020年夏季五輪の東京招致が決まっ たことで、出るべくして出るだろうなと思っていたニュースが、やっぱり出るべくして出てきましたね。日本のコンドームメーカーにとっては「絶好のPRチャ ンス」だそうです。ビジネスのパワーは重要です。余分な感想を付け加えておけば、ニュースとしての取り上げ方は少々、情けない感じがしないこともありませ んが、いまの世の中の雰囲気をもってすれば安心して浅はかでいられるということの反映なのかもしれません。そのあたりも含めて、貴重な情報だと思うので、 紹介しておきましょう。

 

 《東京五輪“コンドーム戦争” 薄くて強い自信作で勝負!国内メーカーの思惑》
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/business/financial/685772/

 

 《実は、五輪選手村でのコンドーム配布は“無償”のため、メーカーの直接利益には結びつかず、出費が膨らんでしまう。メーカー側が無償配布の見返りに期待するのは、「グローバルな宣伝効果」という》

 

 なるほど。98年冬の長野五輪では約2万個が選手村で配布されたそうです。 メーカー側の関心は《その宣伝効果で、ピルよりもコンドームを愛用する外国人が増えるきっかけになるかもしれない」と期待を寄せる》ということでもっぱら 避妊に向いているようです。ビジネスの観点からするとそうなるのかもしれませんね。

 

 《オリンピックでのコンドーム配布は88年ソウル五輪から開始。2012年ロンドン五輪では参加者1万500人に対し史上最多の15万個が配布されたが、わずか5日で品薄になり話題を呼んだ》

 

 ただし、五輪の選手村におけるコンドーム配布について、IOCHIV/エイズ対策の一つとして位置づけています。記事によると88年ソウル五輪からということなので、実際の配布がが先行したかたちではありますが、2004年には「スポーツを通じたHIV&AIDSの予防に関する方針」を定め、国連合同エイズ計画(UNAIDS)とも協力のための合意文書を交わしています。

 

 2004年というともう9年も前のことですが、この方針はいまも生きています。たとえば、IOCによるオリンピックムーブメントの公式サイトには2009年4月17日付で『HIVAIDSの予防、および健康的な生活習慣の促進』という記事が掲載されています。その中から、選手村でのコンドーム配布の部分を見てみましょう。

asajp.at.webry.info

 

 《国際オリンピック委員会IOC)は2004年以降、各オリンピック大会の開催期間中、大会組織委員会ならびに国連合同エイズ計画(UNAIDS)との緊密な協力関係のもとで、エイズ対策のための特別キャンペーンを行ってきた。選手村の総合診療所でコンドームを無料提供することで、キャンペーンはオリンピック選手村に集まる選手、役員に対しエイズの流行、および健康を守るための行動への理解を広げることを目指している》

 

 また、2012年5月更新の「スポーツを通じたHIVAIDSの予防」というIOCのファクトシートにはこう書かれています。
http://asajp.at.webry.info/201309/article_3.html

 

 《スポーツ組織は所属選手をHIV感染から守ることだけでなく、HIV陽性者に対する偏見や差別を持たないように指導することも大切である。また、HIV&AIDSについて、差別のない雰囲気の中で安心して話ができるような環境を整える必要もある》

 

 こちらも重要な指摘ですね。当ブログでも、こうした文書の日本語仮訳を試みながら「五輪とエイズ対策」について少しずつ取り上げています。

 

 《オリンピックムーブメント、いよいよこれから》
http://miyatak.iza.ne.jp/blog/entry/3188006/

 

 冒頭に紹介した記事では《薄さにこだわる日本メーカーに対し、IOCはエイズ予 防などの観点から、破れにくさにこだわっているとの情報もある》などと最後にさらっと書いてありましたが、「こだわっているとの情報がある」などというレ ベルの話ではないでしょう。IOCとの認識のギャップに無頓着なまま、よく「絶好のPRチャンス」などと言っていられるもんだとその不屈のビジネス魂には 尊敬の念さえ抱きたくなっちゃいますね。こちらも参考までに。

 

 《五輪を通じたHIV/エイズ対策 続き》
http://miyatak.iza.ne.jp/blog/entry/3181080/

 

 大してお暇はとらせません。ご用とお急ぎでない方は、そしてコンドームメーカーの皆さんは多少、ご用とお急ぎであっても、お読みいただければ幸いです。