『世界最強組織のつくり方 ─感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』

 世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)戦略・投資・効果局長の國井修さんが8月7日、新著を刊行しました。ちくま新書の一冊です。

www.chikumashobo.co.jp

 さっそく鎌倉駅前の島森書店で購入しました。例によって遅読なもので、少しずつ読み進めています。新書とはいえ、300ページの大著です。読み終わるまでに少し時間がかかりそうなので、とりあえず冒頭部分を読んだ範囲での感想とワクワク感を少し。読後の感想文ではありませんが、悪しからず。

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 そもそもタイトルが『世界最強組織のつくり方』です。なんだなんだ、とその自信にまず圧倒されます。ちょっと引用しましょう。『はじめに』の部分の3行目。

 『これら三大感染症による死者数は、二〇〇〇年当時、年間五〇〇万人以上にのぼり、ボーイング七四七型ジャンボジェット機が毎日二三機墜落するのに匹敵するといわれた』

 三大感染症とは、HIV/エイズ結核マラリアのことです。その死者が年間五〇〇万人以上・・・といわれても、数字があまりに大きくなるとかえって実感が持てなくなってしまうことがあります。

 こういう時には、具体的な比較事例を持ち出し、その大きさを伝る手法がしばしば使われます。たとえば、この公園の広さは甲子園球場300個分・・・といった感じですね。

 したがって、感染症対策の分野では当時、実際にそういわれていたのかもしれませんが、たとえ方がかなり激しい。しかも年間でなく、毎日です。うわあ、大変なことだなあと改めて思います。タイトル同様、このあたりの記述も思い切りがよく、逡巡するところがありません。グローバルファンドはなぜ生まれたのか。その理由を直截に伝え、読者を引き込んでいきます。

 『ニーズに応じて配分し有効活用して、リターン(感染症の予防、死亡の低減)を得るという一連の活動を投資と考え、その効果と効率を最大化するためのメカニズムを創り、稼働させ、進化させてきた』

 そうか投資か。マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏は『ウォールストリートジャーナルの記事で「私が行った最高の投資」の一つ』と述べているそうです。目指す効果は感染症の予防と死亡の低減なのですが、その投資効果についても、リターンは何憶ドルといった数字を含めて検討されていきます。官民連携を超える『二一世紀型パートナーシップ』と呼ばれる所以ですね。

 ただし、著者の國井さんはもともと投資家ではなく、お医者さんです。裏表紙の略歴には『アジア、アフリカ、中南米など110か国以上で人道支援、地域保健、母子保健、感染症対策、保健政策の実践・研究・人材育成に従事』とあります。現在のポストに就いたのは2013年です。グローバルファンドの『約一〇人の幹部の一人として執行部会や理事会に出席し、戦略情報部、技術支援・連携促進部、コミュニティ・人権・ジェンダー促進部など五つの部を統括』しています。もう六年もこの激務の職にある。これは大変なことですね。

 本書のタイトル『世界最強組織のつくり方 ─感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』については、國井さん自身、『挑戦的な題名を付した』と書いています。それだけの期待と支持と支援を背負い、『解決策が未だ示されていない課題』への答えを模索する。その決意を示したタイトルというべきでしょう。国際機関だけでなく、民間の企業にも組織のあり方を追求するうえで、重要な示唆が得られそうです。ぜひ、お読みください・・・と著者に代わって勝手に言う前に、早く自分で読まなきゃ。毎日、暑いけれど、楽しみだぞ、これは。

 

ぼんぼりを集めてはやし夜の河・・・あれ?

 世の中、いろいろなニュースがあることは承知していますが、鎌倉はぼんぼり祭りです。いよいよ始まりました。薄暮鶴岡八幡宮では、神社の方がぼんぼりにひとつひとつ、灯をともしていました。写真家の皆さんはローアングルで狙っていますが、私はしゃがむのもおっくうなので、漫然と一枚。ピントは例によって甘いし、心構えが違います。

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 参道にずらりと並んだぼんぼりにもだいたい灯がつきましたね。まだ明るいけれど、暗くなるより、このくらいの方が心地よく歩けます。

 

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 今年のぼんぼり祭りは3日間。初日は立秋前日の夏越祭なので、参道に茅の輪が設けられました。
 《古来、茅の輪をくぐると災厄から逃れると伝えられています。正面より左 右 左とくぐります》 

 

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 つまり、8の字を描く要領であります。渋谷のスクランブル交差点ではないけれど、人が交錯して混雑は必至。でも、いまの世の中、自分だけが災厄をのがれるなどという芸当はできませんよ。譲り合っていきましょう。

 

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 茅の輪の両サイドは山本富士子さん(上)と駐日イタリア大使夫人(下)のぼんぼりです。

 

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 山本富士子さんは大映の大女優でしたが、若い方は知らないかもしれませんね。
 エイズ対策の歴史について大学生に話す機会があり、「ロック・ハドソン」と言っても反応がない。「ほら、あのエリザベス・テーラーと親しかった・・・」と説明しても、エリザベス・テーラーを知っている大学生もいなかった。ま、無理もないか。

 

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 境内も暗くなってきました。石段を上がって本堂の前から舞殿を望む。後ろの光の列はぼんぼりではなく、若宮大路の街の灯です。夕方の風が止んで少し汗ばんできました。見上げると、おぼろ月、なんかまた蒸し暑くなりそうだなあ。

 

せみしぐれ ぼんぼり祭りは明日から

 あまりの暑さに本日は家に閉じこもったままです。そういえばもう鶴岡八幡宮の「ぼんぼり祭り」が始まるかな・・・と思って調べてみたら、今年は明日(7日)からでした。

 6日からだったのは去年ですね。そういえば、1年前も行ったな・・・ということで、201886日の写真です。立秋前日の夏越祭。まずは茅の輪くぐりから。

 

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 去年は夕方になって、急に雨が降り出しそうになったので、ぼんぼりに灯りがともされる前に退散した記憶があります。結局、雨は夜遅くまで降らず、ぼんぼりにも灯がついたようなので、早とちりだったか・・・。あまり明るいと風情もなくなってしまいますが、悪しからず。

 

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 いつも同じようなことを書いているようで恐縮ですが、おさらいしておきましょう。 鶴岡八幡宮ぼんぼり祭り1938年(昭和13年)、鎌倉ペンクラブなどの協力を得て実施したのが最初です。海水浴にやってくる人たちに鎌倉の良さを知ってもらいたいということで企画された催しです。毎年、立秋の前の日(つまり夏の最後の日)から鎌倉幕府3代将軍、源実朝の誕生日(実朝祭)の89日まで開かれます。去年は立秋87日からだったのでぼんぼり祭り6日から9日までの4日間でした。今年は3日間です。

 しょうがない。本日の夕涼み散歩は、どこかほかのコースにしようか。候補地はいくらでもあるし・・・それにしても今年は寒暑の差が激しいね。

熱帯夜の快勝 日本41-7トンガ 

 ラグビー日本代表3日、大阪・花園ラグビー場のパシフィックネーションズ杯(PNC)第2戦でトンガ代表に41-7で快勝しました。

 日本のディープサウスとでも言いたくなるような大阪の熱帯夜。例によって私は自宅でテレビ観戦でしたが、選手の消耗の激しさは画面からも伝わってきます。

 そんな中で50日後に迫ったワールドカップ開幕をにらみ、先週のフィジー戦に次ぐ連勝。日本代表、なかなかやるなという印象の試合でしたね。

 トンガ代表の力に任せた攻撃は脅威でしたが、プレーの精度が荒く、ミスに助けられた面もあります。そう見えるのは日本代表のディフェンス力がグレードアップしているからかもしれません。

攻撃面では、WTBの松島選手、同じくWTBで終盤に登場した福岡選手のトライが見事でした。亡くなった三波伸介さんなら「びっくりしたな、もう」と言っていたでしょうね。もう一人の先発WTBレメキ選手の走力も魅力ですが、今日は孤立してしまう場面も目立ちました。FW3列やWTBのポジション争いもし烈です。

W杯の1次リーグで日本と同じA組には、フィジー、トンガと同タイプのサモア代表が入っています。PNCでは日本とサモアとの直接対決はありませんが、1週間前のサモア対トンガ戦は25-17サモアが勝っています。ただし、接戦でした。 

一方、日本と10日に対戦予定の米国は本日、サモアと対戦し、13-10で勝っています。ま、勝負は三段論法のようにはいきませんが、米国にも快勝なら、W杯本番のサモア戦にもかなり期待が持てます。

ロシア、サモアに確実に勝って、できればアイルランドスコットランドのどちらかからも1勝という日本の1次リーグ通過シナリオも、必ずしも夢ではなさそうです。

 

話すことで見える現実 第26回AIDS文化フォーラムin横浜開幕 エイズと社会ウェッブ版403

 さすがに横浜は裏切りません。今年もたっぷり汗をかきました。ベイスターズじゃありませんよ。恒例の猛暑の中、第26AIDS文化フォーラムin横浜が開幕しました。開会式は82日(金)開始。会場は横浜駅西口徒歩5分の「かながわ県民センター」2階大ホールです。簡単に徒歩5分と書いちゃったけれど、大変な5分間であります。これが毎年のことなんだけどね。もう朝から汗だく。

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 それでも、2階大ホールは満員の盛況です(冷房がきいていたので、汗はすぐにひきました)。

今年のテーマは『<話す><リアル>に!!』です。正直に言って、私には意味不明でした。<話す>という行為と<リアル>という状態が、どうして「and」でつながるの?

すいません、まったく誤解していたようです。開会式における組織委員長の挨拶。

「ひとごとだと思っていたことが、話すことでリアルに認識できるようになる・・・」

あっ、そういうことでしたか!と遅ればせながら納得する。

 参考までに付け加えておくと、今年の世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマも話すことを重視しています。

UPDATE! 話そう、HIV/エイズのとなりで~検査・治療・支援》

こちらのテーマの策定には私も大きく関与していたので、自信をもって言えるのですが、策定過程でAIDS文化フォーラムin横浜のテーマをとくに意識したことはありません。

異なるメンバーが異なる場所で決定した二つのテーマが話すという行為に着目し、ほぼ同趣旨のメッセージを含むに至る。これは偶然ではなく、大げさに言えばおそらく、HIV/エイズをめぐる共通の認識と時代背景を反映したものなのでしょうね。

開会式に続くオープニングセッション『話してリアルになったこと』では、この点がより明確になっていきました。登壇したのは、エイズ予防財団の白阪琢磨理事長、日本HIV陽性者ネットワークJaNP+スピーカーで同性婚訴訟の原告でもある佐藤郁夫さん『神様がくれたHIV』の著者の北山祥子さん、そして司会の岩室紳也医師の4人です。

佐藤さんと北山さんはHIV陽性者、白阪さんはHIV診療の第一人者であり北山さんの主治医でもあります。

最初はHIV診療の最前線からエイズ流行の歴史へと話が移行していきましたが、だんだんと岩室さん特有のシナリオなし(たぶん)司会が調子をあげ、佐藤さん、北山さんのHIV陽性者としての体験や、U=Uというメッセージについて、そして佐藤さんが同性婚訴訟の原告に加わった理由などに話題は広がっていきました。佐藤さんは糖尿病など他の疾病も抱え、患者としてはマルチな体験の持ち主ですが、例えば食事制限などについても、「これを食べてはだめ」と言われると、患者は逆に食べたくなる。「あなたの好きなように食べていいですよ、あなたの体ですからね」と言われた方がかえって自制がきくといった話は、医療従事者にとって新鮮だったようです。

出席者のどなたの発言だったかメモを取り忘れてしまいましたが、話すとリアルになるということは、話さないとリアルにならないということでもあります。HIV/エイズがあたかも存在していないかのような社会的雰囲気の中で、話をすることもなくなっていく。あるいは様々な場面で、性的少数者が社会の中に存在していないかのような前提のもとで会話が続く。こうした状態はHIV/エイズをめぐる差別や偏見、あるいは性的少数者に対する制度上の不当な取り扱いなどが存在しないということと同義ではありません。

もう一度、開会式のあいさつに戻ると、組織委員長は「異質なものを排除する気持ち」が社会の中に広がりつつあるのかもしれないということに危惧の念を示しつつ、「マイノリティの問題はマイノリティを生み出す側の問題である」と指摘していました。

オープニングの3人のゲストのお話は、本当にそうだなあということを納得させる内容でもあります。第26AIDS文化フォーラムin横浜は、4日(日)まで開催予定。プログラムは公式サイトでご覧ください。

abf-yokohama.org

 

 

 

読後感想文『歴史に生きる-国連広報官の軌跡』

 冷戦後の多難な時代にニューヨークの国連本部や世界の紛争地で、国連の広報官として活躍された上智大学の植木安弘教授が新著『歴史に生きる-国連広報官の軌跡』を出版された。

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b303179.html

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 私は19932月から968月まで3年半にわたって産経新聞のニューヨーク支局で国連を担当し、PKOのあり方などについて植木さんから教えを乞うことも多かった。

 新聞記者にとって広報官は取材の駆け引きという点での好敵手であり、同時に取材対象となる現実へのより深い理解を得るためのメンター(指導教官)のような存在でもある。同じ時間を異なる立場で共有しつつ、世界の現実をよりよく伝えるという意味では、少し甘いかもしれないが同志的な連帯感もある。

個人的には記者としてすでに第一線を引いたいま、本書を読みながら「ああ、ずいぶん教えてもらえなかったことがあったなあ」と自らの非力に少々がっかりしつつ、それでも連帯感の成立を可能にする誠実な広報官に恵まれたことに、改めてささやかな感謝をささげたい気持ちにもなった。植木さんの話をうかがうことで、事実の認識や評価において、現実を大きく外してしまうような報道をすることは少なくともなかったと思うからだ。

本書は副題に「グローバルキャリアのすすめ」とあるように、これから国際公務員として国連で働くことを目指す若い人たちの就活テキストとして読むこともできる。巻頭には上智大学の学長さんが『国際協力・国際機関人材育成シリーズ第二作出版にあたって』という一文を寄せられているところから考えると、出版の主要な目的はそちらの方にあるのかもしれない。

ただし、個人的に国連の職員として活躍しようなどという気持ちはさらさらない私のような人間にとっても、非常に興味深く読める。冷戦後の世界の現場を裏舞台まで含め、具体的事例に即して報告した貴重な国際現代史レポートになっているからだ。広報官は第一線の新聞記者以上に練達の文章を書くことができる優秀なライターであるということも改めて認識できた。

植木さんに最初にお目にかかったのは確か1993年の3月か4月のことだった。当時、国連担当の日本の報道機関の駐在員は個別の取材とは別に、2週間に1回ぐらい、日本政府国連代表部大使のブリーフィングを共同で受ける機会があった。冷戦が終わり、平和な世界が訪れるという期待に反して、世界は地域紛争の時代へと突入していた。それと同時にその混とんとした世界に新たな秩序を生み出す担い手として、国連の役割に期待がかかっていた時期でもある。日本の報道機関としては、国連の安保理改革、とりわけ日本が安保理常任理事国になることができるかどうかということも大きな取材テーマの一つだった。植木さんはそのころ、一時的に国連から出て、日本政府代表部に専門調査官として勤務されていた。大使の傍らで静かにメモを取る姿はどこか外務省の外交官たちとは異質の存在のようにも見えた。後になって気が付くことだが、その異質なたたずまいこそが、多くの記者から信頼を寄せられるようになる秘密だったのかもしれない。

 カンボジア、旧ユーゴスラビアソマリアなど世界の紛争地域に派遣されるPKOの役割にも期待が高まり、多機能型PKOという新たなコンセプトも生まれた。その役割に限界があることはそれほど長い時間がたたないうちに明らかになるのだが、それでも一定の条件に恵まれた局面においては大きな成果を上げることもあった。

その大きな成功事例の一つが、植木さんも政務官兼副報道官として加わった国連東チモール・ミッション(UNAMET)だろう。インドネシア支配下にあった東チモールは、住民投票を経て2002年に独立を果たす。その詳細な経緯は本書の第5章「東チモール独立へ」を読んでいただくとして、植木さんはその章の最終部分で次のように書いている。

 『この東チモールの独立は、インドネシアにとっては苦い療法ではあったが、歴史的な汚点を一掃し、国際社会からの批判を抜け出して、インドネシアの国家としての威厳を回復する契機となったといえる。六〇年以上経っても未だ解決していない中東和平問題と比較してみると、東チモールの独立は、一つの紛争解決の方法を示唆しているのかも知れない』

 それぞれの紛争には個々の事情が複雑に絡み合っていて、軽々な比較はできない。書き方が非常に控え目なのはおそらく、植木さんが現場の体験を通し、このことを肌身に染みて感じ取っているからだろう。それでもあえて、こう付け加える。

 『この東チモールの経験から学ぶことは、歴史の動きをどう判断するかの重要性、それから歴史を動かすのは組織の中の個人でもあり、その個人がどのような決断をするかによって歴史も変わりうるということである』

 そして、突出した指導者の決断と同時に『その周りで活躍した多くの人と関係国の総合的な努力によって、実現不可能と思われたことが可能になった』という。植木さん自身、いまも『その周りで活躍した多くの人』の一人としての誇りを心の中に持ち続けているに違いない。



日本エイズ学会が『就業差別の廃絶』を求め声明、POSITIVE TALK2019ほか TOP-HAT News第131号

 声明が発表されたのは624日でしたから、もうすでにご存じの方も多いのではないかと思います。その意味では、いささか旧聞に属する話題かもしれませんが、日本エイズ学会による声明の発表というのは、これまでに例がないことだとうかがいました。また聞き情報なので、もしかすると30年以上の歴史の中で一回か二回はあったのかもしれませんね。そうだとしても今回の声明には多くの人が、よく出してくれましたと高く評価しています。初物に対するご祝儀の評価というわけではありません。

 これはあくまで個人的な私の感想ですが、HIV/エイズ対策の現状には、これまで積み上げてきた大事なものが、なし崩しに崩されていきそうな危機感があり、それが声明に対する評価につながっている面もあるのかもしれませんね。

 したがって、私もそうした評価の尻馬に乗ることにやぶさかではありませんが、ひとつだけ明確にしておきたいことがあります。前にも取り上げたので「またか」と言われそうですが、治療が大きく進歩したので、抗レトロウイルス治療をきちんと受け他の人へのHIV性感染の恐れがない状態の人に対する就労上の差別的な対応が不当になったということではなく、治療を受けているかどうかにかかわりなく、HIV陽性者に対する就労上の差別的な処遇は不当だということです。

 このことは抗レトロウイルス治療が劇的な進歩を果たす以前から、ずっと指摘され続けてきました。

もちろん日本エイズ学会の声明も、それを踏まえて出されています。

 したがって、余分なひとことかもしれませんね。でも、私の場合、余分なひとことを半ば存在証明として生きてきた面もあるので、あえて付け加えておきましょう。治療が進歩する前から、あるいはU=U鳴り物入りで喧伝されるようになる以前から、HIV感染を理由にした就労上の差別的な処遇は不当でした。

 TOP-HAT News131号とあわせ、日本エイズ学会の公式サイトに掲載されている声明本文もぜひ、お読みください。

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第131号(20197月)

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TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに 日本エイズ学会が『就業差別の廃絶』を求め声明

 

2 POSITIVE TALK 2019」スピーカー募集 

 

3 26AIDS文化フォーラムin横浜

 

4 冊子『UNAIDSによる技術支援』日本語版を発行

 

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1. はじめに 日本エイズ学会が『就業差別の廃絶』を求め声明

 HIV感染を理由にした解雇など職場における差別的な取り扱いに対し、日本エイズ学会が624日、廃絶を求める声明を発表しました。学会公式サイトには松下修三理事長名の『HIV 感染を理由とした就業差別の廃絶に向けた声明』全文が掲載されています。こちらでご覧ください。 

jaids.jp

 声明はHIVについて『医療機関を含め日常の職場生活において感染することはありません』と明記しています。ここで注意しておかなければならないのは、治療が進歩した結果、最近になってこうした認識が生まれたわけではないということです。

もちろん治療の進歩は重要です。最近の研究では抗レトロウイルス治療の継続により、HIVに感染している人から他の人への性感染のリスクがゼロになることも報告されています。HIV検査と治療の普及を促し、HIVに感染した人が安定した社会生活を続けていくうえで、そうした成果は大いに強調する必要があります。

ただし、「医療機関を含め日常の職場生活」では、治療の有無にかかわらずHIV感染のリスクは極めて低く、解雇や不採用、職場における拒絶などの理由にはなりません。このことは、有効な治療法が確立される以前からずっと指摘され、差別や偏見をなくすための職場での対応もなされてきました。

また、1995年には厚労省の前身の労働省から『職場におけるエイズ問題に関するガイドライン』が発表され、この中でも職場における HIV 感染者への差別は明確に禁止しています。抗レトロウイルス治療の劇的な延命効果が発表される前のことです。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/05/s0527-3b.html

ガイドライン厚労省に変わった後の2010年に一度、改正されましたが、この認識は改正前も後も変わっていません。むしろ医療機関も例外ではありませんよということを念押しするための改正でした。

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6133&dataType=1&pageNo=1

そもそもHIVの感染を理由にした就労上の差別的な取り扱いが不当なことは、ガイドライン作成以前から国際的な了解事項でした。それでも、HIV/エイズにまつわる社会的な恐怖や不安が強かったために、理屈に合わない不当な事例がしばしば見られ、「これではいかん」ということでガイドラインが出されるに至った経緯があります。

日本だけではありません。世界各地で就労にかかわる不当な事例はしばしば報告されてきたし、いまも報告されています。通達やキャンペーンなどで一時的には理解が広がっても、しばらくすると忘れてしまうといったこともよくあります。

したがって、注意喚起は、機会をとらえ、様々なかたちで、繰り返し行うことが大切になります。

今回の声明発表は、HIV陽性者に対する内定取り消し訴訟の法廷で、被告となった医療機関側に上記のような理解を大きく欠いた主張がみられることが直接のきっかけになったようです。ただし、声明は個別の裁判について取り上げるのではなく、より広い社会的な動向を念頭に置いて、次のように指摘しています。

HIV 感染症に対する治療の進歩と社会的な理解が進む状況の中、現在においても HIV 感染者に対して採用時や就業時における差別が発生しており、差別を受けた当事者、関係者から切実な意見があがっております』

一方、自治体では以前から地道な努力が続けられています。たとえば東京都は『職場とHIV/エイズ ハンドブック』を発行し、毎年、世界エイズデー121日)の前後の時期には、企業やNPO法人と協力してHIV陽性者の就労をテーマにした講演会を開くなど、職場における理解を広げるための啓発に力を入れてきました。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/koho/kansen.files/work_and_hiv_handbook_employee.pdf

こうした地道な努力を持続的に蓄積していくことの大切さも、この機会に改めて認識しておく必要があります。

 

 

2 POSITIVE TALK 2019」スピーカー募集

 第33回日本エイズ学会学術集会・総会は1127日(水)から29日(木)まで、熊本市の熊本城ホールで開催されます。初日の27日には、午後320分から520分まで、プログラムの一つとしてポジティブトーク2019が予定されており、スピーカーとして登壇するHIV陽性者を公式サイトで募集しています。

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 http://www.c-linkage.co.jp/aids33/positive.html

 『HIV陽性者としての経験や思いを直接語っていただくことで、学会に参加される方々に新たな気づきを促す場にしたいと考えています』

 ポジティブトーク2017年の第31回学会(東京)で初めて開催され、第32回学会(大阪)に続いて、今回が3回目となります。

 プログラムの概要や応募方法は上記サイトでご覧ください。

 

 

3 26AIDS文化フォーラムin横浜

 夏の恒例イベントとなった第26AIDS文化フォーラムin横浜が82日(金)~4日(日)の3日間、JR横浜駅西口に近い、かながわ県民センター(横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2)で開かれます。

 1994年の夏に横浜で第10回国際エイズ会議が開催された際に最初のフォーラムが開かれ、以後も毎年、継続してきました。

今年のテーマは『<話す><リアル>!!』です。詳細は公式サイトをご覧ください。

 

abf-yokohama.org

 

 

4 冊子『UNAIDSによる技術支援』日本語版を発行

国連合同エイズ計画(UNAIDS)が今年1月に発行した冊子『UNAIDSによる技術支援 アジア太平洋地域におけるグローバルファンドの助成を最大限に生かす 20172018』の日本語版を公益財団法人エイズ予防財団が作成しました。コミュニティアクションのサイトでPDF版をダウンロードできます。

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http://www.ca-aids.jp/features/231_unaids.html

世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)の資金助成によりアジア太平洋地域で実施されている各国のHIV/エイズ対策プログラムに対し、UNAIDSが技術面で行っている支援をまとめたものです。

『グローバルファンドからみれば、UNAIDSHIV対策について当事国政府と話しあい、政治の扉を開き、様々な分野の活動の相乗効果を生み出す包摂性を高めていくための重要な相談相手となっています』

インド、インドネシアベトナムにおけるケーススタディ(事例研究)も含め、資金メカニズムであるグローバルファンドと対策の実施国、そして国連機関としてのUNAIDSという三者の関係が分かりやすく説明されています。英語版はこちらでご覧ください。

https://www.unaids.org/en/resources/documents/2019/unaids-technical-support-gf-grants-asia-pacific-2017-8