花も人も時の流れは止められず

 暖められたり、冷やされたり。今年は花も大変ですね。久しぶりに妙本寺を訪れると、桜とともに、海棠ももう満開でした。

 

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 妙本寺境内の海棠と言えば、中原中也小林秀雄が二人ではらはらと散る花びらを観ていたという場面が有名ですね。『中原中也の思い出』だったかな。詳しくは小林秀雄のエッセーをお読みください。

 

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 ただし、最初の写真は、向かい側にある若い木の方で、二人が観ていたのはこちら(といっても二代目か三代目くらいらしいけれど)です。
 だいぶ、勢いが衰えています。鎌倉に引っ越してきた当時はこちらの花の方が圧倒的に豪華でしたが、10年あまりの歳月が過ぎ、逆転してしまいましたね。

 

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 齢はとりたくないねなどと、妙に感情移入したりして・・・。それでも花はきれいでした。さ、帰るか。

UNAIDSプログラム調整理事会が臨時会合 エイズと社会ウェブ版380

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長は強権的な組織運営が強い批判にさらされ、今年6月末に任期を半年、前倒しして辞任することが決まっています。そのUNAIDSのプログラム調整理事会(PCB)が328日、ジュネーブで臨時会合を開きました。シディベ氏の後任選びのプロセスが始まったわけですね。

ただし、UNAIDS41日に発表したプレスリリースを読むと、この期に及んでなお、シディベ氏が先頭に立ち、UNAIDS改革にまい進しているかの印象です。日本語仮訳を作成しながら、なんだか・・・と思いつつ、一方でプレスリリースというのはこうやって書くのかと少々、感心もさせられます。以下、日本語仮訳。

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健全かつ公平で、やりがいのある職場環境を生み出すための計画をスタッフに提示 UNAIDS

 2019.3.28 プレスリリース

http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2019/april/20190401_PCB_special

 

ジュネーブ 2019.4.1 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は2019328日に開いた プログラム調整理事会(PCB)の臨時会合で、新たなアクションプランを提示した。UNAIDSが良好な組織文化を創出し、管理職とスタッフが自らの責任と権利、義務に関する認識を深めるようにする一連の優先課題を示している。

 「私たちはいま、困難を機会にかえつつあります」とUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は語っている。「このアクションプランは変革をもたらし、UNAIDSで働くすべての人が包摂的な職場環境で働けるモデルを生み出すものです。それはエイズ流行終結に向けてより有効な活動を促すことにもなります」

 シディベ事務局長は、スタッフがUNAIDSの重要な財産であり、上級管理者チームが変革と責任、透明性の確保に強い決意で臨んでいることを繰り返し強調した。また、アクションプランの策定はスタッフとともに進め、スタッフが主体的役割を担ったと述べた。

 会合で理事会は、UNAIDSにおけるセクシャルハラスメント、いじめ、権力の乱用を含むハラスメントに対するゼロトーラレンスのモニタリング・評価機能強化に関するPCB作業部会のローリー・ニューウェル委員長から報告を聞いた。ニューウェル委員長は、UNAIDSがハラスメントに対するゼロトーラレンス、および職場における尊厳と尊重を貫くための国連システムのモデル機関となることを作業部会として支持すると述べた。とくに作業部会は、国連機関のモデルとなるアクションプランの策定にUNAIDSのスタッフが参加していることを評価した。

 理事会メンバーはアクションプランへの支持を表明し、UNAIDSにその実施と改善を求めた。また、アクションプランが国連システムにおける職場のハラスメント対策の先駆けとなることを期待した。さらに6月のPCB定期会合までに勧告をまとめるよう作業部会に求めた。

 理事会は、UNAIDS次期事務局長選定委員長であるベラルーシの国連および国際機関ジュネーブ代表部のユリ・アンブラゼビッチ大使からも報告を聞いた。大使は次期事務局長の候補者選定がすべての候補者にとって公正かつ守秘義務が保障されるかたちで進められるようにすること、および広範な候補者の中から選べるようにすることについてPCBの支援を求めた。理事会は選定委員会への信頼を確認し、20196月の第44PCB理事会で候補者の短いリストの提示を受け、検討に入れるようにすることを期待した。

 特別会合は中国のリ・ミンズー国家衛生健康委員会コミッショナーが議長、米国大使が副議長、ベラルーシ大使が報告者となり、UNAIDSの理事会メンバーと国際機関、市民社会組織、非政府組織の代表らが参加した。

 UNAIDS事務局長報告および会合における議論はこちらで。

 http://www.unaids.org/en/whoweare/pcb/20190328-special-session

 

 

 

UNAIDS presents a new plan to create a healthy, equitable and enabling environment for UNAIDS staff

GENEVA, 1 April 2019—UNAIDS presented a new Action Plan to its Board members during a special session of the UNAIDS Programme Coordinating Board (PCB), held on 28 March 2019. The Action Plan sets out a series of priority areas that UNAIDS will be working on to create a positive organizational culture and increase the awareness of managers and staff of their accountability, rights and duties.

We are transforming a difficult moment into a moment of opportunity,” said Michel Sidibé, Executive Director of UNAIDS. “Our Action Plan is transformative and will help us to create the model inclusive work environment that all of us at UNAIDS are committed to. This in turn will help us to be more effective as we work towards ending the AIDS epidemic.”

He reiterated that staff were UNAIDS’ greatest asset and stressed that the Senior Management Team was committed to change, accountability and transparency. He also said that the plan was designed with staff at the centre and that staff had played an instrumental role in contributing to and shaping the Action Plan.

During the meeting, the Board heard from Laurie Newell, Chair of the working group to strengthen the PCB’s monitoring and evaluation role on zero tolerance against harassment, including sexual harassment, bullying and abuse of power, at UNAIDS. Ms Newell explained that the working group will support UNAIDS in being a model organization in the United Nations system for zero tolerance for harassment and commitment to dignity and respect at work. The working group particularly appreciated the engagement of staff in the development of the Action Plan as a model for the United Nations system.

The Board members expressed their support for the Action Plan and urged UNAIDS to continue its implementation and its improvement. They expressed their wish to see the Action Plan become a pathfinder in the United Nations system to address harassment in the workplace. They also reiterated their support to the PCB working group and said that they looked forward to its recommendations at the PCB meeting in June.

The Board also heard from Yuri Ambrazevich, Permanent Representative of Belarus to the United Nations Office and other International Organizations in Geneva and Chair of the search committee for the selection of the next Executive Director of UNAIDS. He requested the support of the PCB in helping the search committee to ensure that the process remains fair and confidential for all candidates and solicited the Board’s support in bringing forward the broadest possible pool of highly qualified candidates. The Board confirmed its trust in the search committee and looked forward to the discussion of the proposed shortlist of candidates at the 44th meeting of the PCB, in June 2019.

UNAIDS Board members and representatives of United Nations Member States, international organizations, civil society and nongovernmental organizations attended the special session of the PCB, which was chaired by Li Mingzhu, Commissioner of the National Health Commission, China, with the United States of America serving as Vice-Chair and Belarus as Rapporteur.

The UNAIDS Executive Director’s report to the Board and the Board’s decisions can be found here.

「令和」さん、意外に多い?

まだ、出てこないだろうと思いつつ、ネットで検索したら『令和』、すでにありました。さすが・・・ただし、新元号ではなく、個人のお名前でした。

真っ先に出てきたのは、早稲田大学政経学部の川岸令和教授。学部長もされているようです。ご専門は憲法で、れいわ」ではなく、「「のりかず」さんですね。

鎌倉商店街連合会は高橋令和(のりかず)会長。2016年に就任された時の地域情報誌の記事に紹介されています・・・ということで、令和さん、意外にたくさんいらっしゃるのかもしれませんね。

とりとめもない感想で恐縮ですが、祝!令和。希望に満ちた明るい時代になってほしいと思います。

 

あれ?いつの間に 高倉健さんのお墓に遭遇

 1日限定で暖かい日曜日となりましたね。お花見でもしますかと思い立って、材木座光明寺を訪れました。

  

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桜会は前日、330日だったそうですが、今年はまだ、花が追い付いていませんね。境内の桜も寒さがぶり返して、足踏み状態が続いていた印象です。

この時期には期間限定で山門に上がることもできます(ただし有料)。

 

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 その山門入ってすぐ右手に新しいお墓が・・・。

 

 

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 よく見ると、高倉健さんのお墓でした。しばらく光明寺の境内を訪れていなかったので、健さんのお墓が光明寺にあるとは知りませんでした。どうしてここにあるのか。ネットで検索すると、いろいろと事情がおありのようですが、立見席のその他大勢ファンの一人に過ぎない私のような者には、そうした背景など知る由もありません。でも、お墓はここにあります。末端のファンとしてお参りをさせていただきました。

 傍らには『高倉健さんの墓碑』という案内板。その受け売りですが、この墓碑は健さんの立ち姿を表しており、高さは健さんの身長と同じ180センチだそうです。

 

『薬物使用者:いまも取り残されている人たち』 UNAIDS

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)公式サイトのUPDATE欄には、折にふれ最新データによるグラフが紹介されています。今回は薬物使用者の間での新規HIV感染件数の年次推移。世界全体の新規感染はこのところ減少傾向にある中で、注射薬物使用者の間での感染は逆に増加しています。『薬物使用と個人の使用目的による薬物所持を犯罪として扱うこと、そして薬物使用者が受けるスティグマや差別、暴力が、保健やハームリダクションのサービスへのアクセスを妨げている』とUNAIDSは指摘しています。

 

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    グラフ左は注射薬物使用者の間での新規感染、右は全体の新規感染

 

薬物使用者:いまも取り残されている人たち

2019.3.18 UNAIDS Update

http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/featurestories/2019/march/20190318_gow_people-who-use-drugs

 

 世界全体のHIV新規感染は2011年から2017年の間に22%減少しているものの、注射薬物使用者の間での感染は逆に増加しているように見える。注射薬物使用者の間でのHIV感染率 感染しやすい人口集団における一定期間内の新規HIV感染数 2011年に推定1.2%だったのが、2017年には推定1.4%に上昇している。

  オピオイド代替治療や注射針・注射器プログラムを含むハームリダクションが、注射薬物使用者のHIV感染を防ぐことには、包括的で、かつ動かしがたいエビデンスがある。しかし、薬物使用と個人の使用目的による薬物所持を犯罪として扱うこと、そして薬物使用者が受けるスティグマや差別、暴力が、保健やハームリダクションのサービスへのアクセスを妨げている。

 新たな報告書『健康、権利と薬物:薬物使用者へのハームリダクション、非犯罪化、差別ゼロ』は各国に対し、薬物使用には公衆衛生と人権の観点から対応するよう求める提言を行っている。

 

 

Update

People who use drugs: still being left behind

18 March 2019

While the incidence of HIV infection globally for all ages declined by 22% between 2011 and 2017, HIV infections among people who inject drugs appear to be rising. HIV incidence—the number of new HIV infections among a susceptible population during a certain time—among people who inject drugs rose from an estimated 1.2% in 2011 to 1.4% in 2017.

There is compelling and comprehensive evidence that harm reduction—including opioid substitution therapy and needle–syringe programmes—prevents HIV infections among people who inject drugs. However, criminalization of drug use and possession for personal use and the widespread stigma, discrimination and violence faced by people who use drugs hampers access to health and harm reduction services.

In its new report, Health, rights and drugs: harm reduction, decriminalization and zero discrimination for people who use drugs, UNAIDS has outlined a set of recommendations for countries to adopt for a public health and human rights response to drug use.

 

 

 

HIV/エイズ対策からみた平成の30年 TOP-HAT News第127号

 平成の最後を飾る都内の桜は、新元号の発表よりも早く満開となったものの、本日はまた、恐るべき寒さでしたね。金曜日の夜桜見物に繰り出した方は、どうか風邪をひかないように暖かくして、ま、速やかに近隣のお店で大小宴会のパート2に移行した方がよさそうですね。

 TOP-HAT News127号は新元号発表直前の発行となりました。したがって週明けには分かる新元号表記はまだ使えません。知っているけれど使えないのでなく、知らないからなのだけど、そういう日々に書いたということは記録しておこう。

 ま、新元号の発表は月曜まで待つとして、平成の30年はエイズ対策から見て、どんな時代だったのか、振り返ってみました。一つの時代というよりも、ずいぶん大きな変化があった30年だったことを改めて実感しました。

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第127号(20193月)

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TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに HIV/エイズ対策からみた平成の30

 

2 テーマは『HIVサイエンス新時代』

 

3  10年で米国内のHIV流行をなくす トランプ大統領が表明

 

4 『皆保険制度の国で在住外国人に健康格差の懸念』

 

◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに HIV/エイズ対策からみた平成の30

 新しい元号が間もなく発表され、51日から新元号の時代に移行します。「平成」はあと1か月ですね。混乱を避けるために西暦年も併記しながら、この30年のエイズ対策史を振り返ってみましょう。

 198917日に当時の小渕恵三官房長官が新元号を発表し、1週間だけだった昭和64年は翌18日から平成元年となりました。その年の217日にエイズ予防法施行、5月に大阪HIV訴訟、10月には東京HIV訴訟が提訴されています。

 厚労省エイズ動向委員会(当時はエイズサーベイランス委員会)の記録を見ると、1989年の年間報告数は新規HIV感染者 80件、エイズ患者 21件の計101件で、国内の報告が初めて100件を超えた年でもありました。 

 参考までに、500件を超えたのは7年後の1996年(平成8年)で、新規HIV感染者376件、エイズ患者234件、計610件。東京と大阪のHIV訴訟はこの年の3月に和解が成立し、8月には全国でエイズ拠点病院体制がスタートしています。

 平成の初期には、エイズは「死に至る病」とされ、原因ウイルスであるHIVに感染した人の9割以上が一定の期間を経てエイズを発症し、亡くなっています。感染に対する医療関係者の恐怖や不安が強く、診療拒否事例も各地で相次いでいたことは拠点病院体制が必要とされた理由のひとつでした。

海外ではニューヨークの画家、キース・へリング1990年(平成2年)、そしてロックバンド『クィーン』のフレディ・マーキュリーが翌1991年にエイズで死去しています。今年4部門でアカデミー賞を受賞した映画『ボヘミアン・ラプソディ』の主人公でもあるフレディ・マーキュリーの死は当時、ファンに大きな衝撃を与え、日本国内でもエイズによる死者を偲ぶレッドリボンが広がるきっかけになりました。

 医療面でその状態が大きく変わる節目になったのも実は1996年(平成8年)です。3種類の抗レトロウイルス薬を同時に服用する「カクテル療法」の高い延命効果がこの年のエイズ国際会議で報告されました。

研究の進展に従って呼び方は変わり、現在は抗レトロウイルス療法(ART)と呼ばれているこの治療法は、その後の成果により、完治には至らないものの、治療を続ければ、HIVに感染した人たちが感染していない人とほぼ同等に長く生きていくことも期待できる状態を実現しています。

 国内の動きに戻りましょう。1999年(平成11年) 4月には、伝染病予防法、性病予防法、エイズ予防法の予防3法が廃止、統合され、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が施行されています。感染症の流行と闘うには、予防対策と同時に治療の提供が重要なことを強調した法律です。同年10月にはこの新法に基づいて、わが国のエイズ政策の基本となるエイズ予防指針が告示され、ほぼ56年おきの見直し作業を経て、現行指針に至っています。

 国際的には、2000年(平成12年)の九州沖縄サミットを経て、翌2001年にニューヨークで国連エイズ特別総会が開かれました。エイズで最も大きな打撃を受けているアフリカなど途上国のHIV陽性者にも治療薬が届くようにしなければならないという考え方が広く世界に共有されるようになったのは21世紀に入ってからです。流行開始から20年もかかっています。2002年に世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)、2003年には米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)が始動して治療の普及に資金が投入され、途上国向けに薬の価格を下げる交渉も続けられました。

 HIV/エイズ対策は、いま世界の課題になっているユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(誰もが手ごろな価格で医療を受けられる仕組み)の実現に向け、先駆をなす運動でもありました。

 国内では2000年ごろから男性同性間の性感染報告件数が急増しています。2004年には新規HIV感染者報告780件、エイズ患者報告385件、計1165件の報告があり、初めて1000件を超えました。さらに2007年には1500件(HIV感染者報告1082件、エイズ患者報告418件)に達しています。

しかし、以後の報告は年間1500件前後で横ばいの状態に移行しました。東京など大都市部で当事者コミュニティの人たちが行政担当者や研究者、医療機関などと協力してHIV予防やHIV陽性者の支援を軸にした対策に取り組んできた成果というべきでしょう。その地道な努力が治療の普及と相まって、何とか感染の拡大防止を実現したのです。

東京・新宿二丁目aktaなど性的少数者のためのコミュニティセンターが作られ、予防や支援の啓発拠点が確保できたことも成果を大きく支えました。

 世界全体でみても最近の10年は、治療の普及によるHIV感染の予防効果の有効性が様々な研究で確認され、治療の普及の重要性が一段と強調されるようになっています。

 こうした成果を失速させることなく継続、拡大させていけるかどうか。それは2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」の終結を目指す世界の共通課題であり、同時に日本の課題でもあります。

エイズの流行は終わっていません。当面の成果はあくまで途中経過です。

そして、現在のHIV/エイズ対策は、平成の30年が経験した混乱と恐怖と不安、様々な悲しい体験の蓄積を通して得られた貴重な財産です。その対策のノウハウを生かし、現在の流行を継続的に縮小に転じていけるかどうか、それは新元号の時代に引き継がれるべき課題として残されています。

 TOP-HAT Forum(東京都HIV/AIDS談話室)のサイトにはエイズ対策史年表が掲載されています。あわせてご覧ください。

 http://www.tophat.jp/aids/e.html

 

 

 

2 テーマは『HIVサイエンス新時代』

 第33回日本エイズ学会学術集会・総会の公式ウェブサイトが開設されました。会期は今年(2019年)1127日(水)から29日(金)まで、会場は震災復興の地、熊本市中心部でオープンに向けた準備が急ピッチで進められている熊本城ホール(熊本市中央区桜町313)です。

 http://www.c-linkage.co.jp/aids33/

 『HIVサイエンス新時代 HIV Science New Age』をテーマに熊本大学エイズ学研究センターの松下修三センター長が会長を務めます。

 

 

 

3  10年で米国内のHIV流行をなくす トランプ大統領が表明

 米国のトランプ大統領25日、一般教書演説で『10年以内に米国のHIVの流行を確実になくすための予算を私は民主党共和党に求めたい』と述べ、HIV/エイズ対策に意欲を示しました。長い演説の中ではごく短い言及でしたが、同日付の米国政府のHIV/エイズ啓発サイトHIV.govではアレックス・アザ―ル保健福祉長官が『Ending the HIV Epidemic: A Plan for AmericaHIV流行終結へ:アメリカ国内計画)』という米国の新戦略について、もう少し詳しく説明しています。

 大統領は『eliminate(なくす)』と強めの表現を使っていますが、アザ―ル保健福祉長官によると『今後5年で新規感染を75%減らし、10年間では90%減らすこと』を目指しているようです。この数値目標が実現すれば、10年間で『25万件のHIV感染が防げる』ということなので、野心的な目標ではあります。ただし、米国内の新規感染がゼロになるわけではありません。うまくいけば現在の日本国内の年間HIV新規感染報告数の数倍程度に抑えられるという感じでしょうか。

 一般教書演説のHIV/エイズ言及部分、および演説を歓迎するUNAIDSプレス声明の日本語仮訳をエイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに掲載しました。

 https://asajp.at.webry.info/201902/article_2.html

 アザ―ル保健福祉長官の説明についても日本語で要旨を紹介しています。

 https://asajp.at.webry.info/201902/article_3.html

 

 

 

4 『皆保険制度の国で在住外国人に健康格差の懸念』

 日本国内で在住外国人の診療を続けている医師や国際保健分野の専門家らが英医学誌『ランセット』に『Health-care disparities for foreign residents in Japan』を投稿し、228日号の論評(Correspondence)欄に掲載されました。32日付の電子版(英文)で読むこともできます。

 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)30215-6/fulltext

 また、東京大学大学院医科学研究科・医学部公式サイトの広報・プレスリリース最新情報では投稿内容が日本語で紹介されています。

 投稿者は、在住外国人の診療や研究に携わってきた沢田貴志港町診療所所長、安川康介医師、東京大学の神馬征峰教授(国際保健学専攻)、橋本英樹教授(公共健康医学専攻)で、日本語のタイトルは『皆保険制度の国で在住外国人に健康格差の懸念~富裕層対象の医療政策導入で悪化の恐れ 日本人医師グループが英医学誌で注意を促す ~』となっています。

 著者らは投稿の中で、わが国の現状及び今後について『外国人就労拡大政策を進めているにもかかわらず、日本の在住外国人に対する医療は他のOECD諸国より大きく遅れている。富裕層の旅行者を前提とした医療サービスの充実では在住外国人の健康問題が置き去りにされ、公平なサービスで健康を守ってきた日本の医療が損なわれる』と警告しています。詳細は広報・プレスリリース最新情報(31日付)でご覧ください。

 http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/press.html

 

 

 

 

 

 

小さいけれど、ちょっと気になる変化 東京都エイズ通信第139号

 メルマガ東京都エイズ通信の第139号(20193月)が発行されました。毎月掲載されている最新の新規HIV感染者報告数とエイズ患者報告数を見ると、ちょっと異変が・・・。

先月まで減少傾向が続いていた新規HIV感染者報告が、今回は昨年同時期と比較して増加に転じています。

archives.mag2.com

 

● 平成3111日から平成31327日までの感染者報告数(東京都)

  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者       90件  (72件)

AIDS患者        13件  (14件)

合計           103件  86件)

 

AIDS患者数は昨年同時期を下回ったが、HIV感染者数は昨年同時期を上回るペースで

報告されている。

          

今年第一四半期(13月)の報告数も前年同期比で増加に転じています。多少の上下変動があるのかもしれません。また、今年は年度末にまとめて報告が入るところがあったのかもしれませんね。

短期の増減に一喜一憂していてもしょうがないので、もう少し推移を見ていく必要がありそうですが、一つだけ、言えることがあります。2020年の東京オリンピックパラリンピックの開催を控え、この時期に「エイズはもういいだろう」などと安心していられる状況ではないということです。ましてや、これまで積み重ねてきた努力を放棄したり、手を緩めたりできる余裕はありません。

その意味では、あくまで報告ベースの数字であり、しかも、中期的な動向の中では短期的な小変動なのかもしれないとはいえ、アラームの役割は十分に果たしている(と読み取るべき)変化なのではないでしょうか。

AIDS IS NOT OVERエイズは終わっていません)であります。 

仮に増加傾向に転じているということだとすれば、どのような人口集団、年齢層で増加が顕著なのか、検査推奨の成果なのか、それとも報告だけでなく実際の感染も増えているのか、といったことを把握するための分析が必要になります。