今月は『大衆の反逆』ですね

 NHKに協力する義理は何もないのですが、毎週月曜日の夜、Eテレで放映される『100de名著』は、私のように読書がだんだん面倒になってきた老人には、ありがたい番組であります。

 ずっと前に確か、読んだことがあると思うのだけれど、内容はすっかり忘れてしまいましたという本がけっこうあります。そういう本が時々、取り上げられる。これは助かります。最近だとカミュの『ペスト』がありました。月の初めに書店でテキストを購入し、一か月間、楽しませていただきました。

 ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』はかねがね読みたいなとは思っていたものの、難しそうでとても歯が立たないだろうとあきらめていた本です。したがって『100de名著』で取り上げられた時には、これ幸いと飛びついて、一応、読んだつもりになっています。イージーゴーイングな自分が許せちゃうのも、年の功というべきでしょう(つくづく安易なやっちゃな)。

 

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2月はオルテガの『大衆の反逆』です。おっ、いいね!というわけで、さっそく飛びつき、第1回放送を昨日、観ました。この時期に、このテキスト、いかにもな選択ではありますが、時代があまりにも重なって見えてきます。まだまだ寒い日が続きますね。春を待ちながら、しっかり勉強させていただきましょう。

もうすぐだ 古代青軸 寒紅梅

 年寄りと虫は暖かくなると動き出すといいますか。節分の2月3日、鎌倉はぽかぽか陽気でしたね。豆まきでも見に行くかと思い立って鶴岡八幡宮を訪れると、境内では午後1時からの節分会に先立ち、整理券を求める人で長い列。ぽかぽかとはいえまだ2月。高齢者に行列はさすがにつらい。
 豆まきはあきらめて、二階堂の荏柄天神社に転進しました。歩いて7、8分です。

 

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 学問の神様です。石段を上がると・・・。受験シーズンとあって境内は受験生の合格祈願に訪れた家族(たぶん、ご本人はいまも勉強中でしょう)でにぎわっていました。

 

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 お祈りの順番を待つ間にスマホで写真を撮っている人もけっこういますね。

 

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 社殿に向かって右側の寒紅梅。鎌倉で最も開花が早い梅だそうです。

 

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 こちらは社殿に向かって左側で咲く白梅。古代青軸と呼ばれているそうです。真ん中のめしべとおしべのあたりが若草色というか、青みがかっていますね。

 

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 石段の上から参道を見下ろす。この日差しと青空。すっかり春と思っていると、また寒くなるので、受験生諸君、気を引き締めていこう。

『HIVのウイルス量と感染可能性 検出限界値未満なら感染はしない』 米3博士がU=U解説記事

 『U=U』については当ブログでも何度か取り上げていますが、まだ日本では「何それ?」という人の方が圧倒的に多いのではないかと思います。多少の濃淡はあるものの、実はアメリカでもそうなのかもしれませんね。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のRobert W. Eisinger、Carl W. Dieffenbach、Anthony S. Fauciの3博士がこれまでの科学的エビデンスを踏まえ、『U=U』が持つ意味合いについて解説した視点記事(View Point)です。1月10日付で米国医師会雑誌(JAMA)の公式サイトに掲載されました。
 《HIV Viral Load and Transmissibility of HIV:Infection Undetectable Equals Untransmittable》

 書き出しは日本語にするとこんな感じです。
 《HIV/エイズの流行終結HIV関連のスティグマの解消を目指し、健康への平等な権利を求める予防アクセスキャンペーン(Prevention Access Campaign)が2016年、U=U(検出限界値以下=感染しない)キャンペーンをスタートさせた。U=Uの意味は、HIVに感染していても抗レトロウイルス治療(ART)を受け、体内のウイルス量が検出限界値未満の状態を維持している人からは、他の人へのHIV性感染は起きないということだ》
 また、このコンセプトの重要性については影響範囲が広いことをあげています。
1 医科学および公衆衛生上の観点からHIV治療や予防に与える影響
2 社会的スティグマおよびHIV陽性者自身の内なるスティグマの解消
3 HIV感染を犯罪視する法律の不当性の指摘
 これはまあ、その通りでしょうね。ただし、影響範囲が広いということは、異なる立場の人がそれぞれの思惑に基づき、都合のいい部分だけを強調するという側面もあります。その結果、同床異夢のキャンペーンが展開されると、負のリスクも大きくなりそうです。
 あくまで個人的な感想に過ぎないことをお断りしたうえで言えば、「こんなはずじゃあなかった」といった思惑の食い違いもいずれ浮上してくるかもしれません。
 ファウチ博士らがこの解説記事を書いたのもおそらく、そうならないように広い視野でキャンペーンを把握していきましょうということを再確認するためでしょうね。以下、日本語による要約紹介を試みます。あくまで私のフィルターを通した解釈なので、内容については英文でご確認ください。
    ◇
Viewpoint January 10, 2019

HIV Viral Load and Transmissibility of HIV Infection
Undetectable Equals Untransmittable
 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2720997

HIVのウイルス量と感染可能性 検出限界値未満なら感染はしない

 HIV/エイズの流行終結HIV関連スティグマを解消するため、健康への平等な権利を求めるPrevention Access Campaign(予防アクセスキャンペーン)は2016年にU=U(検出限界値以下=感染しない)キャンペーンをスタートさせた。1
抗レトロウイルス治療(ART)を受け、体内のウイルス量が検出限界値以下の状態を維持していれば、HIV陽性者から他の人にHIVが感染することはない。強力な科学的エビデンスに基づくこのコンセプトは、医科学および公衆衛生上の観点からHIV治療に与える影響やHIV陽性者自身の内なるスティグマの解消 2 、HIV感染を犯罪視する法律 3 などに広く影響を与えている。U=Uの科学的エビデンスとU=Uコンセプトの行動学的、社会的、法的な意味合いについて検証する。

 HIV/エイズ治療の最大のブレークスルーは1996年の抗レトロウイルス薬3剤併用療法であり、それは最新のプロテアーゼ阻害薬にも受け継がれている。多くの患者の体内でウイルス量が減少し、検出限界値未満の状態を継続できるようになった。2医科学データの検証に基づき、2008年にはスイスで、他の性感染症にかかっていないHIV陽性者が少なくとも6カ月間、検出限界値未満のウイルス量を維持していれば、他の人へのHIV性感染は起きないとする声明が発表された。4 U=Uコンセプトを最初に示す声明だったが、厳密な無作為化臨床試験を踏まえたものではなかった。

 2011年にはHIV不一致(一方が陽性、他方が陰性)のカップル1763組(98%は異性間カップル)を対象にしたHIV予防トライアルネットワーク(HPTN)052研究が、ARTの早期開始と遅らせたケースとを比較し、HIV感染は早期開始カップルの方が96.4%少なかった。予防としての治療の無作為化臨床試験による最初のエビデンスで5、この時点では結果の持続性や検出限界値未満のウイルス量と感染性との明確な相関は示されなかったが、その後5年間の追跡研究で早期にARTを開始し、続けていればウイルス量の抑制が維持され、HIV予防効果があることが確認された。6

 後続のPARTNER1研究では、HIV不一致のカップル1166組を対象に、HIV陽性者がARTを受け、ウイルス量の抑止を維持している場合(HIV-1のウイルス量が血液1ミリリットル中200コピー未満)のコンドームなしのセックスによるHIV感染リスクを調べた。コンドームなしの性行為5万8000回でHIV感染は起きていなかった。3 この研究では男性とセックスをする男性(MSM)のカップル数が少なく、統計的にウイルス抑制と感染リスクの関係を確認するには不十分だった。オーストラリア、ブラジル、タイのHIV不一致なMSMのカップル343組を対象にしたOpposites Attract研究では、588.4カップル年でコンドームなしのアナル性交1万6800回があり、HIV量が検出限界値未満(1ミリリットル中200コピー未満)のHIV陽性パートナーからの感染は起きていなかった。 3

 PARTNER2研究では、HIV不一致のカップル間で7万7000件ものコンドームなしの性行為を調べ、HIV陽性のパートナーのウイルス量が検出限界値未満なら、HIV陰性で曝露前予防服薬も曝露後予防服薬も受けていないパートナーにHIVが性行為で感染することはないと結論付けている。 7

 U=Uコンセプトの有効性は、ウイルス量の検出限界値未満を維持できるかどうかにかかっている。検出限界値未満の維持には(1)ARTを処方通りに続けることと服薬継続の重要性;(2)ウイルス抑制の時期;(3)ウイルス量検査の推奨;(4)ART中断のリスク(表)、を考えなければならない。

表 ウイルス量検出限界値未満を達成、維持するための原則
・抗レトロウイルス療法(ART)が最大限の利益をもたらすには処方通りに薬を服用することが不可欠
・検出限界値未満の達成には最大6カ月かかり、達成後も服薬継続が必要。
・米保健福祉省のガイドラインでは、血液中のHIV-1 RNAレベルが検出限界値(1ミリリットル中200コピー)未満に達した後も3~4カ月ごとにウイルス量検査が必要。ウイルス抑制と安定した免疫状態が2年以上維持できれば、検査間隔は6カ月ごとに延ばせる。
・治療の中断はU=Uの有効性を損なう。


 米疾病管理予防センター(CDC)の報告によると、2015年に米国内でHIV治療を受けたHIV陽性者の約20%は直近の検査でウイルス量が抑制(HIV-1 RNAが1ミリリットル中200コピー未満)されていない。また、同じ年に治療を受けたHIV陽性者の40%がウイルス量の抑制を12カ月以上、維持することはできていなかった。8 その背景には質の高い保健医療ケアが利用しにくいことを含め多くの要因があり、安定的な保健医療ケアの提供プログラムが、高いウイルス抑制率を可能にすることも示されている。

 U=Uのガイドラインは治療開始6カ月後にウイルス抑制を確認する必要があるとしている。ケニアウガンダで4747組のHIV不一致の異性間カップルを対象にした前向きコホート研究Partners PrEP trialは、ウイルス抑制(HIV-1 RNAが血液1ミリリットル中80コピー未満)の前と後にHIV感染リスクを判断するよう設計された。ART開始前のHIV感染率は100人年あたり2.08、ART開始0~6カ月後では1.79、6カ月以上では0.00だった。ART開始後6か月は感染リスクが残り、血液や性器におけるウイルス抑制が十分ではないことを示している。9 PARTNER1研究の感染例はすべてHIV陽性のパートナーの治療開始から4カ月以内に起きており、ウイルス量抑制の達成前だった。3

 成人と若者の抗レトロウイルス治療ガイドライン委員会は、ウイルス量検査の推奨スケジュールについて(1)ケアに入るとき、(2)ART開始または処方変更時、(3)ART開始または処方変更の2~8週間後、さらにHIV-1 RNAが血液1ミリリットル中200コピー未満に下がるまで4~8週間ごと、(4)抑制後は3~4カ月ごと、としている。治療を順守してウイルス量が抑制され、免疫状態が2年以上、安定している場合、委員会はモニタリング期間を6カ月ごとに延ばすよう推奨している。

 ART中断はU=Uの成果を大きく妨げ、2~3週間で通常はウイルスのリバウンドが起きる。ART中断後も継続時と同等のエイズ進行防止効果があるかどうかを調べたSPARTAC、SMART両研究では、どちらも中断がウイルス量のリバウンドにつながっていた。10 最近の12臨床研究に対する体系的な検証では、HIV陽性者がARTを続け、4~6カ月ごとのウイルス量検査でウイルス抑制(HIV-1 RNAが1ミリリットル中200コピー未満)を維持していればHIV不一致のカップルのHIV性感染リスクは無視できるレベル(100人年あたり0.00感染、95% CI, 0.00-0.28)だと結論づけている。3 U=Uキャンペーンでは、治療中断につながる生活上の問題に対応し、患者のケア継続を支援するプログラムが重要になる。

 要約すれば、U=Uのコンセプトを支える臨床データは10年以上にわたって蓄積されてきたものの、圧倒的に多数の科学的エビデンスが示されたのは最近である。U=UコンセプトはHIV陽性者がARTを求め、開始し、継続する動機を提供する。加えて、HIV/エイズの世界的大流行をコントロールし、究極的には終結させるための努力を促すことにもなる。また、恐怖や罪の意識、HIV陽性者の多くが経験してきた内なるスティグマや外部からのスティグマを取り除くことで、生物医学の最善の成果を行動学的、社会的な科学につなぐ橋にもなる。さらにHIV陽性者を犯罪者として扱い、他の人にHIVを感染させる、もしくはさせるかもしれないという理由で刑事訴追の対象とする法律に再考を促すことになる。

 

 

食パンも光も冬の散歩道

 北鎌倉のパン屋さんに春よ恋食パンの買い出しに行った帰り道。気温は低めですが、日差しもうすっかり春よ来いでした。蛇足ながら後で調べたら『春よ恋』というのは北海道産の小麦粉のようですね。

 

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 江戸時代に縁切り寺、駆け込み寺として知られた東慶寺井上ひさしさんの名作『東慶寺花だより』は映画化もされましたね。原田眞人監督の『駆込み男と駆出し女』・・・っと、すいません、間違いました『駆込み女と駆出し男』でした。最近は駆け込みたい男もけっこういたりして・・・などと慌てて言い訳をすると、そこにまた突っ込まれそうです。おじさんは切ないよ。

 

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 明治の切ないおじさんは、向かいの円覚寺で座禅を組みました。写真の石碑は、東慶寺門前にある夏目漱石参禅百年記念碑です。漱石は明治27年(1894年)の末から翌年の110日まで、円覚寺帰源院に止宿していたそうで、記念碑は平成6年(1994年)119漱石忌建立となっています。

 

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 通りに出たところには、くたびれた木の棒に「かけこみ寺旧跡」の表示。格子の塀のようになっているのはイタリアンレストランの外壁です。現代の女性は、食欲もりもりで駆け込むとか・・・。気の小さいおじさんは、これもセクハラかなあと、おっかなびっくりで書いています。よせばいいのに、ついつい気の利いたセリフのひとつも言ってみたいと思って、墓穴を掘るのが、おじさんのいつものパターンですね。自覚していてもなおらない。 

 

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 こちらは鎌倉五山浄智寺。冬のこもれびにも、はや春の気配が・・・と思ったら、くしゃみが出てきた。やっぱりまだ冷えるね。歩こうと思ったけれど、電車に乗って帰ろう。

 

いまこそ持続と充実を TOP-HAT News第125号(2019年1月)

  トランプさんの一般教書演説はどうなったのでしょうか。中身によってはHIV/エイズ分野への影響もありそうなので、アメリカの話とは言え、少々、気がかりです。

 ま、日本国内でも気がかりの材料はうんざりするほどあるのだけれど・・・。TOP-HAT Newsの第125号です。前途洋々たる新年とは言いづらい状態ですが、新しい年が始まりました。

《ただし、それはあくまで中間的な成果であり、流行はいまなお続いています。「エイズはもういいだろう」と考える社会的、あるいは政策的な油断こそが、HIV/エイズの流行の最大の拡大要因であることはいま、世界が共有する認識となっています。成果の継続と対策の充実をはかり、2020年という節目の年を迎えることができるかどうか。そのカギを握っているのが今年1年であることは、年の初めに改めて確認しておく必要がありそうです》

いまこそって、つぶれそうな会社の社長が言いそうな年頭の辞で恐縮ですが、個人的にはHIV/エイズに関してもかなり危機感を持っています・・・とはいえ、落ち込んでいる場合ではありませんね。本年もまたよろしくお願いします。

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第125号(2019 1月)

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TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに いまこそ持続と充実を

 

2  多言語情報サイトH.POT 開設

 

3 『Global Topics(グローバル・トピックス)』創刊 

 

4 『滞日外国人のHIV治療アクセスの変化と課題』 

 

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1 はじめに いまこそ持続と充実を

 遅ればせながら明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 2019年は変化の年ですね。平成が終わり、5月から新しい元号がスタートします。秋にはラグビーW杯が日本で開催され、東京は2020年のオリンピック・パラリンピックに向けた準備が急ピッチで進みます。

 HIV/エイズ分野はどうなるのでしょうか。厚生労働省エイズ動向委員会が昨年8月にまとめた2017年集計の確定値では、新規HIV感染者・エイズ患者の年間報告数が1400件を下回りました。11年ぶりのことです。2018年に入ってからも東京都の報告数は年末まで減少傾向が続きました。あくまで報告ベースの数字なので、実際の感染がいま減っているのかどうか、それは分かりません。しかし、期待は持てます。2019年も報告件数が減少することを目指しつつ、実際の感染発生も減っているのだとしたら何がその要因になっているのか、データの詳細な分析が必要になります。

 国際的に見ると、治療の普及が予防にもたらす効果(予防としての治療=T as P)は、新規感染推計を見る限り、期待されるほどの効果を上げていません。今年は隔年で開かれる世界レベルのエイズ会議(国際エイズ会議)の間の年なので、医科学研究に焦点を当てた第10回国際エイズ学会HIV科学会議(IAS2019)が721日から4日間、メキシコシティーで予定されています。国際会議よりは小規模になりますが、最近は医科学研究の専門家だけでなく、HIV/エイズに関連する社会分野のアクティビストの参加も増えています。科学と社会的な実践との間の垣根が取れてきた証拠であり、このこと自体が40年近いHIV/エイズ対策の蓄積がもたらした大きな成果というべきでしょう。

 また、日本を含むアジアのHIV/エイズ対策に関しては、918日から21日まで、オーストラリアのパースで第13回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP2019)が開かれます。日本にとってはIAS会議よりこちらの方が重要かもしれません。

 

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地球人口のほぼ6割を占めるアジアは、国によって流行の程度が大きく異なり、フィリピンのように日本の近隣で急速に感染の拡大が報告されているところもあります。

これまで何とか感染の拡大を抑えられてきた日本も、その成果に安心していると流行への社会的な関心が低下し、現在の対策の持続すら困難になってしまいかねません。2020年のオリンピック・パラリンピックを控えた東京では、国際的な人の交流もこれまで以上に密になってくることを考えると、現状に満足してしまうことが感染リスクの拡大につながる恐れもあります。HIV/エイズは流行が静かに進行していくタイプの感染症であることへの目配りも大切です。

治療研究の成果とその普及、HIVに感染している人、感染の高いリスクに曝されている人への支援、HIV感染や性に関わる差別と偏見の解消など「いま何が必要なのか、やるべきことはもうわかっている」ということはHIV/エイズ分野の国際会議でこれまで繰り返し指摘されてきました。問題はそれを実行できるかどうかです。そして、自己満足に陥ることを警戒しつつもあえて指摘しておけば、東京は必要な選択肢を比較的うまく実践できてきた数少ない国際都市のひとつでもあります。

ただし、それはあくまで中間的な成果であり、流行はいまなお続いています。「エイズはもういいだろう」と考える社会的、あるいは政策的な油断こそが、HIV/エイズの流行の最大の拡大要因であることはいま、世界が共有する認識となっています。成果の継続と対策の充実をはかり、2020年という節目の年を迎えることができるかどうか。そのカギを握っているのが今年1年であることは、年の初めに改めて確認しておく必要がありそうです。

 

 

 

2 多言語情報サイトH.POT 開設

 『H.POT HIV multilingual info Japan~』は《日本にいる、日本語を母語としないゲイ・バイセクシュアル男性のために、HIV/AIDSの基本情報をそれぞれの言語でまとめたウェブサイト》です。中国語(簡体字繁体字)、韓国・朝鮮語タイ語、フィリピン語(タガログ語)、ベトナム語ネパール語スペイン語ポルトガル語、英語、日本語の11言語に対応しています。こちらでご覧ください。 

www.hiv-map.net

HIVマップの制作チームと、沢田貴志さん(シェア=国際保健協力市民の会/港町診療所)、滞日外国人支援をされている団体・個人、海外の研究者・医療者、NOT ALONE CAFEのチーム、厚労省エイズ対策政策研究事業「外国人に対するHIV検査と医療サービスへのアクセス向上に関する研究」などとのコラボレーション》による成果でもあります。

 

 

 

3 『Global Topics(グローバル・トピックス)』創刊 

 世界の三大感染症であるエイズ結核マラリアについて国際的な動向や課題を簡潔にまとめた「Global Topics(グローバル・トピックス)」(季刊)がグローバルファンド日本委員会(FGFJ)から発行されています。創刊号は《結核の最新動向》。第2号は昨年121日の世界エイズデー30周年に合わせ《世界のエイズ対策資金の動向》が紹介されています。FGFJのサイトでPDF版をダウンロードできます。

 http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2018-12-01_global-topics-vol-2

 

 

 

4 『滞日外国人のHIV治療アクセスの変化と課題』

 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)が公式サイトで、日本に住む外国人のHIV診療を特集しています。報告者はシェア=国際保健協力市民の会副代表で、横浜の港町診療所の所長でもある沢田貴志医師です。 

www.janpplus.jp

 1990年代から滞日外国人のHIV診療を続けてきた沢田さんによると、2000年以降、治療アクセスの改善が進む一方、現在でもなお、外国人が検査や治療を受けるうえで言語が大きな障壁になっています。また、技能実習生や日本語学校などで学ぶ留学生の生活基盤は脆弱なことも大きな課題で、沢田さんは『効果的なエイズ対策は、HIV陽性者の人権をしっかり守ることを抜きには実現しません。日本で生活する外国人が、安心して検査を受けられ治療の相談ができる環境を整備していくことが急務』と指摘しています。

 

 

今年はどうなる? 東京都エイズ通信137号

メルマガ東京都エイズ通信の137号が発行されました。新規HIV感染者・エイズ患者報告の減少傾向は今年に入ってからも続くのでしょうか。期待は持てるものの、最初の1カ月だけではまだ、何とも言えません。報告の推移を注意深く見ていくことにしましょう。

archives.mag2.com

 

● 平成3111日から平成31128日までの感染者報告数(東京都)

  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者       14件  (16件)

AIDS患者          3件  ( 3件)

 合計              17件   19件)

AIDS患者数については同数、HIV感染者については昨年同時期を下回っています。

 

夕空に 風なお寒く 島は近く

 柄にもなく論文の評価をしなければならないお仕事が入って、少々、疲れました。それなりに数もあるので、とても一日や二日では終わりませんね。一段落ついたところで、息抜きに海岸に出てみました。

 

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 滑川の河口の向こうには伊豆大島。この季節は空気が澄んでいるせいか、ずいぶん近くに見える感じがします。

 

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 こちらは伊豆半島に沈む夕日。比較的温暖な日曜日だったので、砂浜にはたくさんの人が繰り出していますね。
 今日あたりは富士山もくっきりと姿を現しているのではないかと思いますが、残念ながらここからだと右手の稲村ケ崎に隠れて見えません。寒さを押して向こうまでいく元気ももはやなく・・・。

 大坂なおみさんの快挙ほどではありませんが、テレビではサラリーマン川柳の話題もさかんに取り上げられていますね。こちらはすでにサラリーマンではなくなってしまったので、細々とフリーランス川柳です。さっ、お仕事に戻るとするか日曜日。