世界はそれに立ち向かった グローバルファンド2017成果報告 エイズと社会ウェブ版288 

 世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)が2017年の成果報告書を発表しました。2002年の設立から2016年まで15年間の推計では、グローバルファンドが支援するプログラムにより、低・中所得国で2200万人の生命が救われたということです。 

fgfj.jcie.or.jp

  グローバルファンドのプレスリリースによると、この推計はまず、対策を取らなかったときに予想される死者数を予測し、対策をとったけれど残念ながら結果として亡くなった人の数(こちらも推計ですが)を引いて算出するということです。「例えば」として結核の例が紹介されています。

《治療を受けていない喀痰塗末陽性の結核患者の70%が死亡すると示す研究がある国において、ある年に1000人の喀痰塗末陽性の結核患者が治療を受けた場合、登録された結核死亡者数がわずか100人だったとすると、このモデルは600人の命が救われたと結論づけることができます。治療がなければ、700人の命が失われていたことになります》

 

 報告書によると、グローバルファンドの支援による成果は、2016年末時点で、以下のようになっています。

・抗レトロウィルス治療(ART)を受けているHIV陽性者 1100万人(世界全体でARTを受けている人の半数以上にあたる)

結核治療を受けた人数 1740万人

マラリア感染予防のために配布された蚊帳の数 79500万張

・グローバルファンドが当初2016年末までの目標としていた14000万~18000万の感染の回避は、2015年に達成

 

 グローバルファンド設立に向けた最初の動きを生み出したのは、2000年の九州沖縄サミットでした。そして、いまは國井修さんが戦略・投資・効果局長として運営の中心的な役割を担っています。上記のような成果には、単に日本の片隅で暮らしているだけの私のような者でも、どこか誇らしい気持ちになります。

 もちろん、エイズ結核マラリアの三大感染症との闘いは、まだまだ道半ば。グローバルファンドはこのところ、その大前提であり、新たな感染症の流行という未知の事態の備えにもなる保健基盤の強化にも力をいれていますが、それもこれからが正念場です。

 ・・・ということは、報告書にも書いてありますね(全部、読んだわけではないけど、たぶん)。

 報告書のエグゼクティブ・サマリーは日本語版で読むことができます。

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https://www.theglobalfund.org/media/6775/corporate_2017resultsreport_summary_jp.pdf

《世界はそれに立ち向かいました。政府、民間セクター、市民 社会、感染症の当事者等が協働するメカニズムとしてグローバ ルファンドが設立され、世界から資金を調達し、エイズ結核マラリアの流行終結に向けて対策事業を戦略的に支援してきました。その支援が効果をあらわしています》

 こういうことはなかなか書けませんよ。ぜひ、お読みください。

 

砂浜に夏雲流れて、秋の空


 雨が上がって夏が舞い戻ってきたような一日。涼しくなるのを待って海辺に出ると、夕空が見事でした。

 

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 由比ガ浜の海岸では海の家の撤退作業もほぼ終盤。このどことなく寂しさが漂う雰囲気は、秋だなあと改めて思います。

 

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 日が暮れても名残は惜しい。

スポーツを通じたHIV&AIDSの予防のツールキット紹介編

 昨年の10月から12月にかけて、(つまり秋から冬にかけてなのになぜか)五月雨式に紹介したツールキットの日本語仮訳です。9回に分けて当ブログに掲載したので、見つけやすいようにURLを一括して紹介しておきます。

その前に・・・と早くも前置きで恐縮ですが、まずは国際オリンピック委員会IOC)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)のファクトシート『スポーツを通じたHIV&AIDSの予防』(201311月更新)から。

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/09/11/230824

 スポーツを通じたHIV&AIDSの予防の最初のツールキットは2005年にIOCUNAIDSが共同で発表した。フランス語、英語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、スワヒリ語スペイン語の各版がある。スポーツコミュニティのためにとくに、以下のようなかたちをとっている。 

1 HIV & AIDSについての情報を増やす。どうすれば予防対策の効果があがるか、どうすればスポーツがHIV陽性者に利益をもたらすことができるか、検査と相談についてなど。

 2 同僚や選手とともに基本的な情報を得られるセッションからスポーツ大会期間中のコミュニケーションキャンペーンやスポーツ組織自体の包括的な方針策定まで、具体的な提案も含めて多数の活動とプログラムを開発する。

 3 予防活動の重要な対象である10-15歳、あるいはそれ以上の年齢層のユース活動に対する具体的な助言。

 4 手伝ってくれる人、専門的な助言と支援を提供してくれる組織に関する情報。

  ツールキット(英文)のダウンロードはこちらから。

http://data.unaids.org/Publications/IRC-pub06/IOC_Toolkit_20Dec05_en.pdf

 

 日本語仮訳は私が勝手に作成したものなので、IOCから日本語版として認知されているわけではありません。では・・・、

 

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『力を合わせてHIVエイズの予防に取り組もう スポーツコミュニティのためのツールキット』1

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/10/22/182809

 《不肖・私が何年も前に、極めて多忙な日々の中で暇にまかせてこつこつと訳したものであります。誰に頼まれたわけでもないのにご苦労なことだとは自分でも思いますが、日の目を見ることもなく埋もれてしまうのも残念なので、当ブログに訳文だけでも掲載することにしました》

 

『スポーツコミュニティのためのツールキット2 第1部 どうしてこのツールキットが作られたのか』

 http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/10/22/203836

 《スポーツの世界は、他の世界と切り離されているわけではありません。スポーツは生きる技術を教え、自らを評価し、自信を生み出してくれます。そうしたことがすべて、HIVの流行と闘う力にもなるのです》

 

『第2部「コーチ、トレーナー、役員の皆さんに」 ツールキット3

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/10/24/142123

《コーチとして、あるいはトレーナーとして、あなたには多数の若者の生命を預かる特別な役割があります。その若者たちはまさに、自分自身のセクシャリティや周囲を取り巻く世界を含めた自己発見に直面しているのです。自らの生き方をさぐり、「私は誰なのか」「何のために生きているのか」、そして「男であること、女であること、というのはどういうことなのか」という問に答えを出そうとすれば、時に混乱し、怒りや孤独感にとらわれることもあります》

 

『第3部「このツールキットの内容は?」 ツールキット4

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/10/28/195234

HIV予防、およびケアと治療の両方に焦点をあてています。たとえば、HIV予防に関する情報提供と同時に、HIV陽性者が安心して働いたり、治療を受けたりできる環境の整備も目指しています》

 

『第4部「知っておく必要があること」 ツールキット5

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/10/30/200855

HIV/エイズに関する基礎知識編ですね。かなり前に作成されているので、事実関係としてアップデートした方がいい部分も一部ありますが、ここではそのまま訳しました》

 

『第5部「スポーツとHIV」 ツールキット6

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/11/06/224058

《数多くのHIV陽性のチャンピオンがHIV啓発、およびHIVエイズに関連したスティグマと闘うために活動しています》《他にもHIV啓発、HIVにまつわる偏見の解消、予防などのメッセージを積極的に呼びかけてきたスポーツ関係者はたくさんいます。たとえば》

《誰がどんなメッセージを伝えているのか、ぜひ探してみてください》

 

『第6部「スポーツ機関のHIVエイズへの対応」 ツールキット7

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/12/16/144138

《国際労働機関(ILO)の職場におけるHIV/エイズ対策行動規範などをもとに、スポーツ機関はどのように対応したらいいのか、対応できるのかについて詳しく取り上げています》

 

『第7部「コーチ、トレーナー、指導者のHIVAIDSへの対応」 ツールキット8

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/12/17/095252

《いったん氷を破ることができれば、他の人たちもいかにセクシャリティについて話したいと思っていたかが分かり、驚くでしょう。他のコーチや友人や仲間と話し合ってください。あなたが正直に腹を割って対応しなければ、好奇心の強い若者のグループを惹きつけることはできません》

 

HIV/エイズに関するクイズその他 スポーツコミュニティのためのツールキット9

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/12/25/201820

《クイズ、用語集ともおそらく2010年当時のものなので、いまとはデータが異なります。したがってクイズの正解はあくまで当時の正解で、現在とは異なります。例えば1問目の「世界中でHIVに感染している人の数はどのくらいですか」という問題に対する解答は3300万人となっていますが、2015年末現在のUNAIDS推計だと3670万人です》

(注:2016年末現在も3670万人)

 

マニラ首都圏のリーダーがHIV対策強化を約束

 フィリピンのHIV流行の拡大に対応するためにマニラ首都圏17市が対策に本腰を入れて取り組むことを約束したという国連合同エイズ計画(UNAIDS)のリリースです。

 

 フィリピンでは過去6年でHIVの新規感染が140%も増えているということです。6年前の2.4倍ということでしょうか。保健相は「国家的緊急事態」と語っています。

www.unaids.org

 最初の部分だけ日本語にしました(あとは儀礼的なあいさつの紹介が続き、さすがに訳す気力を失いました)。フィリピンの状況も折に触れてフォローしてく必要がありそうです。

 

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マニラ首都圏のリーダーがHIV対策強化を約束

   2017911

 

フィリピンのマニラ首都圏を形成する17都市の市長をはじめとする指導者たちが、HIVの流行に対し、公衆衛生上の緊急事態として、分野横断的な戦略を採用し、必要な資金を投入して取り組むことを約束した。各市代表は、パウリン・ジーン・ロセル・ウビアル保健相主催の夕食会でHIV対策決議案に署名した。

 最近発表されたUNAIDSの『エイズ流行終結 90-90-90ターゲットの進捗報告』が今回の動きを促した。この報告書によると、フィリピンの新規HIV感染件数は過去6年で140%増加しており、アジア太平洋地域で最も急速に流行が拡大していることが明らかにされた。保健省によると、HIV報告件数の40%以上は首都圏17都市からの報告だという。

危機に直面する日々 「はじめに」で綴るエイズ対策史 その7

 しばらくブランクがありましたが、「はじめに」で綴るエイズ対策史 その7 をTOP-HAT FORUMの資料室欄にアップしました。

http://www.tophat.jp/material/d7.html

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 2010年12月の第28号から2011年3月の第31号までの4本です。

◎世界のHIV陽性者数は3330万人 UNAIDS最新推計(第28号 2010年12月)
◎前途多難、でも希望の節目に(第29号 2011年1月)
◎おかげさまで30号(第30号 2011年2月)
◎危機に直面する日々(第31号 2011年3月)

 第31号は東日本大震災が発生した直後に編集を進めました。世界中の様々な国や組織、個人から被災地への支援が相次いで表明された時期でもあります。UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長からも《国際社会はいまこそ日本の人たちに対し、いかにその貢献に感謝しているかを示す時だと私は確信しています》というメッセージが送られてきました。

 

カメレオンの教訓・・・ エイズと社会ウェブ版 287


 イルファー釧路代表、宮城島先生のブログ『代表徒然草』に『NO TIME TO LOSE』の書評第2弾が掲載されています。  

イルファー釧路:カメレオンのように生き抜く - livedoor Blog(ブログ)

 アフリカの長老のエピソードが紹介されています。なぜ、カメレオンなのか。さすが着眼点がいいですね。ぜひお読みください。
 と紹介の紹介をさせていただくと同時に、宮城島先生、ありがとうございます。勝手にピーターになりかわりまして、再度お礼を申し上げます。

 便乗的で恐縮ですが、こちらは私が以前、当ブログで紹介した抜き書きの一部です。

『NO TIME TO LOSE』再読 その1 序文から
http://miyatak.hatenablog.com/entry/2015/09/13/124446

《もっとも重要なことはおそらく、エイズのような大変な事態のもとでは、高い教育を受けてきたのか、そうでないかに関わりなく、人間というものの良い面も悪い面もはっきりと出てしまうということだろう》

『NO TIME TO LOSE』再読 その2 第5章 流行の噂とヘリコプター から
 《したがって、許されないことだが、私は誰にも言わないことにした。できるだけ他の人と接触せず、一人でいるようにしていた。あまりに不安なので、自分がどんな危険を冒しているのか、どれほどの危険に仲間をさらしているのかも、ほとんど分からなくなってしまっていた》
 アフリカでエボラ治療にあたっていたときに(当時はまだ原因不明の謎の病気だった)、ピオット博士は下痢と発熱、激しい頭痛に襲われ・・・。
 あとはこちらを。
  http://miyatak.hatenablog.com/entry/2015/09/19/091429

 

 参考までに慶應義塾大学出版会の特設サイトも紹介しておきましょう。よろしく。
 http://www.keio-up.co.jp/kup/sp/notimetolose/

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《90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題》

 エイズソサエティ研究会議(JASA)の第126回フォーラムのお知らせをHATプロジェクトのブログに掲載しました。
 http://asajp.at.webry.info/

 拡散希望ということで、こちらにも再掲します。

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エイズ &ソサエティ研究会議(JASA)第126回フォーラム《90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題》

日時:10月10日(火)午後7時~8時45分
場所:ねぎし内科診療所(東京都新宿区四谷三丁目9番地 光明堂ビル5階)
講師:木村哲さん(東京保健医療大学)
   高久陽介さん(日本HIV陽性者ネットワークJaNP+)
参加費:1000円
問い合わせは yz235887@za3.so-net.ne.jp

 抗レトロウイルス治療の進歩により、検査による早期のHIV感染把握と治療開始が、HIV/エイズ対策の大きな目標になっています。感染した人自身の健康維持の観点からも、他の人へのHIV感染のリスクを大きく下げるという意味からも、早期治療の効果は大きいと考えられているからです。
 国際的には90-90-90ターゲット(HIVに感染している人の90%が自らの感染を知り、そのうちの90%は治療を開始し、さらに治療を受けている人の90%が体内のウイルス量を低く抑えられる状態を目指す)が共通の目標とされ、わが国もまた、その最初の90を達成するためのHIV検査の普及を重要課題としてHIV/エイズ対策に取り組んでいます。
 そうした中で、郵送検査には検査普及の有力な選択肢として大きな期待がかけられていますが、同時に現状ではなお未解決の課題も残されています。
 第126回フォーラムでは厚労省の『男性同性間のHIV 感染予防対策とその介入効果の評価に関する研究』の分担研究員として『HIV郵送検査の在り方とその有効活用の研究』に取り組まれた東京保健医療大学の木村哲学長、および研究協力者として参加された日本HIV陽性者ネットワークJaNP+の高久陽介代表のお二人から、わが国におけるHIV郵送検査の普及に向けた展望と課題についてお話をうかがいます。