寄り添わず、無関心にもならず・・・

  先日の国連UNHCR難民映画祭の会見続報です。映画祭の公式サイトにも、記者会見、プレ上映会の様子が報告されています。

東京で記者会見、プレ上映会を開催 – 第12回 国連UNHCR難民映画祭2017

 

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 会見の写真も載っていますね。位置関係からすると、不肖私の背中も映っているはずなのですが、あっ、これかな・・・どうでもいいか。

 上映された『シリアに生まれて』については、以下のように報告されています。

 『日本初上映となるこの作品は、故国シリアを追われて難民となり、見知らぬ土地で生き抜こうと苦闘する7人の子ども達にカメラが丁寧に寄り添ったドキュメンタリーです。上映後、参加者からは「画面の中のことが現実であることに、ただただ衝撃を受けた」、「難民の子どもたちの状況をリアルに知ることができた」といった声が寄せられました』

 丁寧に寄り添うことと、ドキュメンタリーが成立することとは、両立するのかどうか。個人的にはそんなことも考えながら、一方で、寄り添うかどうかは別にして、丁寧に伝えることは大切だと、最近は改めて思います。

 そもそも人に寄り添えないタイプのおじさん層の感想ですね、きっと。寄り添わず、無関心にならず・・・とか。

 対象は異なりますが、日本の(東京の、というべきか)性的マイノリティ―の姿を伝えるドキュメンタリー映画『私はワタシ over the rainbow~』をつい最近、観たので、そのことも影響しているかもしれません。

 『シリアに生まれて』は開催予定の6都市すべてで上映されるそうです。

 

 

『観なかったことにできない映画祭』

 少し時間がたってしまいましたが、81日(火)夜、「国連UNHCR難民映画祭2017」の記者会見と上映予定作品の一つ『シリアに生まれて』のプレ上映会が東京・内幸町の日本記者クラブで開かれました。

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 国連難民高等弁務官UNHCR)駐日事務所と特定非営利活動法人国連UNHCR協会が主催し、日本記者クラブは会場提供などで協力するというかたちの会見です。ワーキングメディアの現役記者や私のようなロートル・ローキーのOBだけでなく、難民支援や開発援助分野の方もたくさんみえるという少し異質の会見でもありました。

 高度に情報化が進んだ21世紀の社会では、情報の発信者も受け手も多様化しているので、誰が発信者で誰が受け手なのかという線引きは難しい。私のようにそのどっちでもあり、またどっちでもないような曖昧模糊とした存在も、フリーランスのジャーナリストとして、パソコンで見様見真似の名刺を作成し、細々とお仕事を探していけば、なんとなく棲息が可能。おじさん層にとってはありがたいような切ないような時代でもあります。

今後もこうしたかたちの会見は増えるでしょうね・・・ということで、はるばる鎌倉から新橋駅下車徒歩78分の大遠征を敢行しました。概要というか、例によってとりとめもない感想に終始しそうですが、自称・概要を報告します。

 まず、映画祭の紹介から。

国連UNHCR難民映画祭2017」は『日本で唯一「難民」を題材にした作品を集めた映画祭』で、930日・101日の東京・スパイラルホールを皮切りに、1112日の広島国際会議場での最終上映まで、全国6都市で開催されます。上映作品の紹介やスケジュールについては、公式ホームページがありますので、そちらをご覧ください。

unhcr.refugeefilm.org

 

映画祭の入場は無料ですが、予約申し込みが必要です。1日はその申し込み受付開始の会見でした。テーマは『観なかったことにできない映画祭』。安逸を旨とするおじさんにとっては、かなり厳しいテーマであります。

会見ではUNHCR駐日事務所のダーク・ヘベカー代表が、世界の難民の状況について「先の見えない大変な状況です」と説明しました。

いただいた資料の受け売りで恐縮ですが、難民とは『紛争や宗教・国籍・政治的な意見が違うことによる迫害などが原因で、祖国にいては生命の安全を脅かされるため、やむを得ず他の国に避難しなければならなかった人のこと』です。

このほかに、自国にはいるけれど、難民の定義と同じ事情で家を追われ国内に避難している人もいます。難民および国内避難民も含めた「移動を強いられている人」の数は世界で6560万人にのぼり、さらに無国籍者、帰還者を含めたUNHCRの支援対象者は6770万人に達するということです。

大変な数の人たち一人一人が個別の事情を抱え、個別の、あるいは共通の困難に直面しています。ヘベカー代表は「難民を含め、家を追われている人の数は英国の人口を超えています。しかも、世界で毎日3万人以上が家を追われているのです」と報告しています。参考までに外務省の資料で英国の人口を確認すると、2015年のデータで6511万人。本当ですね。

とくに女性と子供の状況が厳しく、難民の51%18歳未満の子供で占められています。映画祭は難民のおかれた状況をよりよく知ってほしいということで、2006年から毎年開かれています。今年で12回目です。この間、難民危機は一段と深刻化しています。どうすればいいのか。答えはすんなり見つかるものでもないし、単一でもない。難民の発生を未然に防ぐ予防ももちろん大切、しかし、いまここに難民として生きている人たちの生活に対するケアも重要です。エイズ対策とも共通の課題です。参考までに言えば、UNHCR国連合同エイズ計画(UNAIDS)の11の共同スポンサーの一つ。そして、家を追われた人たちは、HIV/エイズ対策の面からもとくに予防やケアのサービスの提供が必要な人たちでもあります。

あまりに問題が大きすぎて無力感にも襲われる。だから、まずは知ってほしい。それも人数やデータだけでなく、その数字の一人一人が具体的な人間であることを、映像を通して知ってほしいというのが、映画祭が続けられてきた趣旨でしょうか。この点もエイズ対策と課題を共有してます。

プレ上映で拝見させていただいた『シリアに生まれて』は、戦火を逃れて難民となったいくつかの家族の中の子供たちを描いています。2015年にシリアを逃れた人たちが欧州を目指し、国際社会が対応すべき重要な課題となった。そのときの子供たちがどうなったのか。すべてを失い、それでも希望は失っていない子供たちの姿、そして、それぞれの個人のレベルでも問題はいまなお解決していない現状が、美しい(つまり、その美しさもまた、つらいということでもある)映像とともに報告されています。詳しくは映画を見てください。

国連UNHCR協会の星野守事務局長は三菱商事を退社し、今年7月に現在のポストに就任したばかりだそうです。映画祭は昨年の4都市開催から6都市開催に増えました。動員予測は?という質問にも「昨年は4600人くらいでした。今年はその倍、1万人は超えてほしい」とズバッと具体的な数字を入れて答えます。商社マンらしい(今は元商社マンだけど)といいますか、メディアの関心をそらさない、この対応は見事。様々なジャンルの才能が問題解決に貢献することを期待したい!と自分のことは棚に上げたうえで、感じたことも付け加えておきましょう。

 

『HIV/AIDSのいまとこれから』 エイズと社会ウェブ版279

 第24AIDS文化フォーラムin横浜が閉幕しました。最終日の6日(日)はこれぞ横浜の文化フォーラムといいたくなるような猛暑が戻ってきましたね。

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 午後には『HIV/AIDSのいまとこれから』と題したセッションがあり、今年の日本エイズ学会学術集会・総会の会長を務める特定非営利活動法人ぷれいす東京の生島嗣代表、東京エイズ・ウィークス2017の事務局を担当している日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスの高久陽介代表とともに、なぜか私もスピーカーとして参加しました。

 実はこのセッション、「きれいごとでは終わらない本音のところを聞きたい」という司会の岩室紳也医師のたくらみにより、事前の打ち合わせは一切なし、したがって事前準備もできず・・・というとんでもない企画。したがって3人とも、「いまとこれからって、何を話すんだろう」と疑心暗鬼だったのですが、そこはまあ、岩室先生の巧みな司会術、生島、高久両氏の何を聞かれても動じることのない深い知識と見識、そして悲しいかな長年の記者生活で「きれいごと」に終始するレポートにだけは習熟してしまった某ジャーナリスト(ばればれだけど、とくに名を秘す)の逃げ口上という三位一体の取り合わせで、堂々2時間、何とかこなしちゃったから恐ろしいね。

誰がどんなことを言ったかはこの場にとどめておくという一応の了解事項があったので、詳しい報告はできませんが、90-90-90目標からPrEPHIV/エイズ対策と薬物使用まで話題は多岐にわたりました。

しかも、その中で社会的な対応の重要性を強調し、AIDS文化フォーラムの継続力をほめたたえ、さらには今年11月に予定されている第31日本エイズ学会学術集会・総会と東京エイズ・ウィークス2017の宣伝も怠りなく行うという有意義かつ配慮の行き届いたセッションでした。

というわけで、客席のメンバーがかなり濃かったこともありまして、おじさんは今年のフォーラムのテーマ通り、しっかりと「リアルトーク」に出会ってしまったので、息を抜くこともできなかったよ、ホンマに・・・。

引き続いて行われた閉会式でも、第31日本エイズ学会学術集会・総会と東京エイズ・ウィークス2017の告知の機会が与えられました。皆さん、どうもありがとうございます。参考までに公式サイトもご紹介しておきましょう。 

aids31.ptokyo.org

 

aidsweeks.tokyo

 

 

 

 

《ニュースとAVが抱える『リアルな壁』》 エイズと社会ウェブ版278

 「リアルとであう」をテーマにした第24AIDS文化フォーラムin横浜が4日(金)、横浜駅西口の「かながわ県民センター」で開幕しました。毎年8月の最初の金~土曜日に開かれているので、駅から会場まで毎年、汗だくになりながら通った記憶が強いのですが、今年は天候も含め、これまでとは異なる点が3つありました。

 

 1つめは、お天気ですね。なんだろうね、この涼しさはと思いながら会場を訪れる。

 2番目は、会場が縮小気味だったこと。いつも展示用に使われているスペースが他のイベント使用のためふさがっていたので、展示ブースの存在感が弱い印象です。

 

 ただし、じゃあフォーラムに対する関心が急低下したのかというと、そうでもなさそうで、プログラムは充実しています。

 

 そして3番目。個人的にはこれに一番、驚いたのですが、午前10時から2階ホールで始まった開会式は、超満員でした。

 

AIDS文化フォーラムには毎年、たくさんの人が訪れます。ただし、初日は金曜日(つまり平日)で、しかも開会式は午前中なので、例年なら6割ぐらいの入りで、まずまずの出足という感じです。

 

ところが、今年は、用意されたパイプ椅子の椅子席がほぼすべて埋まり、立っている人もいました。

 

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 にわかに国内のHIV/エイズに対する関心が高まった・・・というわけではありませんね。開会式に続くオープニングのトークセッション《ニュースとAVが抱える『リアルな壁』》のゲストが、セクシー女優の吉沢明歩さんと元TBS報道キャスターの下村健一さんのお二人だったからでしょう。それぞれ異なるジャンルで知名度が高い方なので、例年とは異なる層の参加者もけっこう来られていました。望ましい展開ですね。

 

 下村さんには少々、申し訳ないのですが、あえて動員力を比較すればアッキーこと吉沢明歩さんの影響力がとりわけ大きく、会場左前方の四分の一ほどの椅子席はアッキーファンの皆さんで占められていたようです。緻密な計算に基づかずに言えば、3割程度の動員効果でしょうか。

 

 トークはいつも通り、岩室紳也医師の名司会で進行し、TVジャーナリストとして鍛え抜かれた下村さんの話術、AV(アダルトビデオ)の現場体験に支えられた吉沢さんの素敵な存在感がからんで、まさにセックスと報道の「バーチャルとリアル」をめぐる多角的なトークが繰り広げられました。話題はとりとめもなく脱線していきそうになりながら、いつの間にかまた本筋に回帰していくといった静かでスリリングな展開です。

 

 ・・・と、なかなか話の中身に入ろうとせず、周辺をうろうろしているのは、おじさんの身から出た錆といいましょうか。性の話になるとどうも、平常心を失い、自然体でのレポートができなくなってしまいます。その辺を割り引いてお読みいただくようお断りしたうえで、トークの断片をお伝えしましょう(全体像はとても伝えきれません)。

 

 吉沢さんは、AVの仕事の魅力を尋ねられ、「夢がかなう場所、夢が見られる場所」と語っています。女優として出演する立場からも、観る人にとっても、ということです。なるほどと思います。私の個人的な話で恐縮ですが、20年以上も前にニューヨークにいたころ、エイズ教育に携わる人から、性はファンタジーですよと教えられたことがあります。性産業が存在する基盤は、このファンタジーとしての性にあり、エイズ対策もまた、それぞれの人が性に対して持っているファンタジーは極めて多様であることを前提として受け入れない限り、継続していくことはできない。当時はそんなことを考えていたなあと思い出しました。

 

 さらに余分な感想を付け加えれば、吉沢さんの言葉には、ファンタジーはファンタジーとして受け止めてほしい、それをリアルと混同することはできない、あるいは混同しないようにしてほしいという制作の場からのささやかな希望の提示でもあるのかもしれません。

 

 岩室さんは中高生に対し、AV1人で見るな、45人で見ろ、と常々、伝えているそうです。ファンタジーである以上、現実にはありえないことも出てくる。何人かで観ていれば、これはちょっとないよねとか、現実はそううまくいきませんよとか、いろいろと言い合ってバーチャルを相対化できるからです。

 

 ところが一人で観ているとリアルとバーチャルの境界領域を見失い、かえってリアルな世界に対する壁を心につくってしまうことになる・・・そうかあ、とこれも大いに勉強になりました。

 

ただし、悪ガキ歴の長いおじさん層としては、エロ雑誌やAVはそもそも人目をしのんで、一人で見るものでしょうと、人には言えないけれど心の中でひそかに思います。このあたりの領域はどうも、うまく答えが見つけられません。そもそも模範解答を得るよりも、疑問を持つことの方が大切なのかもしれませんね。

 

 AVが売れ続けるのはなぜかと問われて、吉沢さんは「癒しというものがあるのではないか」とも語っています。忙しく日々を送り、ストレスを感じている人に癒しを提供できるからだそうです。

 

 ただし、それできれいにまとまるわけではなく、例えば、レイプを前面に出したAVがあります。そうした作品は、通常のAVよりも売れ行きがいいので、企画が持ち込まれる。そうなると、女性としての葛藤を感じながらも演じることになります。

 

男性中心のファンタジーが、女性のリアルとの間に大きな乖離を生み出す。そうではなく、お互いに共感できる作品を作りたいとも思うそうです。

 

 下村さんは、メディアリテラシーの観点から、情報をどう伝えるかについて、こんな話を紹介しました。

 

 情報はこうこうこうだけど、別の見方もあるよ、ということを教えるべきかどうか、 学校教育の場では、この点をめぐる議論が昔から続けられてきたということです。これはセックスについてどう教えるかにも大きくかかわる問題ですね。下村さんは、サンタクロースはいないということを早くから教えるべきかどうかという議論をとりあげています。

 

小さい子にリアルな現実を告げるのは、早すぎるのではないかという反対論があります。だが、その反対論に下村さんは逆に疑問を持っています。人間にはリアルを知ってもなお、夢を見る能力があると考えるからです。それはそれ、これはこれという分け方は小さい子の中でも可能です。過剰反応を恐れ、何も教えないようにすることは間違いだと思う・・・この辺りは私も、報道の現場で仕事を続けてきた人の経験知ではないかとひそかに推測しました。

 

 エイズ対策の現場に引き付けていえば、コンドームを教えるかどうか、いつ教えるか、といった課題にもつながっていきます。この点で、コンドームの達人であることを自他ともに認める岩室さんは、あたかも存在しないかのようにしてコンドームについて教えないという現在の学校教育のあり方に大きな危惧を持っているようです。

 

 吉沢さんは、これからのAVについて、例えば、引きこもりの人に向けたAVなど、様々なテーマ別の作品があってもいいのではないかとも語っています。例えば、引きこもりの人が観れば、部屋からリアルな社会に出ていきたくなるような、そんな作品も作れるのではないか・・・。

 

 どうしたらそのような作品の成立が可能になるのか、ほとんどすべての関連領域において門外漢である私のようなものが心配しても始まりませんね。でも、専門領域を持つ人たちの対談がAIDS文化フォーラムの場で成立したことがきっかけになり、世に問うことができるようになれば、それはそれで素晴らしいのではないかとは思います。

 

 AIDS文化フォーラムは6日(日)まで開催されています。最終日には私も少しお話しますので、よろしく。

 

研究で信頼の基盤を築く TOP-HAT News第107号

 TOP-HAT News107号(20177月)です。評価すべきものを評価し、なお、一層の成果を上げる体制を構築するにはどうしたらいいのか。巻頭は日本のエイズ対策が実はきわめて困難な分岐点にあるということを改めて認識せざるを得ない報告となりました。HATプロジェクトのブログに掲載してありますが、当ブログにも再掲しておきます。

 

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         TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
        第107号(20177月)
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 TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発メールマガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
 なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。
                     エイズ&ソサエティ
研究会議 TOP-HAT News編集部

 


             
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに 研究で信頼の基盤を生み出す

 

2 UPDATE エイズのイメージを変えよう』

 

3 保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明

 

4  JaNP+HIV陽性者スピーカー研修

 

                 ◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに 研究で信頼の基盤を生み出す


 東京・新宿二丁目のコミュニティセンターakta79日(土)午後、活動報告会があり、昨年度の年次報告に続く第2部の記念トークショーでは、人間環境大学看護学部市川誠一特任教授が講演を行いました。

 

 aktaは『ゲイコミュニティの中からゲイコミュニティに向けて、HIV/AIDSをはじめとする性の健康に関する予防啓発と支援活動を行うこと』(公式サイトから)をミッション(使命)として2003年に設立。コミュニティセンターとしてはすでに14年の活動実績があります。

 

 2012年には特定非営利活動法人aktaも発足しました。アジア最大のゲイタウンといわれる新宿二丁目の中心部に活動拠点という場があることを生かし、NPO法人とコミュニティセンターの両輪体制で着実に予防啓発と支援活動の充実をはかっています。


そして、市川さんはその『ミッションを掲げた取り組みの基礎をともにつくり、活動してきた』公衆衛生分野の研究者であり、厚労省の研究班の主任研究者として、コミュニティベースの研究を主導し、その成果はaktaなど全国のコミュニティセンターの活動にフィードバックされています。今回のトークショーは東京都の委託事業でもあり、コミュニティと研究者、そして行政の連携という観点からも注目のイベントでした。


 市川さんはまた、学会など研究発表の場でも常に予定時間をオーバーして語ることで有名です。それだけ豊富な研究の蓄積があり、語りたいこと、語るべきことが多い。好意的に解釈すればそうなります。そして、立ち見がでるほどだったこの日の会場でも、聴衆のゲイアクティビストや医学研究者、行政担当者たちは、きわめて好意的かつ寛容だったので、じっくりとお話をきく良い機会になりました。

 
 講演には注目すべき論点がいくつかありあしたが、中でも今後の対策の観点から留意しなければならないのは、10代後半から20代後半にかけてのMSM(男性とセックスをする男性)層のHIV感染が増加傾向にあることです。


 何年か前から市川さんが研究班の成果報告でたびたび指摘されていたことですが、その傾向はますます顕著になっています。


 少し説明が必要ですね。エイズ動向委員会が毎年発表する新規のHIV感染者・エイズ患者報告数は2007年から年間1500人前後で推移しています。つまり、報告ベースでみればこの10年、流行は横ばいの状態が続いています。


 ただし、それは20歳前後の若年人口がその10歳上、20歳上の年齢層と比較すると2割から3割は減少している中での見かけの数字の横ばいでもあります。実際には国内のHIV感染の流行は横ばいではなく、MSMの若年層を中心に増加に転じていると見た方がよさそうです。


 わが国のHIV感染予防対策がMSM層にフォーカスされるようになったのは2000年代に入ってからでした。この10年の報告の横ばい傾向はaktaのような拠点を中心にした研究と実践の連動型予防活動がゲイコミュニティの中で様々な工夫とともに続けられてきたからでしょう。つまり、今から15年ほど前(aktaができたころ)にスタートした啓発と支援活動の成果と考えることができます。


 それ以前、つまり1990年代には、研究者からもゲイコミュニティからもMSM層に焦点をあてた研究はむしろ厭われていた時期がありました。その中にあって、こつこつと土台を築くような研究を開始し、続けてきたのが市川さんを中心にした比較的少数(圧倒的少数といった方がいいかもしれません)の研究者、およびゲイコミュニティ内部のこれまた比較的少数の人たちでした。研究者と当事者の間のこうした信頼関係の構築こそが、わが国のHIV/エイズ対策にとっては何よりも大きな財産だったし、いまも財産であり続けているというべきでしょう。


 ただし、現状はそうした活動の蓄積効果もそろそろ貯金が尽きてきたというか、少なくともこのまま横ばいが期待できる状態ではなくなりつつあります。


 
若年MSM層には予防や支援、治療に関する情報が十分に届いていない。HIV感染は再び拡大の危機を迎えている可能性が高い。これがおそらく現実です。


 若い世代の研究者、アクティビストの新たな連携による研究、およびその成果を踏まえた対策が進めていけるよう、市川さんには、話を短くまとめる技術を自らに課しつつ、基盤づくりの部分でまだまだ長くがんばっていただく必要がありそうです。

 


2
UPDATE エイズのイメージを変えよう』


 厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する世界エイズデー国内キャンペーンの今年のテーマが『UPDATE エイズのイメージを変えよう』に決まりました。
 http://www.ca-aids.jp/theme/


『治療の進歩を踏まえて「エイズのイメージ」を更新し、新たな予防や支援の枠組みを構築していこう。そんなメッセージです。また、予防、支援、そして治療の普及を妨げる最大の障壁というべき社会的な偏見や差別の克服、誤解の解消はもちろん、最重要の「アップデート」対象です』(コミュニティアクション公式サイトから)


 「UPDATE!」は英文表記となっていますが、ポスターやチラシで縦書きにする必要があるときにはカタカナ表記で「アップデート!」も使用できるということです。

 


3
 保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明


 世界保健機関WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)など12国連機関が630日、保健医療の場における差別解消に取り組むことを約束する共同声明を連名で発表しました。2030年を目標達成年とする持続可能な開発目標(SDGs)を誰も置き去りにすることなく実現するには保健医療場におけるスティグマや差別の解消が必要なことを強調し、とくに以下の6分野で重要度が高いとしています。


    SDG3
:健康と福祉
 SDG4 :質の高い教育
 SDG5 ジェンダーの平等と女性の地位向上
   SDG8
働きがいのある仕事と包摂的な経済成長
   SDG10
:不平等の解消;
 SDG16:平和と公正の実現


 API-Netエイズ予防情報ネット)で共同声明の日本語仮訳pdf版をみることができます。
 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html

 


4 JaNP+
HIV陽性者スピーカー研修
 特定非営利活動法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)が1028日(土)、29日(日)の2日間、東京都内でHIV陽性者スピーカー研修を開催します。参加希望者の応募締め切りは831日(木)必着。応募方法や参加条件はJaNP+の公式サイトでご覧ください。
 http://www.janpplus.jp/project/speaker


HIV陽性者スピーカーとして活動するためには、HIV/AIDSの問題に対する客観的で多様な視点を持つことや、スピーチスキルの獲得、自分をオープンに語ることへの心構えや事前のシミュレーションなど、一定の「準備性」を確保する必要があるとJaNP+では考えており、そのためのプログラムとして「HIV陽性者スピーカー研修」を実施しています。
 多様なスピーカーが多くの人に自身の経験や思いを話すことで、HIV/AIDSを身近な問題としてとらえてもらい、また偏見や差別を解消し、「HIV陽性であっても自分らしく生きていける社会」の実現に貢献できます》

 

 

 

7月は一転して増加 東京都エイズ通信第119号 


 メルマガ東京都エイズ通信の第119号が発行されました。今年に入ってから7月30日までの新規HIV感染者・エイズ患者報告件数は272件で昨年同時期より10件多くなっています。
 6月末段階では昨年の方が18件多かったのですが、逆転しました。とくにHIV感染者報告数がこの1か月で45件も増えています。早期検査の呼びかけに応じて、感染の高いリスクにさらされている人たちが積極的に検査を受けるようになった・・・のかどうか、1か月単位の増減だけでは即断できませんね。もしかすると報告の時期のずれのようなものがあったのかもしれないし、何か他の要因があるのかもしれません。
 あるとすれば、それはどんなものなのか。数字だけ見て、ああでもない、こうでもないといってもしょうがないとは思いますが、どうなんでしょうか。
平成29年1月2日から平成29年7月30日までの感染者報告数(東京都)
  ※( )は昨年同時期の報告数
  HIV感染者           217件  (200件)   
  AIDS患者              55件  ( 62件)
     合計                272件  (262件)
HIV感染者数は昨年同時期を上回り、AIDS患者数は昨年同時期を下回っています。
 
 
 

コンビネーション予防とは エイズと社会ウェブ版277

 性来のものぐさであるうえ、身辺の変化といいますか、退職に伴う個人的な気ぜわしさも手伝って、ずいぶん長い間、中断状態が続いていましたが、ピーター・ピオット著『AIDS BETWEEN SCIEN AND POLITICS』の翻訳を細々と再会しました。その中の一節。コンビネーション予防に関する説明です。
 

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 『コンビネーション予防では数種類の対策を平行して進めなければならない。コンドーム使用の促進、セックスの相手の数を減らすための行動変容、パートナー間の年齢差の縮小、HIV陽性率の高い国における男性割礼手術、曝露前感染予防(PrEP)を含む抗レトロウイルス治療、注射薬物使用者への代替療法や注射針交換といったハームリダクションの方 策、性的暴力やアルコール乱用に対する構造的介入、HIV関連スティグマの解消といった対策だ。それぞれに異なる疫学的状況に即応し、そうした対策を適切に組み合わせていかなければならない。コンビネーション予防の考え方は、感染症対策の分野ではあまり馴染みがなかったが、公衆衛生や社会政策のプログラムでは実は目新しいものではない(注12)。たとえば禁煙や肥満対策のキャンペーンでは使われてきた。HIV予防で重要なことは、それぞれのリスク状況によって効果の高い組み合わせが変わってくることだ。この面ではさらに研究を進めていく必要がある』

 そうだったのかぁ・・・説得力があるなあと改めて思います。本のタイトルは日本語に訳せば『エイズ 科学と政治の間』。ほんのさわりだけですいません。いやあ、勉強になることばかり・・・と訳しながら思います。
 

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 同じ著者の『NO TIME TO LOSE』の時と同じ翻訳チームで取り組んでいるので、チャンスに恵まれれば、皆さんに日本語版をお読みいただける機会がいずれ訪れるかもしれませんね。そのときはよろしく。