個別施策層の表記をどうするか 第4回エイズ・性感染症に関する小委員会傍聴記その3

 4月11日の小委員会で示された改正案のたたき台について、もう少し感想を書きます。前文には個別施策層に言及したくだりがあります。外国人を対象から外したかたちで別途、記載すべきか、あるいは引き続き個別施策層に含めるべきか。この点については、第4回小委員会傍聴記の最初に書きました。そちらをご覧下さい。

 今回はMSMをめぐる議論です。まず、現行指針のおさらいをしておきましょう。個別施策層について、現行指針は次のように説明しています。

《感染の可能性が疫学的に懸念されながらも、感染に関する正しい知識の入手が困難であったり、偏見や差別が存在している社会的背景等から、適切な医療保健サービスを受けていないと考えられるために施策の実施において特別な配慮を必要とする人々をいう》

 具体的には以下の5集団が対象として示されています。

 ・性に関する意思決定や行動選択に係る能力の形成過程にある「青少年」

 ・言語的障壁や文化的障壁のある「外国人」

 ・性的指向の側面で配慮の必要な「MSM(男性間で性行為を行う者をいう)」

 ・「性風俗産業の従事者及び利用者」

 ・静注薬物使用者を含む「薬物乱用者」

 改正案のたたき台では、このうち「青少年」と「外国人」を個別施策層から外す意向が示され、その是非をめぐる議論があったことは前に書きました。

 「MSM」に関しては記述のしかたが以下のように変わっています。

 《性的指向のマイノリティ(例えば男性間で性的接触を行うもの(men who have sex with men)。以下「MSM」という)》

 カテゴリーとしては「性的指向のマイノリティ」とし、MSMはその一例であることを示すという考え方です。この点について、参考人からは再考を促す2つの指摘がありました。

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 (すいません、再登場していただきました)

 一つは、「性的指向のマイノリティ」とするよりも、HIV感染の予防対策の観点から「MSM」という対象を明確に示した方がいいということ。

 そして、もう一点は、対象の明確化をはかるのなら、「MSM」に加え、「トランスジェンダー」を含めるべきではないかということです。

 う~ん、そうか・・・と、おじさんはひとり、傍聴席で腕を組み、額の左横あたりにたらりと汗を流しつつ、(つまみ出されないように心の中で)うなってしまいました。どっちがいいんだろうと判断がつきかねたからです。

 先ほどの《感染の可能性が疫学的に懸念されながらも・・・》という定義からすれば、「性的指向のマイノリティ」といった表現よりも、「MSM」「トランスジェンダー」を対象として明確化した方がいい。

 ただし、性的少数者が直面する現在の社会の中での生きにくさを重視し、その「社会的背景等」に果敢に切り込むことこそが、効果的な予防対策の基盤となるという観点にたてば、ここは「性的マイノリティ」を強調したい。

 生半可な知識しかなく、間違えているかもしれませんが、トランスジェンダー性的指向というより、性自認に関わる問題なので、その場合は「性的指向のマイノリティ」とするより「性的マイノリティ」とする方がいいのではないか・・・。

 う~む。傍聴席で力んでもラチがあきませんね。どうも判断がつきかねます。「個別施策層」の観点からすると前者かなあ・・・と思う一方、そもそも個別施策層という用語は1999年に最初の予防指針ができたときに採用されたもので、その後のHIV/エイズ対策の変遷を考えると、新しい用語で再定義をはかるといった作業があってもいいのではないか・・・。

 国際的な動向を見ていくと、個別施策層は1999年当時、バルナラブルポピュレーション(HIV感染に対する脆弱性が高い層)と呼ばれる集団に対応していました。

しかし、バルナラブル(脆弱)なという表現はその後、しばしば変更され、MARPs(Most At Risk Populations最も高い感染リスクにさらされている層)、KAPs(Key Affected Populations 大きな影響を受けている層)などを経て現在はキーポピュレーションと呼ばれています。

 感染しやすいとか、影響を受けているとかいったニュアンスに加えて、闘いの成否の鍵をにぎる人々といった側面が重視されるようになっているわけですね。

 こうしためまぐるしい呼称の変遷は、記事を書く立場からするとちょっと困ったものではあるのですが、一方で現状把握のための重要な手がかりにもなります。治療の進歩によって社会的背景等への対応は必要なくなるどころか、ますます重要になっているとの認識が深まった結果ではないかと考えられるからです。

 とはいえ、予防指針の個別施策層はこの際、別の言葉に変えた方がいいのではないの・・・といった「そもそも論」的な議論をここで蒸し返しても、いたずらに混乱を招くばかりでしょう。

 ここはひとまず、予防指針上では個別施策層のままにしておき、コンセプトをめぐる議論は11月のエイズ学会などの場で、並み居る論客の皆さんに宿題として思う存分やっていただくという考え方を取るのが得策ではないかと思います。

 そうなると、改正指針では「MSM」「トランスジェンダー」の併記かなあ(あくまで外野席からの感想)。

本命は自己検査? 『HIV検査革命』続き

 コメント集の中で、ミシェル・シディベUNAIDS事務局長は『HIV検査は保健医療施設からコミュニティへと移していく必要があります』と語り、ジンバブエの保健大臣が『自己検査のような新たな形式の検査を導入すれば、最初の90は実現できるのです』と自己検査に言及しています。どうもこのあたりが『検査革命』の目指すところでしょうか。
 HIV自己検査については、WHOが昨年11月29日、推奨するガイドライン(Guidelines on HIV self-testing and partner notification)を発表しています。当ブログでもそのニュースリリースを日本語仮訳で紹介してあるのでご覧ください。 

miyatak.hatenablog.com

 またHIV自己検査推奨のPolicy Brief(政策解説)は日本語仮訳版API-Netでダウンロードできます。国内向けには一応、前置きが必要ということで、できれば当ブログ掲載の紹介記事からご覧下さい。

 WHOが推奨し、UNAIDSの専門家委員会が動き、次は7月のIAS会議ということで、世界の流れが作られていく感じでしょうか。

『HIV検査革命』を提唱 UNAIDS科学技術専門委員会

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の科学技術専門委員会が4月9、10日に会議を開き、2020年の90-90-90ターゲット実現に向けて「HIV検査革命」の必要性を強調する勧告をまとめました。そのプレスリリースの日本語仮訳です。

 HIV検査の革命とは何か。リリースを読むと、新たな検査技術の進歩を受け、検査の主体を保健医療施設からコミュニティに移すということのようです。

 委員会は勧告でUNAIDSに検査革命に向けたロードマップをまとめるよう求め、7月の次回会議で検討するとしています。おそらく次回はパリの第9回国際エイズ学会HIV基礎研究・治療・予防会議(IAS2017)にあわせて開かれるのでしょうね。

 巻末のコメントなどを見ると主にアフリカを念頭に置いた議論が展開されている印象ですが、日本でも例えば、新宿二丁目のコミュニティセンターaktaで行われていたHIVCheckのような先進的事例もあります。「革命」の波はすでに押し寄せているといいますか・・・。

 

www.unaids.org

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HIV検査革命を提唱 UNAIDS科学技術専門委員会  2017年4月13日

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の科学技術専門委員会(STAC)の参加者はUNAIDSに対し、世界がHIV検査革命に積極的に取り組むよう指導力を発揮することを求めた。2020年までにHIV陽性者の90%が自らの感染を知るようになることが目標だ。

 委員会は4月9、10日の2日間、ジュネーブで90-90-90ターゲットの中間検証会議を開催し、出席者らはその中で、ウイルス量抑制を妨げる最大の要因はHIV診断の遅れであるとの報告を受けた。検査の新規技術は開発されているものの、それを生かすにはHIV検査サービスを必要とする人たちに届けられるプログラムが必要になるからだ。

 個人のリスク認識の欠如、スティグマ、法的・社会構造的な障壁、検査施設までの旅費など関連する費用、そして症状がない状態でHIV感染を知っても意味がないという思い込みなどが検査普及を妨げる大きな障壁となっている。保健施設での検査を避ける人が多いという報告もあった。施設に行くのに時間がかかったり、待ち時間が長かったりするからだ。若者や男性、キーポピュレーションの人たちが検査サービスを受けにくいと感じることも多い。

 HIV検査のための財政的支援を大きく増やすこと、HIV検査サービスの中心は保健医療施設からコミュニティに移す必要があることに会議の参加者は合意した。そのコミュニティ中心の検査拡大戦略では、コミュニティワーカーが重要な役割を担っている。STACはUNAIDSに対し、7月の次回会議までにHIV検査革命に向けたロードマップを作成するよう勧告し、次回会議でその検証を行うことにしている。

 また、勧告ではHIV対策を持続可能な保健の広範な課題とつなげるために90-90-90ターゲットを活用することもUNAIDSに求めている。HIV検査サービスが他の健康上の問題のスクリーニングのためのプラットフォームになるとの認識からだ。90-90-90ターゲットを達成するための動きが保健医療分野の人材不足に取り組む機会となることもあわせて指摘している。

 

コメント集

 現状に満足してはいけません。確かにエイズ対策は大きな成果をあげてきましたが、それでもまだ、やらなければならないことがたくさんあります。とりわけ取り残された人々への対応は重要です。

ダイアン・ハブリア UNAIDS科学技術専門委員会共同委員長、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部教授

 

HIV検査革命は私たちが取り組むべき大きな課題です。若い男性にHIV検査サービスを届けることにもっと力を入れなければなりません。HIV検査は保健医療施設からコミュニティへと移していく必要があります。

ミシェル・シディベ UNAIDS事務局長

 

 治療提供の規模拡大ペースを速める必要があります。2015年には240万人が新たにHIV治療を受けられるようになりました。2013年と14年はあわせて220万人でした。新たに治療を開始する人が年間300万人ずつ増えれば、2020年までに3000万人にHIV治療を提供するという世界目標を達成することができます。

 シャロナン・リンチ STAC委員、国境なき医師団HIV/結核政策顧問

 

 人口に占めるウイルス抑制の割合は、90-90-90の成果を見る究極的な指標です。優先課題として、抗レトロウイルス治療を受けている人のウイルス量を確実にモニタリングする必要があります。

 マックス・エセックス STAC委員、ハーバードエイズ研究所長

 

 ジンバブエで現在の検査率が続けば、最初の90は達成できません。しかし、検査モデル推計によると、自己検査のような新たな形式の検査を導入すれば、最初の90は実現できるのです。

 オーウェン・ムグルンギ ジンバブエ保健・児童ケア相

 

 マラウィでは男性と若者のウイルス抑制率が極めて低い。抗レトロウイルス治療を受けていないからです。

 アンドレアス・ジャン マラウィ保健相

 

 

 

 

UNAIDS Scientific and Technical Advisory Committee calls for HIV testing revolution

          13 April 2017

 

The participants of a meeting of the UNAIDS Scientific and Technical Advisory Committee (STAC) have called on UNAIDS to lead global efforts to galvanize an HIV testing revolution. The target is to achieve 90% of people living with HIV knowing their HIV status by 2020. In 2015, only 60% of people living with HIV knew their HIV status.

 

In a mid-term review of progress towards the 90–90–90 targets, held on 9 and 10 April in Geneva, Switzerland, the participants heard that late HIV diagnosis represents the single greatest barrier to increasing rates of HIV viral suppression globally. New testing technologies have emerged, but programmes must reach the people who need HIV testing services.

 

Key barriers to HIV testing uptake include lack of individual awareness of risk, stigma, legal and structural barriers, associated costs such as travel to facilities and the perception that there is little benefit from diagnosing HIV infection if no symptoms are present. The participants heard that many people avoid seeking HIV testing services at health facilities, since both travel and waiting times can often be long. Barriers to testing are often experienced by young people, men and members of key populations.

 

The participants agreed that political and financial support for HIV testing must be significantly increased and that the central focus of HIV testing services should be moved from the health facility to the community. Community workers have a critical role in scaling up these community-centred strategies. The STAC recommended that UNAIDS develop a road map for the HIV testing revolution, for review and comment by the STAC at its next meeting in July.

 

The STAC recommended that UNAIDS emphasize leveraging the 90–90–90 targets to better link the HIV response to the broader agenda for sustainable health. It was noted that HIV testing services provide a platform for screening for other health problems. Likewise, momentum towards the 90–90–90 targets also offers opportunities to address health workforce shortages.

 

Quotes

 

We need to be discontent. Although we have made considerable progress in our response to AIDS, we have much more to do, especially for those who are being left behind.

Diane Havlir UNAIDS STAC Co-Chair and Professor of Medicine, University of California, San Francisco

 

 

The HIV testing revolution must be a major element of our agenda. We must do a better job of reaching young men with HIV testing services, and we need to move HIV testing from the facility to the community.

Michel Sidibé Executive Director, UNAIDS

 

We need to increase the pace of treatment scale-up. We added 2.4 million new people on HIV treatment in 2015, in both 2013 and 2014 the increase was 2.2 million. If we could increase annual enrolment in HIV treatment by 3 million, we could reach our global goal of having 30 million people on HIV treatment by 2020.

Sharonann Lynch UNAIDS STAC Member and HIV/Tuberculosis Policy Adviser, Médicins Sans Frontières

 

The rate of complete viral suppression in the population is the ultimate indication of how well we are doing with 90–90–90. We need to prioritize, ensuring that people on antiretroviral therapy receive viral load monitoring.

Max Essex UNAIDS STAC Member and Chair, Harvard AIDS Institute

 

If we continue with the current rate of testing in Zimbabwe, that will not get us to the first 90. However, modelling indicates that we can reach the first 90 if we implement new forms of HIV testing, such as HIV self-testing.

Owen Mugurungi Ministry of Health and Child Care, Zimbabwe

 

Males and younger people have much lower rates of viral suppression in Malawi. Much of that is driven by their lower rates of antiretroviral therapy uptake.

Andreas Jahn Ministry of Health, Malawi

郵送検査をどう考えるか 第4回エイズ・性感染症に関する小委員会の傍聴記その2 

 4月11日の第4回エイズ性感染症に関する小委員会の傍聴記の続きです。厚労省の公式サイトには、エイズおよび性感染症のそれぞれの予防指針改正案について、資料として当日、配布された「たたき台」がアップされました。 
 『検査・相談体制』の項を見ると、『郵送検査』に関する記述が新たに加えられています。
 『近年、郵送検査の利用数が拡大しているが、郵送検査のみでは、HIVへの感染の有無が確定するものではないため、国は、郵送検査の実施後、医療機関等への受診に確実につなげる方法等について検討する必要がある』

 委員会後の報道でも、この点がとくに取り上げられています。たとえば《HIVの郵送検査、10年で3倍超 顔合わせず可能》(朝日新聞
 http://www.asahi.com/articles/ASK4C5JPWK4CULBJ00M.html
 《保健所などで実施されるエイズウイルス(HIV)検査の利用件数が伸び悩むなか、民間企業の郵送検査の利用件数が、10年間で3倍超に増えたことがわかった。保健所職員らと顔を合わせずに検査できることなどが理由とみられる》
 《厚生労働省は11日、有識者でつくる小委員会で、エイズの予防や蔓延防止のための指針に、郵送検査を盛り込む方針を示した》

 今回は少し個人的な感想を含め、その郵送検査について取り上げます。
 郵送検査はさまざまな疾病に対してすでに実用化されており、HIV/エイズ対策の中でも、「なかなか検査を受ける機会のない人」「検査に踏み切れないでいる人」に向けた検査普及の選択肢として期待されています。需要も増えています。これはその通りだと思います。
 一方で、予防指針ではこれまで、あたかも存在しないかのごとく記述が避けられてきました。取り上げにくい事情というのもあったのですが、改正案のたたき台では、HIV検査の普及を進める際の選択肢の一つとしてその存在を認め、課題に対応する姿勢を示しました。この方が施策としてははるかに現実的だし、有効だと思います。
 そうしたことを認めた上での話なのですが、たたき台にも、先ほどの記事にも触れられていなかったので、ここではあえて「取り上げにくい事情」の一つを取り上げます。
 それは、検査を受ける本人が自ら血液サンプルを郵送し、検査結果が直接、きちんと本人に届けられているか、という問題です。

 『自発的な意思決定に基づいて検査を受け、その検査結果は直接、本人に伝えられる』

 それはHIV検査をめぐる極めて本質的な課題でもあるからです。この点はどうなのか、きちんと対応できているのかどうか。個人的にはその疑問に対する答えがうまく見つけられず、いつも「このままでいいのだろうか」という壁に突き当たってしまいます。
 他の人の血液サンプルを一つの組織ないしはグループが集め、それをまとめて郵送検査を行っている会社に送る。検査の結果は本人ではなく、そのグループを統括する立場の人または組織にまとめて返され、本人よりも前にその結果を知ることができる。
 そうしたことが検査件数の拡大の背景にあるとすれば、残念ですが推奨はできません。
 一方で、現実を直視すれば、すでにかなりの規模で普及、拡大している検査の選択肢をないものとすることもできない相談です。検査を受ける人にとっての『顔を合わせないで可能』という心理的利便性も無視はできません。

 課題解決のための努力はすでに、郵送検査会社も含め、エイズ対策担当者や研究者の間で進められてはいますが、なかなか議論うるぐるとまわってしまい検討が進んでいないようにも見受けられます。何とかしたいという意思は存在しているだけにその努力が実を結ばない現状は残念でもあります。
 突き放した言い方で恐縮ですが、名実共に信頼度を高め、検査普及の有力な選択肢の一つとして位置づけられることを期待しています。

 

リスとおじさんの微妙な無関係 和田塚駅頭にて

 さすがに今日はもう、コートはいらないかな。暖かくなりましたね。江ノ電和田塚駅のホームも、すっかり春の日射し。

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 ん? 電線と木の枝の交差するあたりで何かが動いています。さすがに暖かくなると・・・。

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 リスでした。新芽を食べているのか。のどかですね。でも、立場が変わると評価は害獣になるかもしれません。微妙です。

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 電車が来ました。残りわずか。害獣と言われないよう、控えめに働くぞ・・・と、おじさんは春のリスにいたく共感しつつ乗車し、リスは我関せずと電車をやり過ごしていました。

「はじめに」で綴るエイズ対策史 その6 (2010年8月~2010年11月)


 TOP-HAT FORUM(東京都HIV/AIDS談話室)の公式サイトの資料室欄に《「はじめに」で綴るエイズ対策史 その6(2010年8月~2010年11月)》を掲載しました。

 《「続けよう」》(第24号 2010年8月)
 《シディベ氏、東京を走る》(第25号 2010年9月)
 《デフレに負けないキャンペーンを》(第26号 2010年10月)
 《メッセージをどう受け止めるのか》(第27号 2010年11月)

 前口上の部分だけ当ブログに再掲しておきます。

 12月1日の世界エイズデーを中心にした国内キャンペーンのテーマはどのようにして決まるのか。2010年はそのプロセスを明確にする試みが開始された年です。そのプロセスの最初の成果として生まれた2010年のメッセージが『続けよう』でした。
 試行錯誤のプロセスはいまも続いています。当時と比べても、最近はHIV/エイズに対する社会的な関心の低下が一段と進んでいる印象を受けます。ただし、何度も繰り返しますが、社会が関心を持たなくなれば、HIV/エイズの流行はおさまるとか、HIVの感染はなくなるというわけではありません。むしろその逆です。
 それでもなお、わが国の新規HIV感染が横ばいの状態を何とか維持し、微減ではありますが、減少の傾向を見せ始めているように感じられます。それはHIV/エイズ対策の現場でたくさんの方が(社会全体から見れば少数だけれど、全国のたくさんの方が)持続的な活動を続けてこられたからです。
 皆さんのそうしたご苦労は、9月に来日した国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長にも理解していただけたように思います。
 ひたひたと迫り来る無力感に抗しつつ、今年もまた、テーマ策定に向けた作業が始まります。

 詳しくはこちらで。


2020年目標は90-90-90なんだけど

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに90-90-90治療ターゲットの特集ページがあります。ただし、90-90-90は、2020年までにHIVに感染している人の73%が抗レトロウイルス治療継続の結果として、体内のHIV量を検出限界以下の状態に保てるようにすることが目標です。

 ただし、UNAIDSによると、現状は38%にとどまっています。図の一番右にある未完のレッドリボンの状態ということですね。予防指針の議論の参考にもなると思うので、説明部分の日本語仮訳を図の下に付けておきます。

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90-90-90 | UNAIDS

 90-90-90:すべての人に治療を

 世界のHIV陽性者は3670万人

 しかし、自分の感染を知っている人はそのうち60%。

 残りの人は自らの感染を知らない。

 治療を受けているHIV陽性者は全体の半数以下。

 体内のHIVが検出限界以下のレベルにある人は38%にとどまっている。

 

 90-90-90 治療ターゲット

 2020年までに3000万人に治療を提供する。

 HIV陽性者の90%が自らのHIV感染を知る。

 感染を知った人の90%が治療を受ける。

 治療を受けている人の90%がウイルス量を検出限界以下に抑える。